第15話
もはや使われていない林道を歩いていると、小物の魔物と遭遇した。
「魔物ねぇ」
そもそも魔物は動物の突然変異である。人が魔力を持って生まれると魔法師であるのと同じで、魔力を持って生まれた動物を魔物と言う。
目の前に現れたのは猪の魔物。
ただ、魔物の厄介なところは、自制が利かない。ただ突進して来るだけでも魔法を発動させてくる。
「まあ、私からすれば遊びでしかないけど」
エルフの里でもらった剣を振るい、魔物を去なすと、返り血を魔法で綺麗に消して先へ進む。
魔物の肉は不味いので、死体は自然界に居る不肉食動物達に任せよう。
「っと、こっちは食料になりそう」
山菜を採取し、念の為、魔法で毒抜きをしてから食べる。独特の風味があって美味しいかったが、どこか懐かしかった。
「もしかして、四百年前もこうやって火山に向かっていた?」
やけに独り言が多くなったのは、たった一人で歩いているのが、寂しくなってきたからだ。
樹齢幾らか見当つかない大木を見ると挨拶を欠かさずに行い、小動物達には拾った木の実を分け与えた。
森の中を歩いていると、昼も夜もわからなくなる。夜光虫が夜は道標になり、昼は集光植物が地面を照らしてくれる。まるでずっと歩けと言われているようだった。
小さな湖に辿り着き、本格的な休憩を取った。
エルフの秘密道具である鞄から、布や木材を取り出し、魔法で組み立てると、立派な椅子とタープになる。
朽ちた木を伐採させて魔法で乾燥させてから薪にして、焚き火を起こす。
「現在地は……っと」
飛行魔法で空を飛び現在地を探る。
「おお、もうこんなところまで……皆はどの辺りまで来てるのかな?」
王都から真っ直ぐ火山へ向かうには街道を通るのが通説である。が、考えてみれば私はここまで休みもせずに歩いて来たので、進捗に差が生じていた。
「結構望遠しないと見えないな……陽炎でぼやけてる……」
目の前に指で丸を作り、望遠魔法を唱えてそう言うと、私は一日ここで休息を取ることを決めた。
「合流しに行ってもいいけど……」
まるで家出をして来たような気分だ。
しょうもない意地を張っていると言えばわかりやすいと思う。
私はそうやって、拗ねているようなものだ。
「けど、皆も危険を感じたらすぐに撤退するだろうし……」
私は地上に降りて椅子に腰掛けて持ってきた魔法書を読むことにした。
平和になればこういう湖畔に居を構えるのも悪くないかもしれないなと思いつつ、うとうとしていると、背後から物音がし、私はすぐに構えた。
「なんだ、リスか」
リスの姿を見て私はホッとしたが、どうもそのリスの様子がおかしい。
「君、もしかして魔力に当てられたのか?」
凶暴化したリスを容易く去なしてから椅子に座り直した。
火山へ近付いているので、もしかしたら火焔龍の魔力に当てられたのかもしれないと考えつつ、私は椅子をベッドに変えて眠りに就いた。
数時間ほど眠って目を覚ますと、予め張っておいた結界に凄い量の魔物がくっ付いていた。
「うわ……こうなると気持ち悪いわね」
結界を弾き飛ばして魔物を一気に駆逐すると、エルフの鞄にタープや椅子をしまった。
「さてと……」
また飛行魔法を使って様子を伺う。
「おー、だいぶ進んだね」
先に着いて調査でもするかと私は足を進めることにした。
とはいえここからは人里に出て進むのが一番早い。
シャノンの生まれ育った街であるボリーク地方のエルダーという町に出て聞き込みを行った。
幸い、この辺りでは直接の被害はまだ無いが、急に魔物の数が増えたとの話を聞けた。
「王都の騎士さんとかも敵わなかったって逃げて帰ってきたし、アタシらはどうなっちまうんだい……?」
「被害が及ぶ前に避難を呼びかけるのが普通なんですけど、この地方、じゃあどこに逃げるかとなると……難しいんですよね」
宿屋のおばさんにそう言うと、私は鍵を受け取って部屋に入った。
「エルダーにまで魔物が……さっきの森の中でも火山からは結構距離があるんだけどあの量だったしな」
荷物を置いて色々考えていると、腹が鳴ったので食事をするために町へ繰り出した。
「お嬢さん、こちら如何?」
「これは?」
「なんと大魔女セレーナが愛用していた杖だよ」
「愛用していた? 流石に模造品では?」
「同じ素材、同じ製法、同じ形。どうだい?」
老婆は自信満々の様子でそう言うと、私は鼻で笑いそうになった。
確かに、老婆がそう言えば説得力はあるが……。
「結構です。それにセレーナは杖は使ってませんよ」
私は腰に携えていた剣を見せて老婆の前から立ち去った。
食事を済ませて宿に戻り、久しぶりのふかふかベッドに体を預けて就寝した。
翌日朝に目を覚ますと、これまでの反動か、体が石化したように動かず、私はもうしばらく滞在することに決めた。
二日経った頃、夕飯にと初めて行く町の外れにある
「すみません。これ、どなたのですか?」
私は満面の笑みで喧嘩をおっ始めていた男に問い掛けた。
「ああ? ねーちゃん、誰に向かって言ってんだ?」
「あなたですよ。この世の終わりみたいな顔をした格好いいお兄さんです」
「なんだと!」
「やめな!若い娘に手を出す馬鹿がどこにいるんだい!あんたも、挑発するんじゃないよ!」
酒場の店主である中年の女性が仲裁に入ると、酒場は静まり返った。
「そもそも、店の食器を投げるなんて、もうあんたは出禁だ!二度と来るんじゃないよ!」
男は舌打ちをしながら店を出ると、店内に平穏が戻り、店主の女は私のテーブルを見て「食の恨みは重いね」と呆れた顔をして場所をカウンターに移るように言って、同じものを作り直してくれた。
「このメニュー、娘が好きだったんだよ」
「そうなんですね」
「ああ。娘は丁度あんたと同じくらいでね、もう二年も経つかね、王都の魔法の学校に行ってから音沙汰無しさ」
「知らせが無いことが良いこととも言いますし……」
私はモヤモヤしていた。この店主、誰かに似ている……それは、昔の記憶の誰かか、今の記憶の誰かか……。
私は豚肉のジンジャーソテーを食べながら思案し続けた。
メニュー表の看板に書いてある店名を見て、飲みかけていたオレンジジュースを吹いた。
「ちょっ!あんた、どうしたんだい!?」
「ギルダンって、娘さんはシャノン?」
「そうだけど……」
私はまあそう言うこともあるかと思いながら笑みを浮かべていた。
「たっだいまー!」
入口の方から聞き覚えのある声が聞こえ、私は咄嗟にフードを被った。
「こちらが、シャノンのご実家ですか……」
「イメージ通りというか、絵に描いたような酒場ですね」
シャノンの後に付いて、アイリスとフィリスが店内に入ってくると、私の真後ろにあるテーブルに座った。
「好きなもん頼んでいいぜ。アタシの奢りだ」
「何言ってんだい!久しぶりに帰ってきたくせに」
シャノンは早速母親から愛の鞭を喰らっていた。
私はお代をカウンターに置いて席を立とうとすると、店主が「そういえばシャノン、あの人知り合いかい?」と私の方を指してそう言った。
「ん? フードで顔が見えねえ……」
変身魔法を使おうにも発動がバレる距離まで詰められているし、もう仕方ないなと私はシャノンにフードを外された。
「セレナ!?」
「久しぶり」
「あ、あなた……」
驚くアイリスは、開いた口を閉じれなくなっていた。
フィリスは何かを察したのか、そのまま座って私を見つめていた。
私はカウンターに座り直し、彼女らから事情聴取をされることになった。
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