第5話
「どうしたんだい? 新入りさん」
隣から話し声が聞こえる。さっきの溜息の声が聞こえたのだろうか。
「あんたも姫さんに連れてこられたのかい?」
「え……あ、はい。そうです」
「はっ!運がなかったね」
「運が無かった?」
「ああそうさ、こんな牢にぶち込まれてさ。可愛らしい顔して、酷いことをするもんさ」
私はそれに頷くことはできなかった。魔法から金属の手枷に変わった手首を見て、私はまた溜息を吐いた。
「あんまり溜息吐くと、幸せが逃げちまうぜ?」
「もう十分不幸ですから……」
「そうかい」
隣の女は笑いながらそう言った。
私は両足を抱えて座り直すと「名前は?」と訊ねられ、名を答えた。
「遂に名前が似てるだけで連れてこられたのかい? 酷い話だな」
「一応、魔法は使えますよ。それに私の家系がセレーナの直系だったって聞きました」
「グリフィスか……確かにあんまり馴染みない名前だが、城のどこかに家系図か何かが残ってるのかもしれねーな。まあでも、そんなの関係なく、囚われる筋合いなんてないんだがな」
「あの、お姉さんのお名前は?」
「ああ、すまない。私はシャノン。シャノン・ギルダンだ。北のボリーク地方にあるベルダンって町の生まれなんだ。こっちは蒸し暑くてたまらないよ」
「私は南のロビンソン出身なんで……」
私はそう言うと、手枷を魔法で解こうとしたが、その瞬間静電気のようにバチッと何かが弾けた。
「いたっ!」
「ああ、枷を外そうとしたのかい? 魔法で封じられてるよ」
「そう……なん、ですね!っと」
ガシャンと音が鳴ると私の手首から枷が外れ、シャノンは驚いたように声を上げていた。
「セレナ、あんた何者だ? ただでさえ姫さんの魔力は中々のものだと言うのに、それを上回るなんて」
「まあ、できなくはないですよ」
私はそう言うと、牢の鍵も開けて外に出た。
「見張りすらいないなんて、舐められてますね」
私はシャノンの枷と牢の鍵を開けると、対面したシャノンは声からの想像とは違い超絶美人だったことに驚いた。
シャノンはシャノンで、華奢すぎる私を心配していた。
「とりあえず出るか?」
「そうですね」
外へ出ると、流石に見張りがいたので、私達はそれに対峙した。
「どうやって出たかは知らんが、大人しく牢に戻れ!」
「はっ!おあいにく様、こんなところで時間を無駄にするわけにはいかないからなぁ」
「ちょっとシャノンさん!」
シャノンは私を突き出すと、一人窓を開けて外へと逃げてしまった。
兵に取り囲まれた私は壁際まで追い込まれて、どうしようもなくなっていた。
「大人しく戻ってくれないか。そうしたら俺達も、君のような子供に手を上げなくて済む」
「大人しく戻るほど、十四歳って子供じゃないんですよね」
私は魔力の塊を操ってそこにいた兵の足元をすくった。転んで這いつくばる兵達を無視して私は城内を駆けた。
「おい、待て!」
そう言われながら逃げるのも、なんだか遠い昔にやったような気がした。
追いかけて来る兵が疲弊するころ、私もこんな所にしておいてやるかと、スピードを緩めた。
「やっと止まった……体力バケモンだろ……」
「あ、カインさん」
私は少し息を切らしながらそう言うと、肩で息をするカインと、後ろから追ってきたアーノルドとレインも息を切らして追いついてきた。
「なんて、体力なんだ……ただもんじゃないとは、思っていたが、まさか、ここまでとは……」
恐らく、私は無意識の内に魔法を使っていたのだろう。私は体力を使うことなく、走り続けていた。
昔も同じように……なんて気がしていたが、それを私は無視していた。
「捕まえて、どうするつもりですか?」
「とりあえず、姫様のところへ」
カインがそう言うと、私はそれに従いカインの後を歩いた。
アイリスの部屋に入ると、机の上には大量の書物、その本の谷で顰めっ面をしているアイリスがいた。
「カイン、あなたは下がってて」
「はい」
カインが部屋を出ると、私とアイリスの二人きりになった。
「……何も説明せず申し訳ありません」
「いえ……何となくは聞いてますから」
気まずい空気に、私は押しつぶされそうになっていた。
アイリスが眉間の皺を解くと、私は少しホッとして一息ついた。
「……私は必死になりすぎていたのかもしれません」
「そんな必死にセレーナの生まれ変わりを探すのは、何か理由があるんですか?」
私がそう訊ねると、アイリスは暗い顔をしながら、一冊の本を手渡してきた。
「このページ、お読みになってください」
その本に栞が挟まっており、そこを開くとセレーナの予言めいたものが書いてあった。
「私は遠い未来、もし我が王家が間違った方向に向いていたら、正すために舞い戻るであろう。その為に神との契約に合意し、魂に細工もした」
生まれ変わるとしても近くない遠い未来と、私は認識した。
それをアイリスに伝えると「そうです。もしかしたら、今がそのタイミングなのかもしれません」と、目を伏せながら言った。
「そのタイミング?」
「父の代になってから、貴族から王家に流れる金について、不可解なことが多くなっています。まさに、荒んだと言ってもいいでしょう。賄賂や汚職が増えてしまっています。なので私は、セレーナが生まれ変わって、この世に存在しているのではと考えたのです」
「それで各地の魔法力が強い者を集めているんですね。シャノンさんみたいな」
「はい……」
アイリスはギュッと拳を握った。それをみた私は、なんとなくではあったが、その気持ちを汲み取った。
「自分の父親が不正を働いているのは、確かにショックだよ。でもだからって、他人の人生を踏み躙るようなことはしない方がいいと思う」
「そう、ですわよね」
「私は別だけど……私はもうすでに諦めた人生だから、あなたに与えることができる」
私はアイリスを抱き締めると、アイリスは思わず声を上げ、それに反応したカインが扉を開けた。
「どうしてでしょう……亡くなった母を思い出しました」
「同い年の女の子なのにな……」
「わかりません。何か内から込み上げてくるものがあります……」
私は結局、そのままアイリスのそばにいることになり、翌週からは魔法学院へ入学した。
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