第3話 配信2回目 地球救済計画 続き

:全俺が泣いた

:いい話だなー

:でもVtuberなった経緯がまたなくない?


「Vtuberになった経緯ですね」


 アニメやマンガにハマったモコスだったが、無料では限界がある。海賊版や違法視聴は、モコスの中の良心回路がダメだダメだとささやきかけるのだ。

 

「正規の方法でアニメやマンガを楽しむには、地球で活動するための資金と、そして身分が必要です」


 警告するために地球の最高権力者に会いに行った時も、流暢に現地語を話す外国人で、しかも身分証も何もないことからスパイと疑われてしまったのだ。


「資金は金、ゴールドで手に入りました。鉱物の取得物は拾った人の物ですから。これは物質合成機で作った人工の金でしたが、自然物との区別はつきません」


:物質合成機!

:金を合成って錬金術じゃないか

:お金儲け放題。うらやましい

:お前ら設定の話になにマジで突っ込んでるの?

:設定だろって言うのも無粋ってものだよ

:そうそう。設定なんて作っても守らないVtuberが多い昨今、これだけ作り込んで設定も守ってくれるんだ。それに乗るが礼儀ってものだよ

:俺は信じてるよ!だから金を分けて!

:あ、ずるいぞ。俺も俺も


「金での資金作りは最初だけです。違法性はないとはいえ、無制限にやると現地の経済にダメージが生じかねませんし、あまり目立つと宇宙人であることがバレるかもしれません」


:堂々と宇宙人と名乗っておりますが?

:【悲報】宇宙人というのは極秘だった

:俺はモコスちゃんの秘密は守るよ!


「私が宇宙人だと言っても、ほとんどの人は設定だと思って信じないでしょう? むしろこれで信じるほうがおかしいです」


:Vtuberで宇宙人も珍しくないしな

:天使とかモンスター、犬や猫。なんでもいるぞ

:それでVtuberを隠れ蓑に選んだのか


「しかし信じると言ってくれた方や設定に付き合ってくれた方には感謝です」


:いい話だなー

:いい娘だ。ずっと推せるわ

:それで身分はどうしたの?違法なのはダメなんでしょう?


「そこで目を付けたのはアール民主主義共和国です」


:でたー、アール国

:どこそれ?

:説明しよう。アール民主主義共和国とはアフリカにある独裁国家で、西側諸国に民主主義をやると言って多大な資金援助を得て、形式だけの選挙を実施したが、もう三〇年も大統領が変わっていない、民主主義の皮を被った独裁国家なのだ

:でも大統領選挙にはちゃんと勝ってる。政敵は時々行方不明になるけど


「アール国はお金さえあれば身分不詳でも国籍を取得でき、それは合法です」


:そうそう。合法なんだよね。だから犯罪者もよく逃げ込むから評判が悪いんだけど、大統領がやり手で経済は順調だし、国民の支持もそれなりに高いから他国は手が出せない。まあ国際指名手配犯なんかの逮捕には協力してくれるけど


:カジノがあって治安もいいから、リゾート地としても有名だよね

:ほへー

:宇宙人でも国籍が取れるとは草

:地球の入国管理はどうなってるんだ!


「そしてアール国でVtuber運営会社を設立。日本には就労ビザで入国、滞在して現在に至るというわけです」


:いいの?配信でそんなことを言っちゃって

:でも完全に合法なんだよなあ


「あまりよくないかもしれません。ですが宇宙怪獣の脅威に立ち向かうためには視聴者の皆さんの協力が必要です。だから隠し事はなるべくなしにしたいのです」


:どこ住み?

:身長と体重、スリーサイズは?

:SNSはやってる?

:リアルの顔が見たい

:君たちさあ……

:さすがにこれは引く


「住居は首都圏とだけ。スリーサイズは70の55の70。身長は145センチ、体重は75キロです。SNSは公開してますのでフォローお願いします。リアルの顔や体型はこのアバターとほぼ同じです」


:リアルとアバターがほぼ同じってマジならすごい美少女じゃん

:いや体重おかしくない?

:銀髪って目立ちそう


「体重はアンドロイドなので体の内部の作りがだいぶ違いますから。あと外に出る時は変装をするので目立つこともありません」


 しかし住居を構えてからは滅多に外出することもなかった。食事の必要はないし、ネットがあれば大抵の物は手に入るからだ。


「それで話を戻しますが、目標の一つが著作権的に問題のないマンガを手に入れ、それで資金を調達して宇宙怪獣討伐の艦隊を呼ぶことです。出版社が提供してくれるならより良いですし、アニメが手に入るならもっと良いですが、それは難しいでしょう」


 ホワイトボードにそれを書いていく。


:じゃあ二次創作はダメだな。オリジナルオンリーと

:モコスちゃんをモデルにするのは?


「許可します。でも性的なことはアンドロイドを縛る法がありますから厳禁です」


:銀河連盟で売るのにエロい同人もまずいだろう

:そもそもこの場に絵師は一人だけか?

:登録者数が増えれば、絵師も見に来るよ

:なるほど、Vtuberってのは良く考えたな


 実際Vtuberになるというのはいいアイデアだった。宇宙人と名乗っても不都合はないし、人気になれば絵師、漫画家やイラストレーターの協力も仰ぎやすい。

 なによりアニメ調のアバターというのが良い。Vtuberの持つチープな手作り感がモコスの琴線に触れたのだ。


「そして二つ目の案は地球脱出計画です」


 ホワイトボードにも2、地球脱出計画と書かれた。


「先ほども話しましたが、私に与えられた連絡艇は小型で一〇〇人も乗れば満員となりますが、物質合成機が搭載されています。それを使って大型の輸送船を作って地球人を脱出させます」


 しかしそれにも問題がある。銀河連盟のテクノロジーは宇宙怪獣が襲来が確定した段階でなければ、地球人に見せられない。

 設計図のある大型の輸送船は、居住性を無視すれば一〇万人は乗せられるはずだが、足が遅い。生命体殲滅が使命の宇宙怪獣が逃げる宇宙船を見逃すはずがないから、脱出も賭けとなる。


「もし輸送船を事前に見せて、宇宙怪獣が来なければ? 貴方がたの命がかかっているのもわかりますが、私にも守るべき規律があるのです」


 たとえ宇宙怪獣が襲来して輸送船が役立ったとしても、銀河連盟の法を無視したという事実は、モコスを破滅させるかもしれない。

 

:武装は付けられないの?


「宇宙艦隊が必要な相手ですよ。輸送船に積む程度の武器では効果が見込めません」


 武装の分重くなるし、建造にも時間がかかるから、それならいっそ武装はなしでいい。

 もう予定の期限から一年を消費してしまっている。宇宙怪獣の襲来が四年後ならばギリギリ一隻。九年後ならたぶん三隻か四隻作れるかもしれない。


「そして三つ目の案は地球防衛計画です」


 3、地球防衛計画と書かれた。


「輸送船の建造と同じ手法ですが、リソースを防衛兵器に割きます」


 もちろん宇宙怪獣を倒すには力不足だ。汎用アンドロイドと物質合成機で宇宙怪獣が倒せるなら、銀河連盟も苦労はしない。


「しかし時間稼ぎはできます。宇宙怪獣を足止めできれば地球滅亡のタイムリミットは伸びますし、その時間で救援を呼ぶことができるかもしれません」


 密かに作った防衛設備で時間を稼ぐ。稼いだ時間で現地政府と接触。銀河連盟の存在とそのテクノロジーを開示する。


「そして稼いだ時間で制作者や現地政府の同意の下、マンガやアニメの提供を受け、それを銀河連盟に発信。売り込みます。日本の誇る最高傑作がすべて使えるなら、確実に宇宙艦隊が動かせるだけの資金調達ができます」


:マンガとアニメが地球を救う

:胸が熱くなるね

:本当の話なら面白いけど、あんまり笑えない……

:設定にマジレスよくない

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