第57話
恥ずかしい姿をセシルに見られ、私はミヤの腕の中で暴れた。しかし、ミヤの懐かしい姿を見るセシルは私の事などきにしていなかった。
少しして私は許しを得た。元の姿に戻ると、ミヤも同じようにそうした。
「何故このようなことに?」
「セレスティアが友人を殴ろうとしていたからじゃ」
「あれはシャノンが吹っかけて来たから……」
「だとして大人気ない……
「しかし、人間はいつでも神の裁きを受けるじゃないですか!」
私はそう言うと、ミヤに平手打ちをされた。
「だからと言って、友人にもし何かあればどうする? お前が本気を出せばどうなるか、わかっておるじゃろう?」
「それは……」
私は口籠もり、ミヤは私をそのまま置き去りにし、極東へ帰った。
「姉上……」
「ごめんね。ちょっと一人になりたい」
私は天界にある自分の神殿に帰った。
「セレスティア様!?」
「ルカ……私の玉座で寛いでるなんていい度胸じゃない」
「こ、これは……」
天界での私の侍女であるルカは玉座の上で踏ん反り返っていた。
彼女は慌てて玉座から降りると、私に頭を下げた。
「まあ、ずっと留守にしていたわけだし、温めてくれていたのよね?」
「そ、そうです。それです!」
「それですって……そう言ったら違うみたいじゃない」
私は笑いながらそう言うと、気まずい空気が流れた。
ルカは、急いでお茶の準備をし、私は玉座に足を組んで座った。
ここからの景色は本当に久しぶりだ。
「あ、そう言えば一人人間から天使が生まれたから」
「そうなのですか?」
「ええ。ハナっていう子なんだけど、まだ魔法とか使い慣れていないから下界の魔法の学校に通わせてるの」
「その……セレスティア様、下界はどうですか?」
もう一人の侍女であるリカがそう訊ねてくる。彼女はルカと双子で、ルカが妹で、リカが姉だ。二人とも薄い水色の髪を肩くらいの長さで切り揃え、前髪を流し色違いのお揃いのヘアピンで止めてる。うまいことで、右に前髪を流しているのがリカで、左に流しているのがルカだ。
「しばらく眠っていたとセシル様からは聞いていましたが……大丈夫だったのですか?」
「まあね。ほら、私って拗ねて力を封印して下界に降りたじゃない。ジェダがちょっかいかけたバハムートにも劣るくらいの力しか出せなくてね。下界で暴れてたから魂を使って封印したのよ」
「それで眠りに……」
「そう。で、その時の魂の欠片でなんとか再生しようとして四百年も眠っていたわ」
「大変でしたね」
ルカはそう言ってティーカップにお茶を注ぎ入れる。
「これって極東の……ヒノモトのお茶かしら」
「はい。ミヤ様が献上品を貰ったからとお裾分けいただきました」
「へぇ……」
私はこちらで飲むお茶とは違う緑がかった液色のお茶を一口啜る。
「なるほど。茶葉の味がそのまま出ている感じね」
「はい。向こうのお茶は発酵させずに飲むか、少し焙煎して飲むことが多いらしいです」
「いいわね。うちにも欲しいわ……」
ルカはまだ新しい物もあると、お土産に持って来てくれた。
「お土産って、一応私の家なんだけど」
「下界の方々にと……」
「そうね。ハナは喜ぶでしょうね」
私はしばらく神殿で寛いでから下界に戻った。
「そうだ、あなた達暇だったら下界に来る?」
「そんな……無理ですよ私達では」
「ああ、そっか」
下界に降りれる天界人は限られている。私やセシル、ジェダやミヤは神という位なので下界に降りても人間の姿になるだけで、自由に行き来ができる。
しかし、天界人の中でも平民と呼ばれる神に仕える位の者は下界に降りると動物の姿になってしまう上に、上位の者に天界へ連れ帰ってもらわないといけなくなる。
「ルカとか犬になってくれたら飼ってあげられたのに……」
「どうするんですか、豚とか牛になっちゃったら!」
「その時は……」
「食べないでくださいー」
「まあ、修業して昇進したらいつでもおいでよ。私もなるべく帰ってくることにするし、ハナも紹介したいし」
「はい。いってらっしゃいませ」
下界に戻り、姿をセレーナに戻すともぬけの殻になった模擬戦場で一人取り残されてしまっていた。
「もうお昼も終わってるか」
教員室へ戻り、教材を持って教室に向かう。
騒がしい教室を一喝して静かにすると、私はシャノンから謝罪された。
「いいから、授業始めるよ」
私は淡々と授業を始めた。
魔法について、座学で教えるには限界がある。スポーツと同じで実際動いてやってみないと感触が掴めないからだ。
だが、ある程度の理論を知っておくのも大事で、私は殆んどハナに向けての授業をしていた。
「とまあ、飛行魔法はこんな感じ。皆んなすでに使ってると思うけど、理論で言えばこうなってるの。魔法式の組み立て方をしっかり学べば固有魔法も使えるようになるかもだけど、リスクを伴うわ。あまりおすすめはしない」
授業の終わりを知らせる鐘が鳴ると、私は本を閉じ「今日はここまでね」と告げて教室を出た。
「あの、セレナ様!」
「ハナ、どうしたの?」
「その……飛行魔法の練習をしたいのですが……」
「もちろん、付き合ってあげるわ。あ、その前にお茶にしない?」
私は教員室へハナを連れていき、炊事場でお湯を沸かし、お茶を淹れた。
「この香り……」
「そう、ヒノモトの茶葉が手に入ってね」
「懐かしいです」
「ならよかった」
お茶を飲むハナは、少し涙ぐんでいるように見えた。祖国を懐かしむように香りと味を楽しんでいた。
「それじゃあ、外に行きましょう」
「はい」
お茶道具を片付け、運動場へ出ると自主練習をしている生徒に紛れて私とハナは飛行魔法の練習を始めた。
「極東方面だと箒に跨ったりすることが多いと思うけど、あれは魔術ね。厳密に言えば箒を浮かべてそれに乗っているの。で、こっちでいう飛行魔法は自分の体を浮かせて移動させるの」
「はい……」
「まずは少し浮いてみましょうか」
私はお手本で数センチだけ浮いて見せる。
それに倣うようにハナは目を閉じて体を浮かせる。
「わああああ!」
力加減を間違えたハナはあっという間に空高く飛んでしまった。
私はそれにあっさり追いついて、ハナの体をキャッチした。
「魔力の加減はやっぱりまだなれていないわね」
「はい……」
「恐らく、天使の力もあって普通の人間より力が大きいから難しいんだろうね」
「そうなんですか?」
「例えば馬車を一頭の馬で引くのが普通だとしたらハナは十頭くらいの馬で引いてるようなものと思ってもらっていいわ」
「なるほど……」
地面に着地して、ハナはもう一度力を込めて体を浮かせた。
「少しだけ……少しだけ」
体を少しだけ浮かせると、嬉しそうにした拍子にまた空高く飛んでしまった。
「もう……」
「すみません」
また体を受け止めつつも、上空でハナに体を浮かせてみるように指示した。
「ここでですか!?」
「下は見ないの」
「うう……」
「ちゃんとしないと落ちちゃうよ?」
「……」
ハナは目を閉じて体を浮かせた。
「そうそう。降りる時は力を少しだけにして、重力に身を任せるの」
「なるほど……」
「ほら、気を抜いたらまた浮いてるよ」
「はい!」
私はハナの体から手を離してみた。少し慌てていたが、なんとか立て直して体を浮かせて見せた。
「よし。なんとなく浮く感覚は掴めた?」
「はい。重力に逆らう感じに……」
「そう。そもそも体は常に地面に向かって押さえつけられてるから、それを上回る浮力があれば体は浮くの。あとはその調節を覚えれば、高さの調整はできるはずよ」
「わかりました」
一旦地表まで降りてから、次は横移動の練習に取り掛かった。
「浮く時は体を地面から浮かせるイメージだけど、移動する時は体を押すイメージね。例えば前に進む時は背中を押す感じ」
「わかりました……こうですね」
「そうそう、上手いじゃない」
「こうして……」
ハナはあっさりとその場で飛び回ってみせ、私も上達速度に驚いた。
「それじゃあ、練習コースがこの学院にはあるからそこで練習してみましょうか」
「コースですか?」
「ええ。まずは私について来てくれたらいいから」
私達は場所を飛行魔法レースの練習コースに移した。
丁度、競技大会で飛行レースに出場したエリンがそこにいたので、ハナに手本を見せてもらえないか頼んだ。
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