第19話 未開域の魔獣
いろはの態度で必要以上に緩んだ集中力を改めて高める。
「第一隊黒命、現場付近に到着しました」
俺は車を降りて未開域に向かって走りながら自分の部隊へ連絡を入れた。
俺が連絡を入れるとすぐに返事が来る。
「龍仁君、こちらはまもなく戦闘が始まる模様よ。あとどれくらいで合流できそう?」
「あと2,3分といったところです」
「了解、魔獣は蛇型の物が一体。進行速度が速いからなるべく急いで」
「了解しました」
俺は戦闘予定地へ急いだ。
魔獣との戦闘はあらかじめ魔獣の進行方向から到達地点を予測、または誘導し、未開域の中でも戦いやすい場所に戦闘予定地を確保した状態で行われる。
「この気配、終治も来ているのか」
終治は俺と同じように未開域開発部隊の第二隊に所属している。
赤の魔法の征伐は簡単に言えばルールの設定という概念創造の魔法だ。
再生力の高い未開域の植物に対しては特効ともいえる魔法だろう。
今回の戦闘予定地確保には終治の魔法が使われている。
しかし、また征伐の有効範囲が広がっているな……
そんなことを考えながら俺は戦闘予定地に到着した。
「あっ龍仁君、お疲れ様」
「お疲れ様です、魔獣は?」
「もうすぐ戦闘開始よ」
「了解、配置につきます」
「ええ、気を付けてね」
「はい、唯香さんもお気をつけて」
俺は第一隊副隊長の唯香さんにそう挨拶をして自分の持ち場へ向かう。
唯香さんは支援要員で、基本的に後方から情報面でのアシストをしてくれている。
そのため、戦闘員の俺達と比べると戦闘力は高くない。だからなるべく後ろにいてほしいのだが、今回は相当前線にまで上がってきているようだ。
「20秒後接敵します!」
唯香さんから接敵の情報が伝えられた。俺の眼にもはっきりと異形の生物、魔獣が映る。
「龍仁、来たか」
「はい、隊長。俺が片側の羽を落とします。短期決戦で行きましょう」
「そうだな、よし全員聞いたな?龍仁が羽を落としたら一気に叩く。合わせろよ?」
俺が隊長にそう提案すると、隊長がほかの隊員へそのまま指示を出す。
「対象の魔法射程圏内を確認、戦闘開始します」
俺はそう言うと同時に魔獣の右翼に向かって崩壊を発動した。
今回の討伐対象となった魔獣は蛇型だと言われていたが、全長10mほどの蛇の体に、どの生き物にも見られないような大きな翼、肉食獣のような顔を持っていた。
魔獣は羽をはばたかせながらも泳ぐように体をうねらせて、未開域の巨大樹の間を縫ってきていたが、俺が右翼を崩壊で切り落としたことによって飛行能力を失い地面へと落下する。
落下した魔獣はけたたましい鳴き声を上げる。
「飛行能力の喪失を確認。隊長!」
「ああ、お前ら行くぞ!」
隊長がそう言うと残りの隊員二人も続く。
しかし、そう簡単には決まらなかった。
「この大きな魔力反応、まさか……」
俺の眼が高威力の魔法発動の兆候を捕らえた。
「全員散開回避!高威力の範囲魔法の発動兆候!」
俺は魔獣の自爆ともいえるような魔法発動の兆候に反射的に指示を出す。
俺の突然の指示にも動揺せず隊員は即座に回避行動をとった。
直後、大きな爆発音とともに周囲に衝撃波を発生させる魔法が発動された。
「龍仁、いい判断だった」
煙で辺りが見えない中、隊長の声が聞こえる。
……魔獣の気配はさほど近くには感じられない。
だが先ほどの自爆の様な魔法で力尽きているとは思えない。
この視界不良の状態、魔獣も視覚には頼れないだろう。
ここはいったん陣形を組みなおして……とそんなことを考えて居た俺の頭に、唯香さんの言葉が蘇る。
あいつはあの顔でも蛇型と言われていた。
唯香さんが魔獣の不確定情報を戦闘直前に伝えるとは思えない。
まさか、あの魔獣の目的はこちらの視覚を奪うことなのか!?
「隊長、まだです!あいつは視界を奪うことが目的です。きっとまだ生きています」
蛇は熱感知能力を持っている。
あの魔獣が蛇なら、視界が悪くとも関係ない。
案の定、俺の予想は当たっていた。
魔獣は音もなく這いより、その巨体で隊長に体当たりをした。
「――隊長っ!」
とても生物同士がぶつかったとは思えないほど鈍い音があたりに響いた。
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