第2話 十色と生徒会
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私、紫乃雪乃は十色紫の直系である。私は七組になったことを内心踊りだしそうなほど喜んでいた。理由は幼いころから一途に思い続けている龍仁さんがいるからだ。
しかし私は星さんのように龍仁さんにくっついていくことが苦手なため、彼と二人だけで生徒会役員候補に選ばれたということに感激してしまっていた。
そんな私は龍仁さんの「雪乃行くぞ」という声で一気に現実へ引き戻される。
少し遅れて上ずり気味に「は、はい」と言って、龍仁さんに続いた。
教室を出るころには落ち着きを取り戻し、他の邪魔が少ない今、龍仁さんと何か話そうと彼の方を向いて私は絶句した。
呼ばれていないはずの星が龍仁さんの横にいたのだ。
しかし私は嫉妬と同時に納得もした。
彼女の護衛であるまつりさんが違うクラスだったことは今朝確認済みである。そのため機関内にいる間は龍仁さんが代わりを務めているのだろう。
「はあ……」と思わずため息をついた私に龍仁さんは「雪乃は生徒会役員を引き受けるのか?」と聞いてきた。
今回の会話は意識していなかったとはいえ少人数で移動していることもあり、自分が話しかけられる可能性を考慮していた私は上ずることこそなかったが、同時に答えに迷った。
そのため私は少しズルをすることにした。
「龍仁さんはどうするのですか」
すると龍仁さんは迷う様子を見せず言い切る。
「まぁ生徒会活動のある放課後は星の護衛もないし、どうせ暇だから引き受けるつもりだよ」
「龍仁さんがお引き受けになるのでしたら私も引き受けます」
星さんから少し視線を感じましたが、これくらいのズルは許してほしいです。
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生徒会役員室につくとそこにはよく知った顔が勢ぞろいしていた。
一組、十色金の直系である
二組、十色青の直系である
三組、十色赤の直系である赤司終治、十色碧の直系である
四組、十色黄の直系である黄桜彩華。
五組、
六組、
七組、十色黒の直系である黒命龍仁、十色紫の直系である紫乃雪乃。を含めた九人だった。
役員室に入ると俺は「まぁ星とまつりがだめなら、このメンツだろうとは思っていたが」中等部からの代り映えのなさに内心あきれたようなことがこぼれた。
それに対し夏葉が「まぁ代り映えしないと思うのはわかるけど、まだ高等部に来てから何もしてないからね」と相槌を打った。
この二人が醸す雰囲気はただの友人とは言うだけでない、お互いを理解しあったようなものであったため、龍仁に思いを寄せる二人(星と雪乃)は少しムッとした雰囲気を出していたが、ほかのメンバーはこの会話で空気が緩んだのか各々周りと話し始める。
しかしそんな緩んだ空気も彩奈の手をたたく音で現実に引き戻される。
「はいはい静かに、いつもの顔ぶれなのはもう仕方ないでしょう」
笑いながら言うと、彼女の横に立っていたもう一人の女生徒に視線を向けた。
つられて皆がもう一人を見ると、少しの動揺・どよめきが走った。
彩奈の横に立っていたのは言うまでもなく生徒会長だと考えられるが、ほとんど全員の顔を知っているはずの魔法機関生の内では見たことがない顔だったからだ。
「皆さんどうもはじめまして。魔法機関高等部生徒会会長の
星や夏葉と同じくらいきれいな所作で腰を折った麗は、「私は高等部入学を期にこちらへ編入しました。」と続けた。自己紹介はそれ以上続けず、私のことは役員が決まってからでいいでしょうと言って彩奈に視線を返した。
それを受けて彩奈も頷きこう言った。
「早速だが、生徒会役員を引き受けてくれる者は自分の前にある席へついてくれ」
生徒会役員室は生徒に割り当てられるには相当大きな部屋である。
その部屋の奥には会長席があり両側に副会長席、そして大きな十二人掛けの円卓がある。
何人かが席につこうとしたとき、勝利が呼び止める。
「質問よろしいでしょうか。」
勝利の言葉に彩奈が答える。
「いいぞ」
返答をもらった勝利がこう質問した。
「もし仮に今ここにる九人全員が引き受けるといった場合役職はどうなるのでしょうか?」
きっと何人かはそう思っていただろう。普通に考えれば生徒会役員など五、六人もいればいいはずだ。
しかし彩奈は引き受けてくれる者は座ってくれとしか言わなかった。
一年生だけで九人も入ってしまえば、明らかなバランス崩壊を招きかねない。
この質問への返事は彩奈ではなく麗から返った。
「現生徒会に残っているのは副会長枠1つ、書記枠2つの3つですので三人の方はこの役職に残りは後ほど決めます。」
この言葉に現生徒会役員の二人以外は皆驚いた様子だった。もちろん俺もだ。
しかし皆の驚いた顔を見るや、言葉が足りなかったと感じたのか麗は「候補は考えてあるので役員になっていただいた後、皆さんと共に必要不必要を考えようと思いまして」と付け加えた。
その言葉に一応納得し、星を除く全員が円卓についた。
「皆引き受けてくれるということでいいんだな?」
彩奈が最終確認に誰も異議を唱えないことを確認する。
「一人だけ立たせておくのも申し訳ないし銀世さんも座っていいわよ」
「ご配慮ありがとうございます。お言葉に甘えます」
生徒会長に言われた星はそう言って右回りに詰めて座っていた円卓の一番端、雪乃の横に座った。
全員が席に着いたのち、生徒会長が言っていた新しい役職についての会議が行われた。
HRから二時間以上経過してようやく話には結論が付いた。
今日は進級日ということで他に授業はないためほかの生徒はほとんど全員残っておらず、はじめは教室で待っていたまつりも一時間程度経った頃にはいつの間にか合流していた。
結果的に俺が副会長、夏葉と雪乃が書記となり元から残っていた枠は埋まった。
次に決まったのが魔法不当使用の取り締まりを行う巡回員、こちらは四人で勝利、終治、海、協也。ここまでは一時間以内に決まっていた。
問題は残りの二人彩華と日向であった。この二人は攻撃向きの魔法が得意ではないため巡回員には向かない。もちろん生徒会役員候補に選ばれる程度の実力はあるため全くできないということはないが、他のメンバーに比べると戦闘力の面で見劣りしてしまうのは確かである。
そういったこともあり、ああでもないこうでもないと議論を続けた結果予想以上に時間がかかってしまったのだ。
結局二人は魔法機関では他校や普通の学校に比べ高等部の段階でも相当な額の支援がされていることから、会計を務める二年生二人の補佐役として会計補佐になることが決まった。
はじめは俺も巡回員になろうと考えていたが、他の十色、特に夏葉と雪乃による強い推薦で副会長になっていた。最後まで何とか抵抗しようとしたが、勝利の「まぁ俺達の統率が取れるのはお前か俺くらいだろうからな」という言葉に俺以外の全員が納得する形で決定された。
そのあとは軽い説明のみで解散となった。
今日はもうやることもないし帰るか、と俺がまさに帰ろうとしていたところ勝利から呼び止められる。
「龍仁、久々に一本付き合ってくれ」
俺が返事をする前に、続けて横にいた終治からも肯定の声が上がる。
「いいね、僕ともやろう」
この流れは……。
「ふふ、いつもどおりだね」と日向。
「まったくこの戦闘バカどもは」とまつり。
「龍仁様のご雄姿ぜひ見たいです」と星。
こうなってはどうも断り切れない。
「会長、実技演習棟の対人演習スペースは使えますか」
俺は会長に機関内にある戦闘訓練用設備の使用を申し出た。
「初日からですか」と若干驚きながらも「はい、使えますよ。この後十五分後から一時間取っておきますね」
会長権限で即時の予約までしてくれるようだ。
いつも突然こうなるから非常に助かる。
「その代わりといってはなんですが、……私も観戦しても?」
「もちろんです。予約までありがとうございます」
俺がそう言うと夏葉が「それでは、皆さんでお三方の観戦をしてから帰りましょう」といって一行は演習棟へ向かった。
夏葉が必要以上に丁寧な口調になっていることに若干の可笑しさを覚えたが、あえて突っ込まずそのままにしておいた。
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