第27話
魔法技能大会当日、私は教員席で大会の様子を見守っていた。
エリンが飛行レースを大会記録を塗り替える速さでゴールし、私は大盛り上がりしていた。
もちろん、昨年出した私の記録には及ばないが、これまでの私の記録は全て抹消してもらった。
アイリスが出場するマジックアーチェリーが始まると、私は望遠魔法でその様子を見守り、これまた新記録を出すと私は大喜びだった。
そして最後の種目の、クラス対抗リレー。選抜された五名でゴールを競うものだ。
「しかし、この種目だけ魔法は禁止というのは面白いですね」
「純粋な足の速さを競うのも面白いでしょう。魔法師は時に、身体能力も問われますから」
学院長がそう言うと、私は自分のクラスの応援をした。
第一走者はフローレンス。魔法陸上部所属で魔法なしでも足が速い。
そして第二走者はサリー。悪戯をした時の逃げ足の速さが評判だ。
次に第三走者はリジー。彼女もサリーと同じく、逃げ足の速さに定評がある。
続く第四走者はアイリス。王宮暮らしの王女も足は早い、らしい……。
そして最終走者はシャノン。恐らく、身体能力では学院トップだろう。持久力もあり、これは優勝狙えるか。
「解説ありがとう、ルティス」
「他のクラスのも言おうか?」
「いいよ、うちのクラスだけで……」
スターターが合図を出し、リレーが始まった。
フローレンスは後方スタートとなり、トラックを半周走るが最初のコーナまでは体力を温存するつもりだろう。
第二コーナーあたりでスパートをかけると、一気に抜き去り、直線一気に駆け抜けると、一番手でバトンを繋いだ。
サリーとリジーも難なくバトンを繋ぎ、アイリスがバトンを手に走り出した瞬間、アイリスの手からバトンがこぼれ落ちてしまう。急いで拾い直し再スタートを切ったが、一気に最高峰まえ順位を落としてしまった。
「アイリス!諦めないで!」
私は自然とそう叫んでしまい、隣で見ていたルティスは驚いていたが一緒になって応援をし始めた。
結果三番手と僅差の四番手でバトンを最終走者であるシャノンに渡した。
「うおぉー!」
雄叫びを上げながらシャノンはスピードを上げると、三番手まですぐに順位をあげた。そのままスピードをキープしたままコーナーを曲がり切ると、最終直線、前の残り二人を一気に抜き去り、そのままゴールテープを切った。
「よっしゃー!」
喜ぶシャノンと泣きながら感謝をするアイリス。他の三人も輪を作りはしゃいでいた。
「これは、いいものだな」
「ね。いいよね」
「主人も参加したかったのではないか?」
「去年まではね、参加してたけど、この種目は今年からだから……」
「魔法を使わない競技だから、出れたのではないか?」
「あ……」
私としたことが見落としていた。
「なんでもっと早く言ってくれないの!」
「あ、主人のことだから気づいていながら一歩引いたのかと思ったんだ!」
「この馬鹿ドラゴン!」
「誰が馬鹿だ!この馬鹿女神!」
「あー、神に向かって何言ってるの? カエルにでも変えてやろうかなぁ」
「ぐっぬぬ……」
私達の犬も食わぬ喧嘩をわざわざ仲裁する学院長。
「まあまあ……確かに、セレナ君はリレーに出られたかもしれん。それを言うならルティス君も同じではないか?」
「あ、確かに。学院長の言う通りだわ。ルティスは勿論、気づいていながら言わなかったってことよね?」
「うっ……」
ルティスは誤魔化すようにそう言って黙り込んだ。
「図星か」
「うるさい」
「もう……さ、最後の結果発表よ」
結果は学年優勝と縦割りの色別の組でも優勝を飾った。
「やりましたわね」
「ああ!最後のアイリスにはどうしようかと思ったけどな!」
「それは言わないでください!」
喜ぶ皆んなの輪に、私は入れなかった。
「主人……?」
「ううん、いいの。これで……」
「セレナ!」
シャノンが私に飛びつくと、アイリスや他のクラスメイトが駆け寄ってきた。
「セレナの教えがあったからです。あれ以来、魔法の上達スピードが上がったんですわよ」
「そんなこと……それに一番大事な時期にいなかったし」
「それについてはしっかりとお詫びをしていただくつもりです」
「ええ……」
「観念しろ主人。これが人の子と言うものだ。勝利の女神様よ」
「ルティス、あんた後で覚えておきなさいよ」
その後、私達は祝勝会をする場所決めをすることになったが、いい案が思い浮かばずにいるとアイリスが王宮を使うかと提案してきた。
「いくらなんでも……」
私がそう言うと、クラス中から行ってみたいと言う声が上がり、アイリスが確認を取ると晩餐会用の部屋が使えるとのことでそこで祝勝会ならぬ晩餐会を開くことになった。
「ドレス、着なきゃダメかな」
「どうしよう持ってないや……」
そう言う声が聞こえ、アイリスはそこは学院の制服で構わないと言い、十八時に城の門の前に集合となった。
「ルティスと対抗リレー、私達出れたなって言ってたんだけどね」
「出ればよかったじゃん」
「そうですわ。あなたはともかく、ルティスならぶっちぎりで一位でしょうね」
「アイリス、サラッと酷いこと言ったね」
アイリスは笑いながら、私を避けるとシャノンがスッと私の側に寄ってきた。
「なあ、アイリスには言わないのか?」
「言えばショック受けると思う。だって私の血族だと思ってるんでしょ? そもそも、私の力は魂からのもので遺伝するものではないから……」
「どうかされましたか?」
「いやー何でも……シャノンの恋バナだよ」
「そうそう!最近、気になる奴がいてさ……」
「ほう、それは誰だ? 私で良ければ間を取りもつぞ」
「ルティスには無理でしょ」
「先週読んだ本の通りにすればいいはずだ。私にもできる」
シャノンは訝しみ、ルティスにどんな本を読んだか訊ねた。
「平民の娘が憧れの王子と結ばれる話だ」
「それは……最後まで読んだ?」
「いや、途中で読むのをやめているが……」
「じゃあ、ネタバレになるから言わない」
私はそう言うと、ルティスは不思議そうな顔をして首を傾げた。
城の前に到着し、アイリスに一旦の別れを告げ、私とシャノンは各々の家へと向かった。
「主人はいつまでこの生活を続けるつもりだ」
「そうね……結局、邪神の心配もなくなったわけだし……どうしようかな」
「退屈な人生になりそうだな」
「そうでもないよ」
私はそう言うと、石畳みに足を引っ掛け転んだ。
「大丈夫か?」
「ね、何かあるでしょ。こんな些細なことでも天界にいれば経験できないことだから」
「そうか……それでいいのか」
自宅に戻り制服を着て城の門前へ向かった。
「皆さんお集まりいただきありがとうございます」
集まったクラスの皆んなは王宮に入るのにかなり緊張してたが、私とシャノンとルティスは緊張感なく欠伸をしていた。
門が開くとわざわざ侍女達が案内してくれ晩餐会場へと入った。
「お久しぶりです。セレナ様」
「ああ、あの時の!その際は、ご迷惑をお掛けしました」
「いえいえ。お変わりないようで、懐かしかったです」
その侍女はそう言い残し姿を消した。
「私、今幽霊見たかも」
「幽霊って人が考えたまやかしではないか」
「いま話しかけられたけど、その人話し終えるとスッと消えたんだけど!」
「騒ぐな、主人よ。主人も、神だろうが」
「ああ、確かに」
「セレナ、早くグラスを持ってください」
アイリスに言われ、急いでグラスを持ち音頭と同時に皆んなとグラスをぶつけ合った。
軽やかな音が鳴り響くと、それが祝勝会の始まりの合図だ。
賑やかな祝勝会から少し距離を置き、ルティスが取ってきた料理をバルコニーに出て二人でつまんでいた。
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