第二章 騎士編

デート

 周りに広がっているざわめき。

 あたふたと困惑している騎士たちが着込んでいる鎧のこすれる音。


「……」


 そして、周りの視線を受けて針のむしろになっている僕が席に座っていた。


「……」


 そんな僕の前に座っているのはプラエセンス公爵家の人間であるギアだった。


「……あのぉ」


 ギアと僕がいるのはソフィアとも来た一般向けの大衆店。

 決して公爵家の令嬢が来るような店ではない。


「……何かな?」


「もしかしてだけど、実は結構怒っている?」


「……怒っていないよ?私がイーラを怒るなんて全然。そんなことはありえないよ?」


「いやいや!?流石にそれは無理あるよっ!?ここに来るまでの道のりが昨日、ソフィアと放課後に歩いた道だし、店も一緒で、ギアが食べているのだって同じ!何なら歩き方とか、呼吸とかも完全に真似ているよね!?結構ゾッとするなんだけどっ!」


 今、自分の前にいるギアはソフィアの生き写しと勘違いしてしまうほどにその立ち振る舞いが完全に一致していた。

 ギアの圧倒的な才能を活用した模倣は完ぺきであり、だからこそゾッとさせられる。


「……どうやら、イーラは私よりもソフィアちゃんの方に興味があるみたいだから。だから、私もソフィアちゃんみたくなっているだけだよ?捨てられたくないから」


「いや、捨てないし……」


 僕はギアの言葉に対して、訳もわからず困惑しながら言葉を告げる。

 自分がソフィアと仲良くなったから、捨てられるって意味わからない。

 というか、そもそも平民が貴族様を捨てる、って何?


「それに、僕が負けっぱなしなんてありえない」


 王の魔物を殺すのだ。

 国を滅ぼせるどまで言われている半ば伝説的存在でもある王の魔物を。

 そんな僕がたかが小娘一人に負けておめおめと引き下がることなんてできるはずがない。


「……っ、そうだね。そうだよね。だって、言ったもんね?約束だもの。私と貴方はずっと一緒だし、前からずっと一緒だものね?私の前からいなくなったりしないよね?うん、そうだよね。そうだもの。だって、そう」


「お、おぉう」


 いきなりとてつもない早口で話し出したギアに困惑しながら僕は何とも言えない声を出すのだった。

 

 ■■■■■


 ギアはイーラを愛している。

 だからこそ、ギアが傷付くことは絶対にしない。彼の友達に手を上げるなどありえない。

 でも、ずっと一緒に居たいという愛より、時折変な方向に暴走することもある。

 

 そして、幼少のころに家族を失い、それよりギアの手で拾われる数年間は孤独に生きてきたイーラは他人の感情の機敏を察すのが苦手な鈍感君であった。

 彼ら、彼女ら二人が真の意味で交わるのはまだ遠かった。

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