4.激闘?魔法技能大会
第18話
この前中止になった魔法技能大会が改めて開催されるということで、アイリス達はまた準備に追われていた。
飛行魔法によるレースや、標的を射抜く的当て、そして模擬戦など多岐にわたるが、その中で異色なものとして魔法とは関係ないクラス対抗リレー競走がある。それらの代表を各クラス抽出し、クラス対抗できそうものだ。
各学年、少人数制で五クラスあるので、それなりに盛り上がる催し物である。
「セレナは半分生徒、半分教員側だから扱いが難しいですね」
「いや、私は出ないよ。全部勝つから」
「なんか、前もそんなやりとりしたな」
シャノンは笑いながらそう言うと、私の皿からトマトを奪い去った。
「嫌いだから丁度よかった」
「へへっ、じゃあ今度から全部もらうことにするな」
「いいよ。それ食べると、魔力減るんだよね」
冗談でそう言うと、シャノンは真顔で「マジか……」とショックを受けた様子だった。
お昼時の食堂は当然ながら賑わっており、生徒も教員もここで昼食を取っている。
「去年はセレナの力で優勝できたけど、今年はなぁ……」
「それに今年から、学年縦割りで色分けされたチーム戦でもあるから、そこの優勝も掛かってるからね。幸い、うちのクラスは会長のクラスと同じだからいいけど……」
「でも、一つ上の学年ってだけで、かなり実力差があるからなぁ」
シャノンがそう言うと、私は「この前の選抜隊に選ばれてたくせに、何言ってんのよ」とツッコミを入れた。
「とはいえ周り上級生ばかりだったしなぁ」
「まあ、深いことは考えず、今は競技の練習に取り組むことが最善ですわ」
アイリスがそう言うと、私は頷いて食器を片付けに席を立った。
「あ、あの!」
背後から声を掛けられ私は、驚いて声のした方を向いてそこに立っていた背の低い少女に私は視線を落とした。
「あ……セレナ先輩、ですよね?」
「ええ、そうよ」
「その、教えを乞いたいなと思いまして……可能でしょうか?」
「いいよ。放課後とかどう?」
「は、はい、大丈夫です!ありがとうございます!」
その子は駆け足でその場を去ってしまった。
私は皆の元へ戻り、その出来ことについて話すと、同じ白組のクラスの子じゃないかと言う話になった。
「しまったな、そこら辺とあと名前、聞きそびれちゃった」
放課後まで待つかと仕方なしに午後の授業の準備をするため教員室に向かうと、私の席に何故かフィリスが座っていた。
「温めておきましたよ」
「要らないわよそんなこと。ただでさえ暑くなってきているのに」
「まあ、そう言わずに……」
私は自分の席に座ると、フィリスは何か言いたげな素振りを見せていたので、私は溜息を吐いてから何用か問うた。
「競技大会の事、今回の仕組みについて聞いていますよね?」
「うん。あなたのクラス、同じ白組らしいわね」
「セレナは出るのかなって、思ったんですけど」
「出ないわよ。当たり前じゃない。私、今ここに座ってるんだし」
「そうですよねー。じゃあ、今年の二年は望み薄かな」
フィリスはまさか私を焚き付けようとしているのだろうか?
うちのクラスを舐められると、ムカつくので私は鼻で笑い「それより自分の心配はどうなの?」と、言い返した。
「うちのクラスは優秀ですよ? この前の選抜隊も、我がクラスからのメンバーが多かったですし」
「この前というと、なんの役にも立たなかったあの選抜隊のことか」
私は小馬鹿にしながらそう言うと、その空気の悪さを察した他の教員が止めに入った。
「まあ、我が校の生徒ということで、実力者というのは確かかもしれません。ですが、魔法技能に関しては個人の努力次第です。学年は関係ありません。なんなら、学年別は取っ払って、完全に全校クラス対抗にしてしまいますか?」
「個人の努力次第、ねぇ。生まれの早さという時間的有利を覆すのは難しいと思うが?」
「それは、そうですね。ただ、より質の良い時間を凝縮して経験すれば、もしかしたら……」
私は手で目を隠し「おいおいやめてくれ。そうやって探究心を焚き付けるのは」とフィリスに文句を言った。
フィリスは笑いながら「流石に主人様の扱いには慣れてますので」と笑いながら教員室を後にした。
「せ、セレナ君?」
「ジェフリー先生。こうなれば徹底的に叩き上げますよ。うちのクラス。あの女、許さないから」
私の燃えたぎる怒りに満ちたオーラにジェフリーも狼狽えていた。
午後の授業から、私の様子がおかしいとアイリスは何かを察していたようだ。
「君らに言えるのは、もっと丁寧に魔法を使って欲しいと言うことだ。その魔法による事象がどう言う原理で何に作用しているのか、それをしっかり理解した上で使ってもらいたい。そうすることによって、魔法の応用が利く」
私が熱を入れてそう語ると、皆んな真剣に話を聞いてくれ、しっかりと頷いた。
授業が終わり、教室を出て教員室へ戻る。先輩教員達に労われながら、私は校庭へ向かった。
「あ、あの!よろしくお願いします!」
「お、おおぉ……よろしくね。ええっと……」
昼に声を掛けてきた女の子がすでに待っており、私の姿を見つけるとすぐに飛んできた。
「私、名前を言いそびれてました。マリーと申します。よろしくお願いします」
「マリーちゃんね。よし。じゃあ、何を教えて欲しいの?」
マリーはそう訊ねられ、何もかもと答えたので私は頭を抱えた。
「例えば、どの競技に出るとか、その種目に絞って特訓するとかにしない?」
私提案に同意したマリーは、早速出場種目を教えてくれた。
「なるほど、スキルチャレンジか」
スキルチャレンジとは、全ての競技を集結させた種目で、障害物競走みたいなものだ。
つまり、実力者が選ばれる競技にマリーは選ばれたと言うことだ。
「君は一年だよね。それでスキルチャレンジに選ばれるのはかなり凄いことだと思うけど」
「その……自信が無くて。その自信をつけたくて」
私はとりあえず納得して、実際の実力を見ることにした。
彼女は真剣にコースをこなしてゴールテープを切ると、すぐに私に意見を求めた。
「そうね。魔力のコントロールがアバウトなところが気になるかな。的当てのところ、結構苦労してたでしょ?」
「はい……それが昔から苦手で、特にこの競技だと急かされて狙いを定めづらいというか」
「なるほど。じゃあ例えば、急かされていない状況で、簡単にできる?」
「やってみます」
マリーは五度、中心を射止めることができず肩を落としていた。
私は彼女にコツを伝授する。
「いい、中央の一点だけを狙おうとするから外しちゃうの。輪っかを少し広げて、これくらいの範囲を狙うつもりで」
「やってみます」
そうすると、失敗回数は減ったものの、一発でできると言ったわけではなかった。
「そもそもの魔力の匙加減も得意じゃないわよね?」
「はい……手加減とかするのに本当、強いか弱いかしかなくて」
「じゃあ、さっきの的に一番強いのをぶつけてみて」
「わかりました」
けたたましい音を立てて、的に向かい魔力玉をぶつけるマリー。周りの生徒も驚き、私達は注目を浴びた。
「それが最大として、次に一番弱いのをぶつけてみて」
マリーは言われた通り、的に魔力玉をぶつける。不思議そうにこちらを見ているが、私は続けて、半分くらいの力で打つように指示をした。
「んー。これくらい?」
「……強すぎ。それは大体八割くらいよ」
「ダメか……」
「でも逆に、今のが八割って覚えちゃえばいいのよ。全力程じゃないけど、強めって感じ」
「なるほど……では、八割からもう少し減らして……」
的に向かい一撃放つと、マリーは何かを掴んだように、自分で割合を言いながら魔法を放っていった。
「できました!こうやってイメージして魔法の強度を調節するんですね!」
「そう。で、精密なコントロールが必要なときは強度を落とした方が狙いやすくなる。例えば最大火力の場合、放つ瞬間の衝撃で手元がぶれてしまう。もちろん、それを防げばいい話だけれど、手っ取り早くするには、その反動が最小限になる威力で打っちゃえばいいのよね」
「この競技では別に的に当てればいいから、弱くてもいいんですね」
マリーにもう一度的の中心を狙わせると、一発で的中した。
飛び跳ねて喜ぶ彼女を見て、後進を育てるのもいいものだなと、どこか年寄りめいた思いに耽った。
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