第25話

 面子はルティスと姉のエリゼ、それに私の三人だ。

 久しぶりの里帰りと言うこともあり、少し緊張気味のエリゼと、久しぶりにドラゴンの姿で空を飛べて嬉しそうなルティス。

 ドラゴンになったルティスにエリゼは驚いていたが、意外と御伽話に憧れを持っていたので、あっさり受け入れていた。

 ルティスの背に乗ってあっという間にロビンソンに着き、とりあえずロビンソン最大の都市であるジャイルズに入った。


「邪神教徒って皆んな黒フードを被ってるの?」


「あれはうちのところだけ……」


「いい趣味してるね」


 私は揶揄いながらそう言うと、美味しそうな匂いにルティスが引き寄せられていたので、仕方なくそれを買い昼食にした。


「追放された身でロビンソンに来るのは気持ちいいね」


「そっか……私、それも知らないや」


「うん。追放されてそこで王女のアイリスに拾ってもらって……そこから魔法学院に入ってって感じ」


「よかった……と言った方がいいのかもね。あの村に居たら……」


「それにしても、何故殺さなかったのかが不思議よね。いくらでもチャンスは合っただろうし……」


 私がそう言うと、エリゼは驚いて持っていたフォークを落とした。


「あなた、覚えてないの?」


「え?」


「父さんがあなたに鍬を振り下ろした時、それをあっさり受け止めてしまったの。それから、殺すことができないからって、ああいう扱いになったのよ」


「そうなんだ……」


 私はフォークをエリゼに渡すと、エリゼはそれを受け取り食事を再開した。

 私は昔のことを思い出そうとすると、頭が痛くなりやめた。

 食事を終え、街の中でそれらしき宗教集団がいないか聞き込みをしたが手応えはなく途方に暮れた。


「まあここは普通に神の教会も立派なのあるし、根付かなかったんだね」


「そうね。やっぱり……村の方かしらね」


 私達は生まれ故郷であるリオーラへ向かった。

 距離はさしてないので、丁度荷馬車が村へ向かうとのことだったので、乗せてもらうことにした。


「飛行魔法で行けばよかったのに」


「こうした方が、風情があるでしょ?」


 荷馬車に揺られて舌を噛みそうになりながら、私達はリオーラへ着いた。


「久しぶりに来たら、全部吹き飛ばしたくなるくらいムカついてきた」


「やめなさいよ」


「冗談だって」


 村の中に入ると、余所者扱いのような視線を受けた。それはエリゼも同じで、少し居づらさを感じた。


「ここまで酷かったっけ?」


「いや……こんなには……って、見てあれ!」


 エリゼが指差した方に黒フードを被った男性がいた。私達はそちらに向かい歩いて行くと、彼は私達に気づいたようでこちらを見た。


「……何かご用ですか?」


「そのフード、あなた邪神教の人ですか?」


「なんですかそれ。これは日除けですよ」


「そうですか、すみません」


 空振りに終わり、私達はとりあえずこの村の教会へ向かった。


「初めて中に入ったな。これでこの教会も穢れたってわけだ」


「おや、旅の方ですか?」


 牧師が奥から姿を見せる。私は彼をはっきりと覚えていた。

 私に火を当てようとしたり、十字架をあとができるほどに肌に押し付けたりしてきた奴だ。


「人探しをしてまして……」


「人探し? この村はあてになりませんよ。余所者嫌いの村ですからね。私だって馴染むまで数年要したのですから」


「そうですか……因みに、直近で余所者が来たのはいつですか?」


「大体……一年前でしょうか。背の高い男性でした。深々とフードを被っていて気味の悪い人でした」


 私はエリゼに特徴を聞くと、確かに背が高い男性であると答えた。


「ありがとうございます」


「待って。そちらの女性……もしやエリゼさんでは?」


「そうです。お久しぶりですね、牧師様」


「お元気でしたか。よかった、よかった」


「ええ、それでは……」


 私達は教会を後にしたが、どうもルティスが不機嫌だ。


「どうしたの?」


「主人を追いやった村だろう。焼け野原にしてやろうかと思って」


「やめなさい。もう、あなた達そっくりすぎるわ……」


 エリゼは頭を抱えながらそう言うと、ルティスは「冗談だ」と答えた。

 一通り村を巡って、最後に残ったのはグリフィスの家だった。

 一応、元王家とあり、この村では村長宅に次いで大きい建物だった。


「……姉さん一人で行ってきてくれない? 私が行くと、流石に気まずいでしょ」


「わかったわ」


 エリゼが家に入り、時間が経った。家族団欒の時間と思えば長くない時間だしと、私はもう少し待つことにした。


「主人、それにしても長くないか? 私達を待たせているのはわかっているだろうに……」


「んー、そうかな?」


 確かに、人を待たせている割にはやけにのんびりしている。私は流石にと思い、玄関のドアをノックした。

 しかし、音沙汰は無い。

 ドアノブに手を掛け、ゆっくりと扉を開く。

 見覚えのある景色に懐かしさを覚えるべきか、忌まわしい記憶として嫌悪するべきか悩んだ。


「……」


 私は言葉を失った。そこにいた私を追い出した家族と、エリゼは談笑していた。


「あの、姉さん?」


「あなた……まさかセレナ?」


「セレナかい?」


 母と父がそう言うと、私はとりあえず頷いてみせた。


「生きていたのね……」


「そうよ。私を救ってくれたのもセレナよ、お母さん」


「そうなのね……私達はあなたにどれだけ謝っても、許されるとは思っていないわ……」


「ああ。俺達はお前に酷いことを……」


「ちょ、ちょっと待って。何を今更言ってるの?」


 私は二人の様子に困惑していた。

 この二人は何を今更言っているのか、罪を認めたということか?


「お前がレアルム島に連れていかれ、それから消息を絶ったという知らせが来てな、俺達はそこまでするつもりはなかったんだ」


「そうよ。それに、あなたがあのセレーナ様の生まれ変わりだって言うじゃない。なのに、私達は……」


「ああ、そう言うこと……」


 私は何かを思い出したように、二人を睨みつけた。


「私は恨んでいないわ。寧ろ感謝をしている。あそこで捨てられなければ、ここで野垂れ死んでたかもしれないしね。島の教会でも酷い扱いを受けたけど、その後王女に拾われてからは順風満帆だから」


「なあ主人、この二人を嬲り殺してもいいか?」


「ダメよルティス」


「セ、セレナ落ち着いて……」


「姉さん、私は落ち着いてるよ?」


 私はそう言うと、手を前にかざした。

 そして力を込めると、そこにあった呪詛の紋を吹き飛ばし、それと同時にそこにいた全員が気を失った。


「なっ……」


「隠れても無駄よ」


 奥からぬるっと背の高い男が姿を現した。


「まさか……そこまで力が戻っているとは……」


「お生憎、あなたとは初対面のはずだけど」


「主人、気を付けろ。こいつは……」


「黙れ、バハムート」


 ルティスはその場で気を失い、私はその様子に唖然とするしかなかった。


「ルティス……?」


「さて、セレーナよ。そろそろ偽るのはやめにしたらどうだ?」


「偽る……ですって? いったい何を言っているのか、わからないわ」


「まさか、そこまで記憶を封印しているのか? 間抜けなことよ」


 彼の言っていることがよくわからず、私も手出ししようものならここにいる皆に被害が出ることを考え、どうしようもなかった。


「場所を変えましょう」


「ならば我が神殿でどうだ?」


「神殿?」


 私は彼の転移魔法に巻き込まれ、時空の狭間に入り込んだ。


「ここだ」


「転移魔法とは便利なものを……あとで教えてくれないかしら」


「教えるだと?」


「ええ」


 彼は鼻で笑うと、腕を組んだ。

 そして数歩歩き回ると、思いついたように、こちらを見てきた。


「記憶の封印については兄者の方が得意だったな……」


「兄? 誰よそれ」


「セシルだ」


 私はその名を聞いて衝撃を受けた。

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