第18話「――帰還、それは秘密」
とりあえずは、砲台で固めた陣地の破壊に成功したアスミ。
この陣地は、ジルコニア王国が
後からウイやナル、ジルがやってきたので、後処理を任せた。
今頃おそらく、バルバドス家のグスタフとやらはこってり絞られてるだろう。
ただ、アスミたちの戦いは基本的に「誰も殺すな」である。
当然、怪我人もジルの回復魔法で癒やすよう言ってあった。
「しかし、ワン・オー・ナインねえ……俺が? そんな予言残してくれてもなあ」
城に戻ったアスミは、少し仮眠した。
リルケが勧めるので最初は断ったが、結局疲れを取ることになったのだ。
添い寝が必要ですかマスターなどと言われると、大人しく寝るしかない。リルケとはいつも一緒に寝てるが、城に二人きりでそうなったら……正直、自信がなかった。
「悔しいけど……僕は男なんだ。いや、なんか違うな、ニュアンスが」
昔のロボットアニメの
アスミにも人並み以下だが性欲はあるし、それが暴発することもあるということだ。
数時間ほど眠った後に、改めて城の中庭に出てみる。
そこはゼルセイヴァーの格納庫を兼ねた、ちょっとした花園、庭園だった。
「とにかくまず、目からビーム! で画面が真っ白になるやつから直すか。……ん?」
そこには
おそろいのパイロットスーツではなく、今はもっとラフな姿である。ラフというか、輝くばかりの美貌がなければ、一般市民の町娘としか思えない質素な服装である。
七大魔王の一人は、ちらほらと咲く花を手にとっては、なにかを作っているようだった。
そして、アスミにはまだ気付いてくれない。
なんだろうと見守っていると、小さくハミングの声が聴こえる。
「へえ……リルケでも歌うんだなあ。ってか、普通の女の子にしか見えんぞこれは」
どうやらリルケは、花々を集めて花輪を作っているようだ。
それにしても、やたらと上機嫌である。
その声が、思わず身を隠してしまったアスミにも聞こえてきた。
「ふふ、上手にできたようですね。それにしても、何百年ぶりでしょうか」
彼女はお手製の花輪を手に、そっと地を蹴る。
特別力を入れたようには見えなかったが、あっという間にリルケはゼルセイヴァーのコクピットに飛び上がっていた。可憐な姿をしていても、やはり魔族の王、魔王なのだ。
そして彼女は、ゼルセイヴァーの胸部に飾られた六枚羽の天使像に近付く。
そっと花輪が、天使の頭に被せられた。
「今日はよく頑張りましたね、あなたはとてもいい子です。これからも私と共にマスターを支えていきましょう」
あの
そして、なんだかとても乙女チックなことをやっているのだった。
アスミは驚いてしまって、しかしこっちのほうが素顔なのではと思う。誰もが恐れる魔女王は、実は普通の女の子と少しも違わない素顔を隠しているのではないだろうか。
普段のあれは
その証拠に、リルケは嬉しそうに天使像を眺めている。
「あら? まだ少し汚れが……いけませんね。あなたはいわば、私とマスターの間に生まれた子供も同然です。いい子だから、少し磨いてあげましょうね」
帰還時に戦闘での汚れを洗浄したが、なにせ全身が金ピカなスーパーロボットである。
少し細かい汚れが残っていたらしく、リルケは取り出した布で丁寧にそれを拭き始めた。黄金の装甲が一層ピカピカになってゆく。
リルケの顔が映り込むほどになっても、彼女はさらにハーッと吐息をかけては磨き続けた。
なんだかちょっと、いや、凄くウキウキしている。
綺麗になった天使像を見て、リルケは「これでよし」と腰に手を当て笑う。
そう、笑っているのである。
「本当にいい子……とても美しく、強く、そして優しい子です。ああでも、私もまたマスターに造られた存在、ええと? せいたいぱーつの多い、さいぼーぐ? とかいうのです」
そう、骨だけになって風化していた彼女を、アスミは自分のスキルで元の姿に戻したのだ。全身は人工筋肉だし、内臓系は全て生体部品、自慢の心臓は鋼鉄製だ。
「私は母と言いましたが、正確には姉なのかもしれません。あなたと私は、マスターに創造されしマスターの所有物。いいですか? 今後もいい子にして、一緒に戦うのですよ?」
え、ちょっと待って、なにそれかわいい。
あまりにも
それでリルケが、はっとしたように振り返る。
「誰です!」
「いや、ははは……すまん、俺だ。ゴメン、声かけていいのかわからなくて」
「マスター!?」
あっという間に、リルケが真っ赤になった。
それで慌てて
総天然色のフルカラーリルケ、むしろゲーミングリルケかというくらいに大変な状態になっている。それでも彼女は、どうにかギリギリで平常心を取り戻した。
「い、いつから見ていたのですか、マスター」
「花輪を作ってるところ、あたりからかな。いやあ、リルケってなんだか」
「忘れてください、それは幻覚です」
「え、いや、だって」
「幻覚です」
「いいんじゃないかなあ、かわいかったよ」
「ッッッッッッッ! そ、そんなこと、言われたら……いえ、忘れてください!」
リルケは焦って、再び素顔を見せそうになった。
それがむしろ、アスミには嬉しい。
「ゼルセイヴァーのこと、リルケも大事に思ってくれてるんだな」
「そ、それは
「うんうん」
「それに……この子は、マスターと私の
事実だ。
リミッターを設けて三割程度のパワーにデチューンしたため、フルパワーで5分しか戦えなくなった。だが、それでいい。それがいいのだ。
それでリルケの痛みを防げるなら、むしろ願ったりかなったりである。
「さて、それじゃパッパと改良しちゃうかな? リルケのかわいい一面も見れたことだし」
「なっ……忘れてください、マスター! この魔女王が、そのような」
「いいじゃないか。俺は嬉しいよ? せっかく共に戦う仲間なんだから」
「仲間、ですか」
「そう、相棒とも言うべきかな」
「相棒……フン、相棒ですか。なら、それで今は我慢しましょう」
プゥ! と頬を膨らませて、リルケは拗ねてしまった。
なにが気に障ったのか、全くわからない。
アスミは慌てて、どうにか機嫌を直してもらおうとあたふたする。
「い、いや、それにしても意外だったよ。花輪さが。手先が器用なんだな、リルケは」
「ええ、ええ。料理も得意ですし、裁縫や洗濯、掃除等、なんでもできます。魔王ですので!」
「あ、ああ、うん。そ、それに、ああそうだ! 結構普段着は質素なんだな」
「……私だけ特別高価なものを着る必要を感じません。それだけです」
なんか、なんだか、ご機嫌斜めが続く。
やっぱり、恥ずかしい一面を見てしまった、悪かったなあとアスミは頭をバリボリかきむしった。こんな時に戦闘になったら、それこそ大変だ。
だが、その心配も実はそれほどしていない。
いざ戦いともなれば、リルケとアスミの息はぴったりだ。
そして、さきほど彼女が言った通り、見るも流麗にして荘厳なゼルセイヴァーは、黄金の破壊神としてあらゆる敵を駆逐、殲滅するだろう。
騎兵隊や大砲じゃ倒せない、それがスーパーロボットである。
「わ、悪かった、とにかく許してくれ。実はかわいいってこと、内緒にしとくから」
「ま、また口にしましたね! これほど忘れてと……相棒なのなら、そこから先はまだ! ……ま、まだ、もう少しだけ、秘密、です」
「わかった、秘密な! 秘密! ……ふう、いいと思うんだけどなあ、ギャップ萌えで」
「まだ言いますか。もう黙ってください。……いいえ、黙らせます」
不意にグイとリルケが身を寄せてきた。
ふわりと花々の芳香に包まれた、次の瞬間だった。
唇に唇が触れてきて、思わずアスミは目を見開く。
突然のキスは一瞬で、離れたリルケも赤面にうつむいていた。
「こ、これから作業でしょうし……その、MPのチャージです」
「あ、ああ、うん。どうも……あ、リルケ。なにかこう、ゼルセイヴァーに追加してほしい機能とかないか? 乗り心地とか、どうだ?」
「え、ええと……特に問題は、ないです」
「あのコクピット、なんでああなったのかわからないけど……キモくない?」
「キモ? キモクナイとは……? 私はむしろ、マスターを身近に感じれて非常に、その、う、嬉しいんですが」
勿論、男のロマンとも言える幸せコクピットである。
アスミだってずっと、悪い気がしない座り心地だった。
こうしてとりあえず、目からビームの問題点をまずは改良する。
その頃にはもう、ウイたちも戻ってきて周囲が賑やかになっていった。
「ただいまーッス! お? ゼルセイヴァーの改良スか? 自分にもなにか改良プリーズ!」
「あ、お前の目からビームも直さないとな。……まあ、あとででいいか」
「ちょ、大事にしてほしいッス! ゼルセイヴァーより自分の方が先に造られてるんスから!」
それを言うなら私が一番先です、という言葉をリルケが飲み込むのに、アスミは気付けなかった。そしてもう一つ……仲間たちが再集結して賑わう中庭の光景を、傭兵の眼差しが遠くからスコープ越しに監視していることに。
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