お姉ちゃん

 ソフィアとランチを取った後、僕は自分が取っている宿の方へと帰ってきていた。


「ただいまー」


 自分が今、寝泊まりしているのは王都にある少しだけお高めの宿である。

 一人で過ごすにはかなり広い部屋の中。

 そんな部屋の中に置かれているのは一つの棺桶である。


「今、帰ったよ。お姉ちゃん」


 棺桶の中。

 そこに入っているのはあの頃から眠り続けている自分のお姉ちゃんだ。

 その体はしっかりと成長を続けて、何も摂取していないはずなのに排泄行為なども行っている。

 体はしっかりと鼓動を打ち、ほかの人とは何も変わらない人間としての機能を果たしている。

 だが、決してその意識だけは覚まさせることがない。

 まさに、今のお姉ちゃんは生ける屍だ。


「……っ」


 棺桶の中に、お姉さんを寝かせているのはもう死んでいるようなものだったからだ。


「よっと」


 僕はお姉ちゃんの棺桶にもたれかかるように地べたへと座り、お姉ちゃんの髪を撫でる。


「……ちょっとばかし匂ってきたかな?また体を洗わないとね」


 しっかりとお風呂にまで入れてあげないと匂いの方もきつくなっていく。

 色々なお世話は欠かすことが出来ない。


「でも、お風呂は明日にしようかな。今日はちょっと疲れて……昨日にも言った通りに初めての学園があってね?それはもう大変だったんだよ?いやぁ、辛かったなぁ。ギアが自分に模擬戦を仕掛けてぇ、その分不用意な注目を浴びるような結果にもなっちゃったんだよねぇ」


 僕はいつものように眠り続けているお姉ちゃんへと今日会ったことを話していく。

 聞こえているはずがないだろう。

 だが、これはずっと僕が幼少のころからやっている日課であった。


「でも、ソフィアと食べたランチは美味しかったな。値段以上のおいしさだったね。あれは。また行きたいなぁ」


 僕が今日あったことすべて話し終えた頃にはもう結構いい時間である。


「今日のところはこの辺りかなぁ。っとと。そろそろ僕も夜ご飯を食べてお風呂にも入らなきゃいけないんだよね。ちょっと待って行ってくるね?安心してね、ちゃんとソフィアから場所も聞いているし注意事項なども聞いているから。大衆浴場にももう慣れたものだよ。公爵家の方にお世話となっていた頃にも使っていたからね」


 長い間話していた僕はゆっくりと立ち上がる。


「大丈夫。安心して……僕が、必ず生き返らせてあげるから」


 そして、お姉ちゃんの頬にそっと口づけをした僕は夜ご飯とお風呂のために再度宿を出発するのであった。

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