第19話

 その後、マリーの魔法上達スピードの驚かされながらスキルチャレンジのタイムを測った。


「最初と比べて雲泥の差だよ……優勝狙えるんじゃない? 学年だけじゃなく、総合で」


「そんなことは、ないですよ」


 照れるマリーの頭を、私は笑いながら撫でた。


「や、やめてください……子供じゃないんですから……」


「あー、ごめんごめん。ついつい」


 笑いながら手を離すと同時に、校庭にいた生徒から悲鳴が上がった。

 私は何事かと、悲鳴がした方を向くと、一匹のドラゴンが丁度空から降りて来ていた。


「せ、先輩!何ですか、あれ……」


「あー、安心していいよ」


 他の生徒が慄いてる中、私がドラゴンに近寄ると、ドラゴンは私に頬擦りをしてくる。


「来るなら来るって言いなさい。あと、ここでは目立つからその姿どうにかできないの?」


「わかった」


 ドラゴンは光に包まれると、人の形に変身した。


「あれ、あなた……女の子だったの?」


「ドラゴンは両性だが、私は雄か雌かで言われれば雌だからな……」


「にしても、ムカつくくらい美人ね」


 バハムートの人の姿は、長い銀髪に青と赤のオッドアイ、透き通った白い肌、それとたわわな胸。

 どう見ても、可愛らしく美しい女の子だが、その姿が目のやり場を困らせた。


「とりあえず服貸したげるからついて来なさい。マリー、今日は終わりでいいかしら?」


「え……あ、はい!ありがとうございました!


 私は着ていた上着をとりあえず彼女にに渡して、校舎内へ入った。


「むう……胸のせいで、これでも小さいみたいだ」


「萎ませられないの?」


「無理な話だな」


 更衣室でとりあえず少し窮屈そうだが、裸よりマシだろうと、私のロッカーにあった運動着を着せてから、彼女に何しに来たのか訊ねた。


「セシル様には報告を済ませてきた。結局、邪神が目覚めぬ限りは手の出しようがないとのことだったから、主人あるじのそばに居ようと思ったのだが……」


「何それ、照れるじゃん。でも、ずっとそばにいるつもりなの?」


「ダメか?」


「別に構わないけど……」


 彼女は自然と私に抱きつくが、その胸の圧迫で私は息苦しくなった。


「それにしても、バハムートってなんか呼びづらいわね」


「じゃあ主人から名をいただくとしよう」


「そうだなぁ……じゃあ、ルティスでいいか」


「ルティス?」


「うん。今思いついた」


 バハムート改めルティスは喜んで「良い名だな」と言い抱きついてくるが、相変わらず胸が苦しい……。


「これからよろしくたのむ。主人」


「さっきから主人って……」


「偽りの姿だったとはいえ、魂の契りを結んだのだからな」


 ルティスはそう言うと、私の首筋を舐めた。


「ひゃあ!」


 驚いた私は、体を飛び跳ねさせてしまった。


「ふふ、可愛いな。主人は」


「や、やめ……」


「失礼します」


 ノックをしてフィリスが入ってくると、私達の様子を見てしばらく硬直していた。


「な、な、何をしていますの!」


「違う!これは……っ!」


 取り繕おうとする私を嘲笑いルティスは私の体を簡単に抱き抱えた。

 降ろすように言うが、ルティスは言うことを聞かず降ろそうとしなかった。


「主人は渡さん」


「渡さないって……セレナはあなたの所有物ではないでしょう」


「そうだそうだ!」


「主人がそういうなら……」


 私を降ろして少し拗ねた様子のルティスの頭を撫でると、彼女は照れつつも悪態をついた。


「あなたは……」


「バハムートだよ。人型の時はルティスって呼んでる」


「ルティスですか……」


「気安く私の名を呼ぶな」


「ちょっとルティス。一応、この子リディアだから私のお側付きでは先輩だから」


「だから何だと言うのだ、主人よ。私は魂の契約を結んでいる。契りの強さで言えば私の方が上だ」


「仲良くやろうって話だよ。じゃないと、そばに置かないからね」


 私の言葉に狼狽えたルティスは、少し悩んだ後フィリスに頭を下げた。


「よろしく頼む」


「え、ええ……こちらこそよろしく」


「で、フィリスは何か用?」


「ああ、その子の様子を見に来たの。まあ、大丈夫そうね」


 笑みを浮かべてルティスと私を見ると、フィリスは更衣室を出ていった。

 私達もフィリスを追うように更衣室を出て校庭へ戻ると、警戒したシャノンが構えていた。


「だ、大丈夫なのかよ。そいつ」


「大丈夫。ただの美人さんだから」


「主人には敵わんよ」


「まあ、お上手」


 シャノンの引き攣る顔を見て私は笑いそうになっていると、アイリスがこちらに歩み寄って来た。


「あら、先程の……」


「うん、バハムートのルティス。今日から一緒に暮らすことになったの」


「そうなんですか……。ですが、あの貸家では手狭ではないですか? よろしければ王宮に戻られても……」


「王宮? 主人に相応しい所だな」


 ルティスは腕を組みながら深く頷いたが、私は難色を示した。


「王宮……今は別に王家ってわけじゃないしちょっと気まずいかな」


「ですが、火焔龍を退けた英雄でもあります。その実力はすでに知られていますし、十分外様でも王家の資格を持っていると思いますが」


「だとすれば、どこか郊外に広い屋敷が欲しいなぁ。魔法の研究とか、あとルティスが羽を広げられたらいいかも。多分この姿のままというのも窮屈だろうから」


 私の言葉を聞いて真剣に考え込むアイリスを見て、私は焦って「半分冗談だからね」と付け加えた。


「いえ、あなたに何一つ報酬を与えていないので、ちょうどいいかと思ったのですが……」


「まあでも、その火焔龍だったバハムートと一緒にいるとなるとどうなんだろうね。その報酬を受け取るべきかどうか、少し考えてしまう。討伐したわけじゃないし……手懐けたと言えば逆に国家転覆を目論むことだってできるし」


「主人には私からも礼を言いたい。私を邪神の呪縛から解き放ってくれた恩は、我が命をもって返すと誓うぞ」


 まるで愛を伝えて言い寄るようにルティスは私との距離を縮めると、私は数歩後退った。

 とりあえず、アイリスの斡旋で物件を紹介してもらうことになり、私とルティスは今の住まいへと帰った。


「ここが主人の……? なんと質素な」


「この質素さが好きなのよ。無駄を省いていると言って欲しいわ」


「そうだな……そうとも言えるか」


「ベッド、一つしかないからあなたが使っていいわよ」


「それはダメだ!主人がベッドで寝るべきだ」


「……じゃあ、一緒にベッドで寝る?」


「あ、主人がそう言うなら……従うまでだな」


 少し喜んだ様子を見せたルティスに、私はチョロいなという感情を抱いた。

 その日は酒場で夕飯を食べ、風呂に入り汗を流してそのままベッドに寝転がった。


「よかった。大きめのベッドにしておいて」


「人間の姿で眠るのは初めてだ……」


「じゃあルティスの初めてを奪うことになるのね……緊張してきた」


「どうして主人が緊張するのだ?」


 ルティスの不思議がる表情に、私は見惚れていた。

 その美しい瞳をまじまじと見ると、その奥まで吸い込まれそうで怖くなった。

 ドラゴンというのは人型に擬態すると、こうも艶やかで豊満な体つきになるのだろうか?


「服、キツくない?」


「ん……少しキツイが大丈夫だ」


「別に、脱いでもいいんだからね」


「ぬ、脱ぐだと!」


「なんで恥ずかしがるのよ……最初真っ裸だったじゃない」


「しかし……人間というのは服を着るだろう。人前で裸になるなど……」


「そこはちゃんと羞恥心を持ってるのね」


 私はそう納得すると、シーツを掴み肩まで布団を掛けた。


「もう寝るのか?」


「うん。もう眠いし……もしかして、ドラゴンは眠れないとか?」


「いや……私も眠いが、もう少し話をしたいと思っただけだ」


「素直に言えばいいのに」


 私は寝転がってルティスの方を向くと、ルティスも姿勢を変えた。


「ルティスってちゃんと見ると本当、綺麗ね。ガラスのケースに閉じ込めておきたいくらい」


「あ、主人もだろう……」


 よく見ると、ルティスは私に似ているように思えて、そう訊ねて見ると、擬態する時に私を模したとのことだった。


「髪色などは元の色だが、顔立ちとかは以前の主人の姿だ」


「私、そんなに胸大きかったっけ?」


「これは私由来だ」


 ルティスは自慢げに胸を寄せてみせると、私はその胸の間にできた隙間に指を入れてみた。


「な、何をする!」


「柔らかい……」


 眉間に皺を作るルティスが、仕返しにと私の胸を揉んだ。

 その擽ったい感覚に私は変な声を出してしまうと、それが面白かったのかルティスはずっと胸の周りを弄っていた。


「ちょっと……もうやめて……」


 鼻の穴を広げて夢中に私の体を弄るルティスに少し異常さを感じていた。


「ルティス!」


「はっ!私は何を……」


「このエロドラゴン……」


 私はルティスに背を向けて丸くなって目を閉じた。




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