忠告
僕とソフィアが雑談をしながら昼食をとっていたところ、いきなり話しかけてきた伯爵家の次男坊であるアンビ。
「……」
「……」
そいつに対して、僕も、ソフィアも体をこわばらせて警戒心をあらわにする。
「簡単な話がある」
そんな僕たちに対して、アンビは腰掛けることもなく立ったまま言葉を続ける。
「劣等紋かつ平民であるお前に反感を持っている奴が多くいる。そいつらは今、お前を叩きのめすための準備を始めている」
「それは忠告?」
「誰がお前の心配なんてするか」
アンビに対する僕の疑問を彼は一刀両断して切り捨てる。
「俺がしているのはお前にちょっかいをかける側の方だ」
「えぇ……」
何で襲撃仕掛けられる側ではなく、仕掛ける側が心配されるのだ。
普通は逆じゃないかな?
「俺も馬鹿じゃない。権力など何の関係もない。あのギアのような。本当に関わっちゃいけないタイプの天才が世の中にいることを知っているだけだし、お前はそのたぐいだ」
ギアと同じはちょっと荷が重いような気も……あそこまでの天才である自信はないかも。
いずれ勝つが。
「殺さないでやってくれ。俺と同じ貴族。仲間なのでな」
そんなことを考えている僕に対して、アンビが告げたのは何ともやさしさに満ち溢れていた言葉だった。
「……いや、殺さないよ?」
ちょっとばかし想定を超えていた言葉に僕は動揺しながら彼の言葉に答える。
公爵令嬢を相手にため口を使うほどには無礼で命知らずな僕ではあるが、流石に貴族をぶち殺すまでのことはしない。そこまでトチ狂ってはいない。
「なら、良い。二人の時間を邪魔したな」
ごく当たり前の僕の答えを聞いたアンビは満足したのか、自分たちの元からさっさと立ち去ってしまう。
「えぇ……?」
「な、何だったんでしょうか?」
だが、残される僕たちとしてはたまったものじゃない。
自分たちの間に残されたのはただただ困惑である。
「……もしかして、良い人なんでしょうか?実は、あの時本当に私を助けようと?」
「……いや、流石にそれはないと思うけど」
僕はアンビの言葉に首を傾げながら答える。
あれがただの善意ではないだろう。
明らかに下心もあったし。
「まぁ、貴族としての仲間意識みたいなものでもあるんじゃない?」
「……私も、貴族なんですがぁ。誤差みたいなものですか」
「かもねぇー。そんなことよりさぁー」
わざわざアンビについて考える時間を割く方がもったいない。
僕とソフィアは彼のことを忘れ、別の話に花を咲かせるのだった。
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