第10話 兄妹?

「そういえば兄さん、どうして今日は銀世家に行ってたの?」

 夕食を食べ終わり、リビングで二人くつろいでいると花凛がそう聞いてきた。

「ああ、それはウォーゲーム出場許可をもらいに行ったんだよ」

「なるほどね、たしかに兄さんがいかないといけない問題か」

 あれだけ文句を言っていた花凛も真剣に納得している。

「ああ」


 どうして俺がわざわざ銀世家まで星の出場許可をもらいに行ったのか。

 それは銀世の固有魔法と過去に起こった事件に関係がある。 

 まず銀世の魔法について、銀の魔法「世界」は小範囲の設置型魔法である。その能力は簡単に説明すると範囲内のものを魔法使用者の任意の状態で保存し、保存した状態を再現できるというもので、この魔法は死さえ乗り越えることができる。

 同時に保存できるものは使用者のよく知る人間・物という条件はあるものの人間で最大5人、物なら8つと規模こそ少ないが魔法力が続く限り味方を無敵にできるような力である。

 このように圧倒的な有用性と力を持つ銀世の魔法は国が何重にも情報を隠匿しているにもかかわらず、国内外の様々な者に狙われており、星は一度外国勢力の刺客に誘拐されかける事件があったのだ。

 この魔法の欠点は魔法使用時の使用者の無防備性にあり、中等部で行われる機関外部での実践訓練の際にそこを突かれてしまった。

 この時はちょうど近くにいた俺とまつりが全力で刺客を迎え撃ったため、大事には至らなかったがこの件を持って銀世家の護衛は最重要課題となり、俺とまつりが主に護衛を務めることになったのだ。

 よって、それ以来星が銀の魔法を使う可能性があることをする際は事前確認がとれるものについては銀世家へ確認することにしている。


「それで、許可はもらえたの?」

「ああ、影から守るという条件付きだけどね」

「割とすぐ許可はもらえた感じ?」

「ああ、ずいぶんあっさりもらえたよ」

「ふーん、それなのにこんなに遅かったんだ」

 誘導尋問だと……。

「いや、まぁそのあとさっきの話についてひと悶着あってだな」

「へー」

 さて今回はどうやってご機嫌を取ろうか。などと考えていたがどうやら今回は違うようだった。

「まぁいいや」

 だが花凛が何も言わずにいいやだなんて珍しい。

「でもその代わり、兄さんは妹を甘やかさなければなりません」

 そういうと、俺の足の上にのそっと移動してくる。

 花凛は同世代の女子の中では背が高い方だが、それでも俺とは一回り程違う。

 もぞもぞと動き、収まりの良い位置を見つけると俺を見上げた。

 仕方ないと俺は花凛の頭をなでる。

「兄さんはねー、意外と抱え込んじゃうからね」

 気分がよさそうな顔をしながら続ける。

「妹が甘えることによって悩みを減らすの」

 どういう理論なのかはわからないが俺は黙って、花凛を甘やかし続けた。

 普段からべったりな花凛だが、ここまで極端に甘えてくることはあまりないことだった。

 いつもの俺なら花凛も何かを相当に思い詰めていることに気が付いたのだろうが、今日の俺は疲れからか、それとも少し前の結婚など責任の伴う重大な発言を引きずってか、察しが悪いようだった。

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