第23話
「どういうつもりですか?」
「大人しくしてください……」
「嫌ですね」
私は無詠唱魔法でマージェリーを軽く吹き飛ばした。
壁に激突したマージェリーの様子を伺うが、立ち上がった彼女は再度、私に向かってくる。
「無駄ですよ」
「わかっています……ですが!」
跳ね返される様子が少し可哀想に見えてくる。マージェリーはそれでも何度も何度も私に向かってくる。
「どうしてそこまでして……」
何も言わず、彼女はその場に座り込んだ。
「何か事情があるんですか?」
私の問いに期待していた返答は無く、仕方がないので私は彼女をそのまま面談室へ連れて行った。
椅子に座らせて腕を後ろで組ませて魔法の手錠を掛けた。
私はテーブルを挟んで真正面に座ると、マージェリーを睨みつけた。
「私を殺そうとするなんて、どこでそんな遊び覚えてきたんですか?」
勿論、彼女は口を割ろうとしない。私は、溜息を吐くと彼女の服を脱がせた。
「これは……」
催眠のための紋章が胸元にあり、私はこれは何か訊ねたが、やはり答えは無言だった。
「訊ねたことには答えてもらわないと……答えられないようにされてるってことか」
私は他の教員に彼女を見張らせて必要な人材を連れて来ることにした。
まずはルティス。この手の古い魔法には詳しいだろう。
そしてフィリス。トルーマンは市民の取り締まりを司る家だ。こう言った事例が他になかったかを聞き出せる。
「さて……まずルティス。この紋章、心当たりはある?」
「偉く古典的なものだな……それに、これの効力はそこまで強力ではない。だが、例えば術師との間に同意があれば……」
「同意ってことは、彼女が自ら望んでと言うこと?」
「そこまではいかないが……そうだな、言いようではそうだ」
私はマージェリーを見つめると、彼女は目を逸らした。
「フィリスは? 最近、こういう事案が街で起こっているとか情報は無い?」
「父が警察の長とは言え、娘の私が情報を得ることは難しいです。ただ、食事の席などで、こういった安い催眠術で人を操ると言うことは聞いたことがあります。ですが、どれも凶悪性のない事案だったとのことです」
「そう……じゃあその犯人の仕業と言うことかしらね」
「ですが、マージェリーさんほどの人がこれほど深く掛かるとは……どういう事なんでしょう」
私はフィリスの言葉を聞いて少しの時間考えた。が、その答えは容易に出てきた。
「単純に、術者が違う……とか? 例えばだけど、私が同じ術式で催眠をかけてフィリスを操ろうとすれば、簡単にできるだろうし、催眠も深く掛かると思うんだけど」
「確かに、主人の力量ではそれは容易いだろうな」
ルティスがそう言うと、フィリスは少し首を傾げた。
「話を戻しますが、何故セレナの命を狙わなければならなかったのか、ですね」
「口止めも催眠に入ってるのかな……だったらこの紋章を消してしまう?」
「そうですね……口を割らないとなると仕方がありません」
私は頷くと、マージェリーの胸元の印に触れて魔力を吹き込んだ。
「……っ!あ、あれ?」
「気が付きましたか?」
「わ、私……」
まだぼんやりしている彼女に少し警戒をしていた。
手錠をされていることに驚きながら、薄っすらと催眠状態時の記憶が蘇って来たのか、彼女は徐々に青ざめていった。
「私、なんて事を……」
「催眠状態でも記憶はあるのか……」
「申し訳ございません!私……そんな事になるなんて思っていなくて……」
「そんな事にって、誰かに頼まれたってこと?」
私の問いにマージェリーは俯きながらも頷いた。
「昨日の夕方、実は父が倒れて……治療費なんてうちに無くて、それの工面のために奔走してたんです。それで急に声をかけてきた魔法師の方に実験に協力すればお金をくれると言われて……」
「それに乗った、と」
「はい……まさか、こんなことになるなんて……」
「それで、お父様は大丈夫だったの?」
「はい。そのお金でお医者様に連れていくことができました。でも……」
「そうよね。今後の生活が心配よね……」
私がそう言うと、フィリスは怪訝そうな顔をして私を見た。
私はマージェリーの手錠を解き、その手を取った。
「私がなんとかする。今日の放課後、家に行ってもいいかしら?」
「セレナさんが!?」
私が深く頷くと、フィリスは「行ってどうするんですか? あなた、別にお金を持ってるわけではないでしょう」と言ってきた。
「そりゃ、なんとかするってだけだよ」
「なんとかって……まさか、その犯人を捕まえるとかですか?」
「御名答」
私はニヤッと笑うと、フィリスは溜息を吐いた。
「気をつけてくださいね」
「わかってるよ。その間、ルティスをお願いしていい? 人数多いと怪しまれるだろうし」
ルティスはショックで俯いてから、フィリスを見た。フィリスは苦笑いを浮かべ、ルティスは不敵な笑みを浮かべていた。
「仲良く、ね?」
「わかってますよ」
「もちろんだ。主人」
そうして放課後、私はマージェリーの案内で彼女の自宅へと赴いた。
「うわ!姉ちゃん、その綺麗な人誰?」
「学校の後輩だよ」
「後輩……です」
私は笑いを堪えつつ、双子の弟さんに挨拶をした。
「俺がケインで、こっちがジェインだよ」
「よろしくね」
私は居間に通され、椅子に腰掛けるとマージェリーはお茶を淹れて持ってきてくれた。
「それで、お父様は?」
「こちらです」
ベッドの上で苦しそうにしているマージェリーの父と対面した瞬間、私は気付いた。
「これは……呪詛ですね」
「わかるんですか? 実は昨日、お医者さんに見てもらっても原因はわからないと言われたんです。一応、お薬はいただいて、でもそれも気休め程度にしかならなくて……」
「でしょうね」
私は目を閉じて彼女の父に向かい手をかざした。
呪いの紋章が浮かび上がると私は目を見開き、それをマージェリーの時と同じように魔力で吹き飛ばした。
「これでいいでしょう。しばらくすれば目を覚ますはずです」
「うっ……」
思ったより早く目を覚ました彼女の父に、私は驚きつつも、私は彼を見つめた。
「あなたは……」
「娘さんの友人のセレナと申します」
「まさか噂の大魔導師の生まれ変わりの……」
「そんなに噂になってるんですか? 正直、知らなかったので一つ収穫です」
「収穫……?」
「ええ」
私はそう言うと、それまで浮かべていた笑みを控え、真剣な眼差しで彼を見遣った。
「その呪詛、誰に掛けられたんですか?」
彼はばつを悪そうに俯いた。
その様子を見た娘のマージェリーが「お父さん?」と言いながら、彼の顔を覗き込んだ。
「黒いフードを被った連中だ……どう見ても怪しい奴らだったが、大金をチラつかせられて……」
「金に目が眩んで、と言うことですね」
「ああ……」
「大丈夫ですよ。情けないなんて思ってませんから。マージェリーさんは同じ人達にですか?」
「そうです。私も黒いフードを被った人に声を掛けられて……」
彼女がそう言うと、そこはやはり父親なのだろう、彼女を心配そうに彼は見つめた。
「その黒フードの連中の狙いは、私の命でした。それに、ここ最近そうやって人を操ったりする事案がいくつか起こってるみたいなんですが、ご存知でしたか?」
「確かに……
「因みに、その黒フードの連中とはどの辺りで会ったんですか?」
「俺は、この近くの商店街の裏路地だ」
「私も、そこに入る路地で声を掛けられました」
私はなるほどと相槌を打つと、少し考えた。
その裏路地に行ってみるかと、思い立った時、マージェリーは何かを察したのか私を引き止めるように抱きついて来た。
「危険ですよ!一人でだなんて……」
「忘れた? 大魔導師の生まれ変わりって」
「それでも危ないですよ!」
「大丈夫だって。それに、他に連れていかないと怒られそうな子がいるし……」
「……ならいいです。でも、無理だけはしないでくださいね」
マージェリーはそう言うと、私から離れギュッと自らの手を握りしめ、祈りの構えを取った。
「ご無事をお祈りいたします」
どうしてか、不思議と体が軽くなるような感覚に襲われた。
「ええ、もちろん」
マージェリーの家を出ると、軒先でルティスとフィリスが待っており、私は笑ってしまった。
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