第11話
「失礼しますサレトス様!」
国王の部屋にノックも無しで入る程焦っているシュミトはここに来るまでにかなり急いで走ってきたようで、息を切らして膝をつきながらもサレトスを敵意のこもった視線で睨んでいる。
「なんだシュミト!! 無礼であろう!!」
サレトスは入ってきたシュミトを見るなり、顔を真っ赤にして怒鳴りつける。無断で部屋に入ったというだけにしてはやけに怒りが激しい。
「申し訳ありませんサレトス様。ですが、急ぎ確認したいことがございまして。彼女を、シーナをここの地下牢獄に閉じ込めた、というのは本当ですか?」
シュミトは王城についた時点でシーナを自分の信頼できる部下に任せ、自分は別の仕事に取り掛かっていたのだが、先程その部下から国王の命令でシーナを地下牢獄、しかも大罪人を捕らえておくための最深部へ閉じ込めたという報告が入ってきた。
「それがどうした! とっとと出て行け!」
当然だ、と言わんばかりのサレトスの態度にシュミトは下唇を噛み、慎重に言葉を選ぶ。ここで、一言でも責める様な事を言えばサレトスはさらに過激な行動に出る可能性があるからだ。
「・・・・・・やはり、本当だったのですね。では、村長の家に脅迫に近い手紙を送ったというのも――――」
「だからそれがどうしたと聞いてる!! これから勇者リオンを呼び出した場所へ向かうのだ!! とっとと出て行け!!」
サレトスはシュミトの顔に唾が飛ぶほどの勢いで怒鳴り散らす。
「サレトス様。無礼を承知で申し上げさせていただきます。今すぐ手紙を回収に向かわせてください。そして、シーナを解放し――――」
「黙れシュミト!! 貴様の魂胆はわかっているぞ!!」
その言葉にシュミトはピクッ、と眉を動かす。動揺を顔に出さないようにしていのだが、その反応を見たサレトスはますます激怒している。
「・・・・・・魂胆、と申されますと?」
冷静を装って言ったセリフにも覇気がない。一瞬、シュミトはここは力づくでも止めるべきなのではと考える。自分の考えがバレているとすればサレトスは自分を切るからだ。
だが、いくらなんでも手を出すわけにはいかない。ここは誤魔化しきるしかない、と覚悟を決めるシュミト。
「貴様、アシュレイ王の直属部隊へ連絡を取っただろう!! 私があの亜人を人質に取って勇者リオンを呼び出せなくするように!!」
そう、シュミトが城へ帰ってからしていた仕事とはその事だったのだ。元々シュミトはシーナを人質に取る気などなく、彼女を連行しサレトスの作戦の通りの様に見せかけて裏でアシュレイ王直属部隊に王城まで来るように連絡していた。
アシュレイ王ならば人質をとるという卑劣な作戦は絶対に許さない。だが、直接告げ口してしまえばアシュレイ王のこの国への評価が下がってしまう。
なのでシュミトはサレトスが自分の意志でやめるような策を講じた。アシュレイ王の直属部隊が来ればそんな事は出来ないので王城へ来てもらえるようにし、後は時間稼ぎにシーナからニセの勇者リオンの情報を手に入れた事にしてそちらにサレトスの注意を向ければサレトスがシーナを人質に取る事は出来ないはずだった。
「それは、勇者リオンへの対策の為でございます。彼が本気を出せば王城ですら簡単に落とされてしまいますから、それを防ぐために――――」
「くだらん言い訳をするな!! どう考えても私の邪魔をしようとしたようにしか思えん!! 貴様はクビだ!! とっとと出て行け!!」
ただただ感情的に怒鳴り散らすサレトスにシュミトは無言で頭を下げ続ける。しばらく怒鳴り続けていたサレトスだったが、しばらくすると怒鳴りつかれたのかシュミトを突き飛ばして部屋を出て行く。
サレトスが出て行った後もシュミトはこれからどうするか考え続けていた。サレトスに何を言っても無駄なのはわかっているが、黙って見逃すわけにもいかない。
しかし、自分の意見をこれ以上サレトスが受け入れてくれるとも思えなかった。そして、部下も信頼は出来るとはいえあくまでも国王に仕えている者達である。王に逆らってまでシュミトの指示に従う者はそこまで多くないだろう。
なのでシュミトは少しでも状況を改善するために一人でも行動を始める。
「これは、本格的に厄介だな・・・・・・」
リオンとリン、そしてトウマはシーナの部屋に集まって深刻な面持ちでこれからの自分たちの行動について話し合っていた。中でもトウマは深刻を通り過ぎ、悲愴な表情になっている。
理由は当然、シーナの閉じ込められている場所のせいだ。
「王城の、地下牢獄・・・・・・しかも、拷問部屋まであるって・・・・・・ま、まさかシーナの奴、拷問とかされてるんじゃ・・・・・・」
「いや、それは大丈夫だと思う。人質を傷つけるような真似はしないはずだ」
「そ、そうか。そうだよな・・・・・・」
心配そうなトウマを安心させるためにそう言ったリオンだが、内心ではその可能性を否定しきれずにいた。人質を取るなどという事をしてくる相手だ。拷問して俺達の居場所を聞き出そうとしてもおかしくない、と。
そして、問題は拷問を受けてもシーナは何も喋らないだろうという事である。喋ってしまえばそこで拷問は終わるが、喋らなければエスカレートしていき、最後には殺される可能性もある。
なので、今すぐ助けにいかなければならないのだが・・・・・・
「問題はどうやって入るか、だよねー」
地下牢獄は普段から厳重な警備である。犯罪者を収監しているのだから当たり前だが、今はリオンが地下牢獄へ来た時に備えてそれ以上の警備になっている。
それでも、侵入だけなら簡単である。例え一国の騎士団が束になってかかってこようともリオンに勝てる可能性は皆無に等しいのだから。問題なのは、
「見つかるわけにはいかないからな。入るだけなら簡単でも見つかったらその時点でシーナを人質に取られて終わりだ」
「うーん・・・・・・あ、でもパパなら見つからないで行ける魔法とかあるんじゃないの?」
「見つからない魔法はいくつかある」
「じゃあそれで――――」
「それがダメなんだ。地下牢獄っていうのは基本的に魔法禁止空間だからな。そういう効力のある鉱石が至る所に散りばめられてる」
魔法を使われると脱獄が容易になってしまうためそれを防ぐため、というのに加え外から脱獄させることも難しくさせている。本来ならば位置を突き止める事すら不可能なほどに厳重に守られているのである。
「そっかー。それじゃあダメだね・・・・・・」
「ああ・・・・・・とにかく、俺は呼び出された場所へ行ってみる。俺が行かないとシーナの命が危ないしな」
そう言って立ち上がるリオン。その表情は未だ重かった。
「リ、リオン・・・・・・」
「そうだねー。私達が行かないとシーナお姉ちゃんの――――いてっ!」
一緒に立ち上がろうとしていたリンの頭をリオンが殴りつけ、立ち上がるのを阻止する。
「何言ってんだ。行くのは俺だけだ。お前はトウマと待ってろ」
「な、なに言ってるのパパ! あの手紙には私達二人でって書いてあったじゃん!」
「それでもだ。お前を連れてくわけにはいかない」
「やだよ! パパとシーナお姉ちゃんが危険な目に合ってるのに私一人だけ残るなんて絶対にやだ!! 私もパパと一緒に――――うっ!?」
リオンが鳩尾に一撃入れると、それだけでリンは気絶してしまった。気絶したリンを片手で軽々と持ち上げたリオンはそれをトウマへ手渡し、深く頭を下げる。
「・・・・・・悪いがトウマ、こいつを頼む。・・・・・・俺がもし戻らなかったらその時は遠くへ逃がしてやってくれ。代わりにってわけじゃないが、シーナは絶対に助ける」
「・・・・・・ああ。リオンの頼みなら俺は構わない。だけど、戻って来ないなんて言うな。この子が目を覚ました時にお前がいなかったらどれだけ悲しむと思ってる」
「そう、だな。絶対戻ってくるよ。それじゃあ行ってくる――――と、その前に」
格好良く立ち去ろうとしたリオンは一つやり忘れている事を思い出し、手紙を手に取り一言だけ書き添えると、
「『帰巣本能』」
魔法を手に持っている手紙にかける。すると、手紙はリオンのからふわりと浮き上がったと思ったら、窓から勢いよく空へ向けて飛んで行ってしまった。
「? なんだ今の魔法は」
「気にするな。それじゃあ、俺は行くから」
不思議そうにしているトウマを尻目に、リオンは今度こそ部屋を出て東へと向かう。
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