第21話
生徒会室に入ると、生徒会メンバーが勢揃いでマージェリーは私の姿を見ると驚いて音を立てながら立ち上がった。
「会長……そちらは……」
「セレナさんです。もう学院では有名人ですけどね」
男子の役員がそう言うと、フィリスが私を紹介してくれた。
「で、こちらはルティスです。私の下僕です」
「げ、下僕とは……まあ確かに、主人にそう言われればそうだが……」
「冗談。ちょっと契約を結んでる子なの。よろしくね」
ルティスを紹介すると、生徒会一同は丁寧に頭を下げてくれた。
私はマージェリーを見遣ると、彼女はまるで天井から糸を引かれたようにピンッと真っ直ぐ立ち私を見た。
「あ、あの!私、セレナさんのような魔導師になりたいんです!」
「私みたいな?」
私はそう言うと、マージェリーの傍に立った。
「えっと……マージェリーさんがどうして私にそんな憧れを持ったんですか? 身近なフィリス会長とかの方が手っ取り早いのに」
「会長との模擬戦を見て、無駄のない魔法の使い方。状況判断力と魔法の発動速度。そして何より……」
「何より?」
マージェリーは照れながら顔を逸らして「そのお姿が……」と答えた。
そう言われた私は一度首を傾げて、自分の姿を写した鏡を見遣ったが、私はそこまで美人か、と再度首を傾げた。
「美人ってこっちのルティスのことを言うんじゃない?」
「そりゃルティスさんもお綺麗ですけど……」
「まあまあ、いじめるのはそこまでにしてください」
「いじめてないよ。ね、マージェリーさん?」
「そうです会長!私はセレナさんとお話できてるだけでご褒美みたいなものです!」
マージェリーの言葉にフィリスは顔を引き攣らせた。
私は元の立ち位置に戻ると、生徒会の会議を見学した。
書記のレオンの速記を物珍しそうにルティスは見ていた。
「なあ主人。記述魔法はここでは教えていないのか?」
「手で書くことで脳に記憶させるからね。そんなの使ったら、ボードに書かれたことを転写するだけになるから」
「なるほど……」
ルティスはそう言うとまた真剣に会議の話を聞き直した。
私は欠伸をしながら、窓の外の黄昏の空を見ていた。
「退屈ですか?」
そう訊ねてくるフィリスに私は頷くと、その腹いせかフィリスは意見を求めてきた。
今度の魔法技能競技会の運営についてだが、いくつか計画に穴があったのでそれを指摘してみせると、マージェリーは鼻息を荒くして「流石です!」と言ってきた。
「まあ、当日何かあれば私が全力で排除するから安心して」
「セレナがそう言ってくれると心強いですね」
「うんうん。それにルティスもいるし、隣国くらい楽に制圧できるよ」
「物騒なことは言わないでください」
フィリスはそう言うと、開いてきた議事進行用の台本を閉じ席を立った。
私とルティスも立ち上がり、生徒会室を出ようとするとマージェリーに呼び止められた。
「どうしたんですか?」
「あの……無理なお願いかもしれませんが私を弟子にしてください!」
「弟子? 申し訳ないんですけど、そういうのはやってなくて……」
「付き人とかでもいいんです。少しでも魔法の技術を吸収したくて……」
「と言っても……すでにルティスがいるからなぁ」
私はルティスを見てそう言うと、ルティスは私の腕に抱き付き「主人は譲らん」とマージェリーを威嚇した。
「どうしてそこまで私に固執するの? さっきの理由はわかるけど、それこそフィリスとかに頼めば……」
「私……セレナさんが好きなんです……理由はよくわかりませんが、初めて見た時から私はこの人と一緒に生きていくって気がして……」
「えらく抽象的な理由だな」
ルティスがそう言うと、マージェリーも負けじと「恋とはそう言うものなんです!」と語気を強めて言った。
「恋って……」
「いけませんか? 年下の女の子を好きになっては」
「いけないことはないですけど……先輩が言ってるのはただの一目惚れってことですよね? 別に私と何か接点を持って流わけじゃなかったですし、私の上澄の綺麗な部分だけ見て惚れたって言ってるんですよね?」
「だから、それがいけないことですか?」
「いけないです。だって、そこに私の気持ちはないじゃないですか。それじゃあ先輩一人だけ、幸せになるだけですよ」
私はそう言うと腕にくっ付くルティスを引き剥がした。
そしてマージェリーに近寄ると、スッと顔を近づけて瞳の奥を覗くように目を合わせた。
「嫌がらないんですね」
「ええ、だって好きだから」
「後悔しませんか?」
「もちろん」
私は催眠魔法でマージェリーを眠らせて保健室へと連れて行った。
「どうするつもりだ、主人よ」
「後悔させて、諦めてもらう」
「拷問でもするのか?」
「まさか……ちょっと遊ぶだけよ」
眠るマージェリーをベッドに横たわらせ、私は近くに置いた椅子に腰掛けた。
ルティスを保健室前で見張らせ、誰も入ってこないようにさせた。
「……んっ」
「目が覚めた?」
「セレナ……さん?」
「ごめんなさい。眠らせて保健室へ連れてきました」
「そう……」
私は立ち上がり、彼女に魔法の手枷を掛けた。
「これは?」
「ご褒美……と言えばいいんですかね」
そして次に首輪を付けると、少し苦しそうにするマージェリーは結ばれた両手でなんとか首輪との間に隙間を作り出した。
「一体何をするつもり?」
「ちょっと、私の趣味に付き合ってもらおうかと。先輩、私のこと好きだから受け入れてくれますよね?」
「も、もちろん……」
「少し痛いですけど、後で治しますから我慢してくださいね」
私はそう言うと、マージェリーの服を脱がせ、その素肌に人差し指で一本の直線を臍から首元まで描いた。
「綺麗な肌ですね」
何をされるのか、何をされているのかわからないマージェリーは不安気な表情のまま私を見つめていた。
「例えば、このまま唇を奪っても文句はないですよね?」
私はマージェリーの顎に手を掛け、親指で彼女の下唇を弾いた。
「もしかして、期待してますか?」
とろんとした目で私を見るマージェリーが一つ吐息を漏らした。まだ自由な足を使って、彼女は私の体にしがみついた。
「癖の悪い足ですね」
私はそう言うと、彼女の太ももを引っ叩いた。
「もしかして先輩、痛いの好きですか?」
「……好きです」
「じゃあ、足、切り落としますね」
「え、そ、それは……」
「大丈夫です。ちょっと失神するくらいですから」
「で、でも!」
「ちゃんと治すってさっき言いましたよ?」
私がそう言うと、マージェリーは狼狽えて絡ませていた足を退けた。
私は残念そうな顔を彼女に見せた後、手枷と首輪を解いた。
「これでも私のそばに居たいと思いますか?」
口を開くことなく乱れた服を着直すと、マージェリーは寂しそうに首元を摩った。
「跡にはなってませんよ。とりあえず、今日は帰りましょう」
「はい……お先に失礼します」
保健室を駆け足で出ていくマージェリーを見送った後、ルティスが入ってくると「趣味が悪い」と私を叱責した。
「嫌われるにはこうでもしないと」
「主人は好意を向けられることが苦手か?」
「さあ……どうだろうね」
「昔からそうですよ。その方は」
フィリスが呆れたような声でそう言うと、ルティスはムッとした表情を浮かべフィリスを睨みつけた。
「自ら好意を向けることも、抱かれることも苦手でしたよね?」
「それは……そうだけど……」
「ヒヤヒヤしましたよ。本当によからぬことをするんじゃないかって」
「なんとなく、逆効果だった気がするけど……」
「確かに、あの娘なんだか満足そうだった……」
ルティスがそう言うと、私はこめかみをマッサージした。
変な火をつけてしまったかも知れないと、私が後悔する羽目になった。
「あの子って、昔からそうなの?」
「マージェリーですか? 彼女はずっと真面目な子ですよ。ただ、平民の子ですから……」
「平民……か」
私はその言葉を胸に留めてその日は帰路に着いた。
「平民だからというのは関係ないけどな」
「気になるのか、主人よ」
ルティスの採寸を見ながら私達はさっきのことについて話をしていた。
「平民出で学院に入るのも大変だろうからね。奨学金とかあるけど、結局は返さなくちゃいけないし……」
採寸を終え、仕立て屋を出て夕飯を食べに広場のレストランへ向かった。
ひき肉を捏ねたハンバーグステーキと言うものを食べ、ルティスはそれでも腹が減ったと煩かったので、その帰りにベーカリーに寄りパンを買って帰った。
「てか、あなた結構大飯食らいよね?」
「元はドラゴンだからな、人よりは食う」
「私、美味しくないからね」
「さっきのレストランのドレッシングをかければ、なんでも美味くなりそうだ」
ルティスはそう冗談を言うと、私は苦笑いを浮かべながら自宅のドアを開けた。
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