第8話「――製造、それは心臓部」
アスミの朝は早い。
そっと屈んで、アスミは右手の義手でそれに触れる。
「おはよう、スライム君。ちょっと、作業着的なの、できる?」
あっという間に全裸のアスミは、オレンジ色のツナギ姿になった。上を脱げばランニングシャツまで完全再現で、
朝日に照らされた寝室には、静かに魔女王の寝息だけが響いていた。
静かにドアを締め、廊下を大広間へと向かう。
軽く自分のステータスを確認し、HPもMPも全回復してることを読み取った。
「うし、コツコツやるしかないか……リルケたちのためにも、やはりロボ! 巨大ロボットが必要だからな!」
早速スキルを発動させる。
光が広がり、胸の奥で活力が吸い出されるような感触が確かにあった。
アスミのMPは最大でも7しかない。
そして、それ以上を消費する時はHPが減る。
なので、巨大ロボットの建造は日数を重ねてコツコツとパーツ単位で造っていくしかないのだった。
「のび太くんはザンダクロスを脚から組み立てたが……まあ、ここはやはりっ!」
アスミという男、プラモを説明書の順序通りに作らないタイプのオタクだった。
よって、スキルで現れたのは……椅子だ。
周囲に機械がゴチャゴチャと並んだ、まるで半分拘束具のような椅子である。
そう、これがアスミの駆る愛機のコクピットに収まる、操縦席だ。
「あとでリルケが起きてきたら、回復魔法をもらってコクピット造り。その次は……やはり頭部だな!」
そっと操縦席に座る。
両の肘掛けに当たる部分に、宙に浮かぶ握りこぶし大の球形があった。操縦桿に当たる部分で、手で掴めば意志が通って小さく光る。半分は思念誘導によるオート操縦を想定している。歩けと思って握って押し出せば、念じたイメージの通りに歩くのだ。
もちろん、人差し指でクリックすれば武器の使用もできる。
なにより、右手の義手とはリンクしており、常時機体の状態が脳裏に流れ込んできた。
なかなかにいい椅子だし、周囲のパネルやスイッチの感覚も悪くない。
早朝の操縦席制作は大成功だった。
そうして納得に頷いていると、なんだかいやらしい声が背後で響いた。
「ニシシ、アスミ……昨夜はお楽しみだったスねえ!」
「ん、ウイか。おはよう」
「うィス! おはようございまッス! ……なんすかそれ。マッサージチェア?」
「んな訳ないだろう。コクピットに
ふと気になって、アスミは義手の右手首をさする。
パネルを走る指と指とが、無数の光学ウィンドウを散りばめた。
チェックをONにしてYESやOKのボタンに触れつつ、ウイのステータスを見る。
職業:
スキル1:
スキル2:
スキル3:
HP2,208:MP0
腕力804:体力911:瞬発力217:知力12:精神力28:運命力689
MP0、ロボットだから、マシンだから。
だけどわかるぜ、アスミにはわかる。
自分が造り出したアンドロイドが、酷く尖って使いにくい感じだが強いということが。あまりにもクセがありすぎるが、恐らくビーム等の射撃攻撃も腕力でのダメージ判定になると思う。これはもう「小さな美少女型スーパーロボット」である。
強いて言えば、瞬発力が低い。
知力と精神力は、数字で見て納得の説得力だった。
「えっと、スキルの2と3は」
「あ、自分に放たれる魔法の威力が半分になるッス!」
「……ちょ、凄いじゃないか!」
「バフや回復魔法の効果も半分ッスよ」
「残念なやつだなあ。ああ、魔法全般がお前には半分しか通らないってことね」
「あと、相手の魔法効果を無視して殴れるッスよ!」
「やりたい放題だな。お、そうだ! ちょっとそこに立ってみてくれ」
操縦席に座ったまま、アスミは義手を操作する。
腕組み真正面でウイはガイナ立ちになった。
「あ、カトキ立ちの方がいいスか?」
「うるさい、いいから待ってろ……よしよし、操縦系統のリンクを構築、反応速度を設定して。よし、ウイ! 遠隔操作モードだ!」
両の手で左右それぞれの球体を握り、イメージを送り込んで操作する。
ぶるりと震えたウイは、眼の前で突然回れ右をした。
「はれ? はれれれ? じ、自分の意志で動けないッス」
「アイセンサーの画像は……まあ、あとで造るコクピットを360°のオールビューにするとして、だ。とりあえずウィンドウを一つポップさせて」
眼の前に大きめに光学ウィンドウを開く。
そこには、ウイが見ている光景がそのまま映っていた。
「よし、ウイ! パンチだ!」
「だらっしゃあ!」
「おっ、いいぞいいぞ。キック!」
「しゃあ、おらぁ!」
今のウイは、リモートコントロールである。
良いも悪いもリモコン次第、な状態だった。
そして、操縦席でアスミがそれを操作する。
「な、なんで自律型の自分が、こ、こんな」
「いいか、ウイ。お前は自分で判断して動けるが、弱点もある」
「ふむふむ、それは!」
「お前がバカだってことだ」
「ああー、確かに! って、酷いッスよアスミ!」
「言い方が悪かったな、素直過ぎるんだよ。ただ、戦闘時は俺がコントロールすることでお前は完璧なロボットになる。内蔵された武器も全て、使えるようにしておこう」
先日披露した目から出るビームは、アイセンサーに焼き付きがつかないように改良する必要があった。他にも無数の武器が内蔵されているし、後から手で携行して使うタイプの武器も増やせる。
なにより、アスミのテストパイロットとしての操縦技術を活かして戦えるのだ。
「よし、遠隔操作モード、解除だ」
「ふいー、なんかドッと疲れたッス。アスミの手と指とが自分の全身を」
「おいバカやめろ、誤解を生むような言動は慎め」
そんな時、眠そうにあくびをしながらナルが現れた。
彼女は……
「アスミ、ウイもおはよ。リルケはまだ寝てる? かな? なにやってたの?」
「ウス! 自分、アスミに身体を自由にされてたッスよ」
「そりゃまた、朝から……へえ、そういう趣味なんだ? アスミ」
「アスミの繊細な指使いで、自分の全身が」
ちょっとうんざりしてきた、その時だった。
このリルケの城の周囲に広がる、旧市街地の中に侵入者があったようである。
それは当然、ナルの魔力やウイのセンサーにも拾われたようだ。
「アスミ、侵入者ッス!」
「数が多いね、でも妙だ。これは……」
「四つ足が多数! で、なんか逃げてる徒歩の二足歩行が一人ッスね」
「うん、そういう感じだ。……さて、どうするか」
これが恐らく、400年後のこの惑星の人類とのファースト・コンタクトになる。
そして、アスミはそうでなくてもやることは決まっていた。
「ナル、荷馬車はないかな? この椅子が乗る程度の大きさでいいんだけど」
「ああ、すぐに用意しよう。でも、引く馬がいないよ」
「っと、しまった……ウイに引かせたら、ウイ自身は俺から離れて戦えないか」
その時だった。
バン! と真っ白な裸体が胸を張って現れた。
あまりにも堂々としていて、その全裸に全く劣情が喚起されない。
美の極致は時として、人間の性欲をも屈服させてしまうのかもしれない。
「馬は私が召喚しましょう。何頭立てですか?」
「い、いや、えっと……とりあえずじゃあ、一頭で十分かも」
「世界のマナは弱っていますが、まだ幻獣を召喚するくらいなら……
突然、足元の石床に魔法陣が広がる。
その中から、巨大な駿馬が姿を現した。北欧神話に登場する八本脚の神馬、スレイプニールである。ゲームでもお
何故、地球の神話にあるものと同じ幻獣が?
ふと疑問を感じつつ、すぐにアスミは荷馬車を用意してナルと出撃するのだった。
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