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 偉大なる神々の時代が終わり、人と神の交差する時代が始まりました。

 様々な花の神が地上の人々と交わり、半神の子らが次々と生まれました。ミュラスはそのうちの一人で化粧をつかさどりました。草花にあざやかな色彩しきさいあたえ、そこから人々を美しく装います。神々の力を秘めた紋様もんようの描き手でもありました。

 ある夜、ミュラスが一人森を歩いていると、急に月が欠け始めました(註:月蝕げっしょく)。月の暗くなった部分から一際ひときわ暗い闇が波のように押し寄せ、ひとつの人影を生み出しました。

 灰色の神ジェスです。くらがりの神で、死界しかいの王である彼は、夜闇よやみじょうじてミュラスをかどわかしました。暗闇の中ではミュラスの力も半減します。わずかに発光する色で描かれた右腕の紋様が抵抗を示しましたがあまりにも無力でした。

 夜の世界は天にある月のうつろを入り口としながら、まるで地下にあるかのような場所で、死界とも呼ばれています。つまり人々が死んだ後に行く世界です。生きている者には真っ暗で何も見えず、死者の目には灰色の光景として感じ取れます。

 そんな場所でもミュラスは美しく輝いていました。月がミュラスを哀れみ、そっとその身を照らしていたのです。

 これは死界にはあるまじきことで、死者たちはミュラスを大層畏れ敬いました。灰色の光景を感じとるだけだった死者が生前の生命の光を見てとったのです。

 ジェスはミュラスを后として迎えました。最初は驚きうろたえていたミュラスも、暗闇に目が慣れるようにジェスを受け入れました。

 ミュラスによって夜の世界からも色彩が生まれ出でるようになりました。鉱物から得られる色の由来ゆらいがこれです。


(『シュノワ神話全集』。近代にまとめられた。現在シュノワ神話として語られるものの基盤になっている。物語調で後付けが多い)

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