『煌めき晶騎士‐死の王ジェス篇‐』



(略)



  五章 崩壊の輪舞曲ロンド



「ジェス神殿が崩壊するぞ!!」

 大志たいしが叫ぶ。

 地面は小刻みに揺れ、次第にその勢いを増していく。

「ここはもう持たん! 脱出する!」

「おう!」

 真人まひとが呼応し、二人の晶騎士ライツは踵を返した。

 大小の瓦礫がれきが降り注ぐ中を駆け抜ける――地上へと向かって。

 だが、それを許さぬ者がいた。

「逃さぬ……」

 身体が半ば崩れ落ちた死の王ジェスが震える指先を大志に向ける。

 オオオオーーォォオオォーーーー……

 死者の嘆き声が幾重にも連なり、王の敵の足止めを試みる。

 霧のような、しかし確かに実体を持った無数の黒い腕が大志と真人の足元に絡みついてくる。振りほどいたそばから増えていき、ほどなく二人は一歩も進めなくなった。

「くっ! 離せ!!」

「真人! あれを!」

 大志はジェスを指差した。

 見れば、ジェスの手元にエネルギー波が集まっている。狙いは大志たちだ。まずい!

 オオォオーーォオォーーオーー……オ……オ……

 ふと、嘆き声にとまどいが混じり始めた。

 大志も異変に気づいた。

(なんだ……明るい。冥府めいふとは思えない明るさだ、いつの間に)

 見れば頭上から月光が降り注いでいる。地上と地下を隔てる厚い岩盤がくり抜かれ、吹き抜けのようになっていて、そこから夜空が、そして月が見える!

「おお、月が!!」

 長きに渡り、死の王ジェスの闇の力によってその姿を隠されていた月が、今、その姿を煌々こうこうと晒している。

 その光に真人は心当たりがあった。神話の時代、とある半神を憐れんだ月の光だ。

 足元を覆い尽くしていた黒い腕が虹色の光の粒となって消えていく。そして、大志と真人の身体がゆっくりと宙に浮かび上がった。

「ミュラス! ミュラスきさま、私を裏切るか!!」

 死の王ジェスが吠えた。

 虚しくこだまする叫びを背に、大志と真人は地上へと帰還した。



(『煌めき晶騎士ライツ‐死の王ジェス篇‐』。同名アニメのオリジナルノベライズ。現代に蘇った死の王ジェスと晶騎士ライツと呼ばれる異能の戦士たちの戦いを描く。全一巻。)

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