第3話 好戦的な友人
高等部の実技演習棟は本館の裏手にあるドーム型の大きな3つの建物である。建物自体も相当な大きさだが内部は空間を拡張する魔法によってさらに広くなっており、さまざまな魔法を用いた競技に利用されている。
「さすがは本館の演習棟、空間拡張の魔法の規模が第二館までとは段違いだ」
終治がそう言うとほかの皆も同意する様子でうなずく。
一年生達が感心している中、麗が「ルールはどうします?」と龍仁へ問いかける。
龍仁は「そうですね」と一瞬考えたあと、「縦50m横20mの制限魔法空間、一対一形式でお願いします。」と言った。
「わかりました」
そう言って麗は演習棟内に龍仁が言ったとおりの制限魔法空間を展開した。
制限魔法空間とは、その内部で起こった魔法による影響を外に与えないためのものであり、演習棟の機能の1つである。
これによって制限されるのは魔法のみなので音などは空間外にも聞こえるようになっており、空間内では自由に魔法を使うことができる。
この魔法は機能と規模が圧倒的で再現不可能と言われており、機関を作った初代十色・輝きの世代の特別な魔法なのではないかと考えられている。
制限魔法空間の展開を確認した俺は勝利と終治に少し挑発的な態度で質問した。「どっちからくる?」
「最初に誘った勝利からで」
「まぁそうだな」
質問に答えたのは終治で勝利もこれに納得している。
「お前ら二人でやるって考えはないのかよ」
そう言ってさらに挑発するも、二人はその突っ込みを無視して、スタートポジションへ向かっていった。
この挑発的な態度はいつものものである。
なにせ、実戦を伴う訓練が解禁された初等部の頃から、俺は誰にも負けていない。
二人もそれをわかっているためあえて俺には反応しなかったのだ。
それでもこれでは俺がただの嫌な奴に見えてしまう。はぁ、とため息をつきながら、しぶしぶ二人に倣ってスタートポジションへついた。
勝利と俺がそれぞれスタートポジションについたところで制限魔法空間の外から彩奈が審判は私でいいねと声をかける。
俺たちは無言で頷き、彩奈の「それでは試合開始」という宣言とともに動き出す。
勝利は小手調べがてらと、金の固有魔法で圧縮した重力の弾を放つ。
金の魔法
「……小手調べに地形変えようとしてんじゃねーよ」
そう言いながらその魔法を黒の固有魔法で崩壊させた。
黒の魔法
「さすがにいい魔法だな」
そう言いながら重力操作によって浮遊する勝利。
「おいおい、俺に浮遊は悪手だぜ」
そう言って勝利の周りの重力操作魔法を崩壊させた。
しかし勝利は俺が重力操作魔法を崩壊させる瞬間に「いまだ!」と叫ぶ。
俺の後ろから背中にめがけて圧縮した重力弾を放ったのだった。
麗は一年生二人の驚異的な魔法力に圧倒されながらも、これには龍仁も対処できまいと考え、横にいた彩奈へ「勝負ありましたね」と話しかける。
すると彩奈はにやりと笑いながら「そうだな」と答えた。
俺は感心していた。
あえて俺に対し浮遊をして見せその崩壊の瞬間に、俺に攻撃を仕掛けるとはなかなかいい作戦だ。ついこの前まで穿空の威力に頼り切っていた勝利がここまで戦略的な作戦をとってくるとは考えていなかった。
……だが。
「これくらいじゃ、俺は突破できねーよ」
そういうと俺は全く後ろを見ずに後ろから迫っていた穿空を崩壊させ、落下中の勝利が再度重力操作を使う前に拘束魔法で勝利を捕らえた。
「勝負あり」
そこへ彩奈の声が響き、俺と勝利の試合は俺の勝利で決着した。
魔法は細かい対象を自分で認識していないと思い通りに発動させるのは難しい。
特に視覚による情報は魔法を使うものにとっては最も重要である。しかし先ほど龍仁は全く後ろを見ずに自分へ向かってくる魔法を、崩壊させて見せた。
呆然としている麗に笑いながら彩奈が話しかける。
「どうだ麗、見たか?あれが当代最強と言われる十色、黒の魔法使い黒命龍仁だよ。
あいつに認識は関係ない、龍仁は思ったところへ思った通りの魔法を発動させることができる。それだけでも強すぎるのにあの黒の魔法だ。反則だよ」とあきれながらぼやいた。
それを聞いた麗は衝撃のあまり、口元を抑える以上の反応ができていなかった。
拘束魔法から解除された勝利は「さすがだな」と言って俺の方へやってきた。
「お前も相当魔法制御力が上がったんじゃないか?見えていない背中に向けて魔法を放ってくるとは、予想外だったぜ」
そう言われると勝利は満足そうに「じゃあ一本とれたということでいいのか」と半笑い気味に言ってくる。
「それはまだだな」
俺は笑い返すと、踵を返し終治に声をかける。
「終治、やるならさっさとやろうぜ」
「あれを見せられた後にやる気は起きないけど」
苦笑いしながら俺の反対側へ歩いて行った。
「龍仁、連続で問題ないな?」
彩奈先輩が念のためにと声をかけてくれた。
「問題ありません。続けて審判をお願いします」
俺が答えると一度終治の方も確認し本日二度目の声が響いた。
「試合開始!」
試合開始直後、終治は俺ではなく自分を対象に赤の魔法を使った。
赤の魔法「征伐」は自分の決めた領域内におけるルールを定める魔法である。魔法による影響は自身を含めて領域内にいるすべてのものに効果を及ぼす。
基本的にはこのルールに制限はないが、効力が強くなればなるほど魔法の持続時間は短くなり、魔法使用者にかかる負担も大きなものになる。
今回終治が設定したルールは領域内での終治の魔法に対する魔法利用を禁止するというものである。
俺は終治の展開した征伐に対して崩壊を発動させようとしてそれができないことに気が付いた。
「なるほど自分ではなく、自分の魔法に対する魔法を禁止したのか」
勝利に続いて、終治にも驚かされ考えたことがつい口に出てしまう。
これが実戦ならば終治本人に対して魔法を使えばいいが、俺の魔法を人に向けて使ってしまうと、その人が崩壊し消滅してしまう。つまり殺してしまうため、終治はこの強すぎるゆえの弱点をついたのだった。
ならば崩壊以外で攻めるのみと俺は圧縮した空気の弾を終治に向けて放つ。
しかし汎用魔法の腕だけでは、俺と終治は拮抗している。そのため空気弾は終治に大した影響を与えることはできない。
「今回こそ勝たせてもらうよ 龍仁!」
「いや、勝つのは俺だ 終治!」
魔法による魔法への干渉を禁じている終治は語気こそ強くなっているものの、冷静に龍仁の動きに合わせて、魔法を打ち込んでいく。
崩壊による魔法の破壊ができなくなった龍仁は、このまま中距離の砲撃戦を続けていてもそのうち躱し切れなくなると判断し、近接戦へ切り換えることにしたようだ。
俺は自分に身体強化の魔法をかけ終治へ突撃した。
「それを待ってたよ!」
自分の至近距離まで接近していた龍仁に終治は思わず、歓喜の声を上げてしまう。そしてあらかじめ設置しておいた入念に痕跡を隠していた設置型の拘束魔法を発動した。
しかし、まだ俺の方が上手だ。
「終治、勝ちを焦ったな」
勝ちを確信していた終治は組み敷かれている現状を理解するのに一瞬ほどの時間を要した。
「勝負あり」
彩奈から勝敗決定の宣言がかかり、龍仁と終治の演習試合は終わった。
「さすがは龍仁様です」
制限魔法空間が解除されるとすぐに星が駆け寄ってくる。
「最後の魔法は上位魔法の空間魔法の一種、瞬間移動ですか?」
「そうだよ。さすがは星、よくわかったな」
褒められた星は嬉しそうにしていた。
「それより終治、あの設置魔法発動の瞬間左右もしくは後ろに大きく飛んで引いていれば勝てたかもな」
興奮気味にまくし立てる星を抑えつつ終治との演習に感想をつけた。
終治は何か言いたそうな顔をしていたが、まぁいつもよりはよかったかと自分を納得させることにしたようだった。
「すごいですね龍仁君 正直想像以上でした」
少し後から来た麗も絶賛してくれているようだ。
「それほどでもないですよ」
「まさかその年で上位魔法まで使えるとは本当にすごかったですよ」
そこまで言い終えると、いいものを見せてもらいましたと言って麗は彩奈の方へ戻っていった。
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