第17話
バハムートの処遇について困っていたが、バハムートは元は火焔龍だったので私の魂から人間の言語を習得しており、普通に会話が成り立った。
「喋れるなら、初めからちゃんと話してよ」
「すまない……。ただ、
「主人って言ってしまってますわね」
アイリスが呆れてそう言うと、後ろでシャノンも頷いていた。
バハムートに背中に刺さっていた剣について聞くと、恐らく、邪神軍との戦いの最中に刺されてしまったとのことだった。
その剣のせいで、火焔龍として姿と意識をすり替えられていたようだ。
「待って、話を整理したいんだけど、そもそも神を相手取らなきゃいけないってこと?」
「そうなるな。邪神の目覚めに備えなければならない」
「邪神の目覚めって、いつなのさ?」
シャノンがそう言うと、バハムートは少し口を噤んだ。
「正確にはわからない。それに、私も今の状況は知らない。一度天界に帰り、確認する必要はある」
「天界……神の世界ということですか?」
「そうだ。そこに居られるセシル王に確認する必要がある」
セシル王については私も、そこにいる誰もが知らなかった。
「そのセシル王と言うのが天界を統べる方なの?」
「そうだ」
「因みに、君は天界に行って容易くこちらに戻ってこられるの?」
「それはわからない。天界の状況次第かと思う」
私はとりあえず彼の言う天界には行かず、このまま地上へ残ることにした。
邪神についても調べてみることにして、私は選抜隊と共に王都へと帰った。
その途中、エルダーで再びシャノンの実家の酒場に行き、細やかながら祝勝会を行った。
「てか、セレナの戦いぶり、凄かったぜ!こう、魔法がドーンってなって、バチバチなって……気付いたらめちゃくちゃ早く動いてて……」
「シャノン、あなたもう少し落ち着いてお話ください」
「そうです。ご主人がお困りです」
「ご、ごめん、フィリス。今は立場が違うでしょ?」
「せめてプライベートの時だけ、元の関係にできませんか?」
選抜隊にはフィリスの秘密はバレてしまっているわけだが、そんな生徒会長の様子を見て皆逆に可愛らしさを見出しているらしい。
「セレナと会長……いい組み合わせだわ」
「本当。前までセレナとアイリス様がいいと思っていたけど、あの組み合わせも熱い」
聞こえてくる声に私は苦笑いを浮かべるしかなかった。
飲み物のグラスが空になったので、新しく注文しようとしてついつい酒を頼んでしまったが、シャノンの母にダメだと言われ、私は凹んでいた。
宴が終わり今日の宿で寝るとすぐに朝を迎えた。
「早く起きてください」
「もう少し……」
「もう……」
アイリスの声に、私は鬱陶しさを感じながらも瞼をこじ開けて体を起こした。
洗面器を持ってお湯を貰いに行き、洗顔を済ませると、私はもう一寝入りしようとしてアイリスに止められた。
「今までマイペースな旅だったのに……やっぱり、帰りも一人で帰る」
「ダメです!ちゃんと報告をしていただかないといけませんので」
「えー面倒臭い。全部アイリスの手柄でいいから、自由をちょうだい?」
「なら尚更、国王からの報酬の方が余程自由をいただけると思いますよ?」
「なるほど……」
とりあえず、私は素直に従い、そのまま王都へと戻った。
謁見の間にて、選抜隊が報告をしている間、私は自宅の寝室で肌着一枚で寝転がっていた。
「むう……解せないな」
思ったのが、私は子孫を残していないのではないかと言うこと。
子供を作るには男女の関係が必要なはずが、私にそんな記憶はない。もしかしたら都合よく忘れているだけかもしれないが、直系の子孫であるグリフィス家が存在しているのだから、最低でも一度は男に抱かれたのだろう。
「まさか、そこも魔法で解決しようとした……わけないよね」
そんな記憶はない。
変身の魔法も、あくまで姿形を変えるのみで、生殖機能を変えるほどのものではない。
今度、フィリスに聞いてみるかと私は欠伸をして鏡に映る自分の顔を見た。
若返った自分と見る私と、今日も可愛いと思う私。
かつての姿と瓜二つの今の私の姿に、どちらかと言えば見飽きていた。
着替えて出掛ける支度を済ませて王城へと向かった。
「セレナ殿」
「お久しぶりです。カインさん」
カインに連れられ、謁見の間の手前の控え室で私は待機することになった。
「あら、セレナ。思ったより早かったのですね」
「そりゃアイリスより長く暮らした城だし」
「そうでしたわね」
選抜隊と別に、私とアイリスだけで国王に謁見する。
選抜隊が出て来て控え室に戻ってきたのを確認し、私とアイリスは国王の元へ向かった。
「……其方が、セレナ・グリフィスか。大きくなったな」
「ありがとうございます」
「グリフィス家は元は王族の端くれ、謂わば親戚だ。楽にするといい」
私はそう言われても頭を下げ、目線はずっと床に向けていた。
「この度の火焔龍討伐、アイリスの補佐として大変素晴らしい活躍をしたと聞いている」
「ち、違います父上!討伐自体、セレナ単独で行いました!」
「アイリス。そこまで謙遜すると、王家の位の高さに関わる」
「失礼ですが、陛下の魔法の実力は?」
私は初めて国王に向かい視線を向けた。
少し怯んだ国王は今は関係ない話だと、別の話をし始めようとした。
「失礼ながら、私の力はここにいるアイリス様は勿論、学院での序列最上位である生徒会長を上回ります。そんな存在である私が、なぜアイリス様の補佐を務めなければならないのですか?」
「其方の実力は関係ない。役割については実力のみで充てられるものではないだろう」
「まあ確かに。得手不得手、適材適所という言葉もあるくらいですからね。しかし、私と学院の生徒では圧倒的な実力差があります
そうなった場合、実力のお劣るものは足手纏いにしかすぎません。それらを守りつつ戦うと言うのは、非効率的です」
「何が言いたい……」
私は鋭い眼光で国王を睨みつけると、移動魔法を使い目の前へと瞬間移動した。
「そこは我が弟が座っていた椅子だ」
「お、弟?」
「父上、以前にも言いましたがセレナはあの、セレーナ・エクセサリアの生まれ変わりなのです。記憶も、魔法の力も全て前世より引き継いでいます」
「つまり弟とは……我が祖先の……」
「そうです。私の愛する弟であるコーウェルです。お分かりなのなら話は早いですね。まあ、だからと言って明け渡せとは言いませんが、何かあれば私は容赦なく、その席を奪い取りにきますから」
私はそう言って謁見の間を後にした。
慌てて追ってきたアイリスに「褒美はあなたから伝えてもらいます」と言って控え室へ帰ると、様子を察したシャノンが「やらかしたんだなぁ」と眉間の皺を揉んでいた。
「ちょっとムカついて……」
「まあ言いたい事はわかります」
フィリスはそう言って私の肩に手をやった。
私は椅子に腰掛けると足を組んで貧乏揺りをし始めると、フィリスは笑って「本当に昔のまんまですね」と言った。
「これからのことを考えると、この国だけじゃない問題に発展しそうだし、本当どうしたもんか……」
「邪神についてでしたら、宗教団体の方が詳しそうですけど……」
「レアルム島の大聖堂でも行ってみるか」
私がそう言うと、アイリスが「絶対あなたを入れてくれないでしょう」と呆れながら言った。
国王の側近から証書を受け取り、私達は城を後にした。
「セレナはどうするんだ?」
シャノンにそう問われて、とりあえず学院へ行くと伝え、フィリスに学院長のスケジュールを聞いた。
「それがどうされました?」
「ちょっと話しようかなって」
私はそう言って皆と学院へ向かった。
かなり久しぶりに来た気がしながら、私は学院長室へ向かった。
「失礼します」
「ん、セレナ君か。どうした?」
「一つ相談がありまして」
私は、学院長に教員として採用してもらえないか話した。
すると、少し難しそうな顔をしてから、髭を撫で始め何かを決めたかのように、一つ息を吐いた。
「わかった。確かに、君の素性を鑑みれば学生の範疇は超えているからな。丁度いいから君のクラスを担当してもらおう」
「え、いいんですか?」
「ああ。丁度最近、教員枠が空いたからな」
思ったよりあっさり決まり、私は教員として学院に通うことになった。
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