第20話 父の強さ
「隊長っ!」
俺以外の二人の隊員が叫ぶ。
しかし、俺は隊長の実力をいやというほど知っている。
慌てず追撃のために隊長の方へ走る。
「うおっ!なかなかの馬力じゃねぇか」
そう言いながら、その身1つで10mの巨体を止める隊長。
「龍仁ほどじゃないが俺の崩壊も受けてみろ!」
はぁ、俺は思わずため息をつく。
魔獣の体はそのすべてが貴重な素材となる。
そのためできれば傷をつけないように残したいのだ。
「親父!それじゃあ、そいつが消えちまう」
俺はもはや楽しむように戦闘を行う隊長もとい父親に呆れ、つい呼び方と言葉遣いを忘れてしまう。
そして俺は親父の崩壊に自分の崩壊を介入させて魔法を壊し、改めて円盤型に崩壊を発動し魔獣の首を切断した。
そこからは早かった。
先ほど叫んでいた二人の隊員が迅速に魔獣の核を頭部から取り出し、戦闘が終了した。
「お二人とも、ありがとうございます」
「龍仁君こそさすがの腕だね、15歳にして我らが隊のエースだ」
「それに比べて隊長は……」
「親父!いつも言ってるだろ。余裕があるときは魔獣の素材はなるべく傷をつけないようにって」
「お前の崩壊を見せられるとどうしてもな。対抗心が湧くんだよ」
俺は実の息子に何を言っているんだかと思ったが、それ以上は口を出さず、唯香さんに連絡を入れた。
「副隊長、戦闘終了しました。第二隊への連絡と回収部隊の要請をお願いします」
「龍仁君、連絡ありがとう。みんなもお疲れ様、連絡と要請はもうしてあるわ。気を付けて戻って」
「はい、ありがとうございます」
俺が唯香さんに連絡を入れている間、親父たちは戦闘の講評をしていた。
「今回はアクシデントも少なく短期決戦で倒せてよかったですね」
「そうだな、Cクラスと聞いていたから少し構えていたがあれはDクラスレベルから昇格したてっぽかったな」
魔獣にも成長という概念があるそうだ。
それが今話されていた昇格である。
元々力の強い魔獣ももちろんいるが、生物の生活に適していない未開域で暮らしながら力をつけていき危険度が増していくそうだ。
「アクシデントも少なくって、狙われたのが隊長じゃなく僕や松本さんだったら普通に危なかったですって」
俺の所属する第一隊は俺、親父、唯香さん、松本さん、上田さんの5人で構成される部隊だ。
年齢の若い順には俺、唯香さん、上田さん、松本さん、親父である。
全員超人的な上位魔法使いだが親父は近接戦闘を得意にしており、松本さんと上田さんは斥候ポジション、情報性差や戦闘補助をメインとしている。
さらに副隊長の唯香さんは後方支援型で直接戦闘に関わる魔法はあまり得意としていない、となんとも言えないバランスになっており、万能的になんでもできる俺の負担が大きい。
基本的に松本さんと上田さん、唯香さんで情報の確認、俺が長距離魔法でファーストアタック、親父が近接で攻撃を入れて、他が追撃するというのがこの隊のパターンになっている。
「そんなことより、龍仁君。今日は珍しく遅かったね。家からそんなに遠くなかったと思うけど?」
帰路につきながら俺は松本さんにそう言われる。
なんて言いだそうかと考えていると親父が口をはさんできた。
「こいつ、さっきまでホテルに女の子連れ込んでたんだよ」
おい、親父何言ってやがる。
「おお、それはそれは近々婚約発表でもあるのかな?」
さらに上田さんまで便乗してからかってくる。
はぁ、仕方ない。
「ほんと、結構いいとこだったのに、空気の読めない親父の通信で雰囲気ぶっ壊れちゃったよ」
「なんだと?今日は誰と居たんだ?」
「さぁね。あと婚約とかはまだだよ、上田さん。」
さすがに俺の動向は連絡が入るよな、プライバシーが最低限守られているのは俺専属の使用人である黒子が手を回してくれてのことだろう。
俺は親父を軽くあしらって上田さんの質問に答えた。
「そうか~でも龍仁君ももうそういうことする年なんだね。上田、お前このままじゃ龍仁君に先を越されるだけじゃなく婚期も逃すぞ?」
松本さんによってからかいの的が俺から上田さんに移る。
「上田~まだ、彼女いないのか?唯香とか口説いてみたらどうだ?」
親父が冗談めかしてそう言うと目の前に鬼が降臨していた。
「誰が誰を口説きますって?隊長」
「ゆ、唯香。どうしてここに?」
唯香さんは20歳にしてこの隊の副隊長を任される超エリート魔法使いだ。現在は魔法機関研究部の2年生でありながらこの開発部隊にも所属している。
そんな唯香さんを相手に40代の親父が焦る。
本当にこの人は強い女性の尻に敷かれるのが得意だな。
「親父、話し込んでて気づかなかったかもしれないけどもう後方だよ?」
俺たちは全速力で走りながらこのように会話をしていた。
そのためほんの数分で撤退は完了していたのだ。
「上田さん?私を口説くおつもりで?」
「い、いえ、副隊長。滅相もございません」
年は上田さんの方が結構上だったはずだけど……さすが唯香さん強いなぁ。
「そうですか、ならばいいです。それより龍仁君、今日も一緒に帰りましょう?」
態度を一変させて唯香さんが俺を一緒に帰ろうと誘う。
いつもなら一緒の車に乗って送ったり送られたりするが今日は夏葉の待つホテルの方へ帰らないといけないため、なんとなく気まずかった。
「あー、唯香さん今日はちょっと……」
俺がそう言うと唯香さんは不審そうな顔をして俺を見つめる。
「龍仁君、こんな時間にまだ予定が?」
あ、この感じまずい。
俺は何となくデジャブを感じる。
「こいつ今日ホテルに泊まってるのさ」
やっぱり、この親父は余計なことしかしないな……。
「ホテル?どういうことですか?」
さて、どうしたものか。
俺がそう考えて居ると思わぬ助け舟が出される。
「花凛さんと喧嘩しちゃったんだって」
松本さんだ。しかも的確……ほんとこの人は。
「そうなんです。花凛と喧嘩しちゃって一日くらいお互いに頭を冷やそうかと」
俺はありがたくその舟に乗ることにした。
「あの花凛ちゃんと龍仁君が喧嘩?にわかには信じがたいですね」
「まぁ、俺達もちょっと仲がいいってだけで兄妹ですから、喧嘩くらいしますよ」
「ふーん、まぁ今日はそういうことにしておいてあげる」
ジト目をしつつ唯香さんは普段の砕けた口調に戻る。
「それじゃ解散しましょ。お疲れ様でした」
ちなみにさっきから黙っている親父と上田さんは上田さんが親父が余計な口を挟まないようにと目を光らせてくれていた。
本当にありがたい。
「お疲れ様です、それではまた」
俺はそう言うといろはに連絡を入れ、最初に降りたくらいの場所で待っていたいろはの車に戻った。
「おかえりなさいませ、龍仁様。お疲れ様でございます」
「ああ、ただいまいろは。そんなにかからなくてよかったよ」
「龍仁様が出られたのですから、私は一瞬で終わると分かっていました!」
「ははは、いろははお世辞がうまいなぁ」
「お世辞などではございません。本心です」
いろはは少し妄信的なところがある。星と気が合いそうだ。
「そういえば、夏葉の様子はどうだった?」
「何やら、黒子さんと仲がよさそうにされていました」
「黒子と?」
「はい、どうにも龍仁様のお話で盛り上がっておられた様子です」
「俺の話?黒子も夏葉も変なこと言ってなければいいけど」
「龍仁様のお話なら変なことなどございませんよ」
「そ、そうか。まぁとりあえず帰るか。いろは頼む」
「承知いたしました。お乗りください」
俺がそう言うといろははわざわざ俺の目の前の車の扉を開けてくれる。
妄信的なところがなければ超優秀なんだよな、いろはは……。
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