唖然
負けた。
「あぁ……また負けたぁ」
ギアに文句も言えない敗北を喫した僕は地面に横たわって頬をため息を漏らす。
「今日も、勝ち。また……来てくれる?」
「君が良いというならいくらでも……ふへへ」
今日の収穫。
それは色々とあった。悪かった点に良かった点。
実に実りの多い模擬戦であった。
「……毒。自然にあるような毒が効くような気しないな。一からオリジナルで作る……とはいえ、そもそも毒って何だ。何を基準として何が作用してあれらを引き起こしているのだ?まずはそこから考えていかないと……」
「立って」
「はにゃんっ!?」
思考の途中。
そこでギアが僕の腕を掴んでそのまま持ち上げてくる。
「……何?」
「ここは私の邸宅じゃなくて、学校。あまり自分の世界に入りこまないで」
「……あっ」
僕はギアの言葉を受けて、ようやく自分が立っていた場所を思い出す。
「……っ」
僕がこの場にいる観覧者。
クラスメートたちのほうへと視線を送る。
それで見えてくるのは唖然とした彼らの姿である。
「……何が、起きていた?」
そんなクラスメートの誰かが呆然と言葉を漏らす。
そして、その後も散発的に困惑な声が上がっている。
「……結果的には良かったか?」
変に反応するよりも、圧倒的な差を見せつけたことが結果的に良かったかもしれない。
僕は運よくギアへと気にいられ、彼女という最高の対戦相手に公爵家の簡素な授業もちょくちょく受けることが出来ていた。
それに元の才能も合わさり、同学年相手であれば僕はギア以外ならたとえ千回戦っても負ける気がしない。
それくらい圧倒的な差があると思っているし、それが事実であることは唖然としているクラスメートたちの反応を見れば理解できるだろう。
「これで馬鹿も理解した。イーラを」
そんな様子を見てギアは満足そうに頷く。
「まぁ、そうだけど……やっかみとか。いや、今さらかぁ。さっさと周りを威圧しちゃう方が楽なのかなぁ」
どう立ち回っても僕がうまく行ける気しない。
ということを考えれば、これで正しかったのかもしれない。
「それよりも、そちらの方は良いの?僕に構って」
となると、問題は僕ではなくギアの方かもしれない。
「何の問題もない。結局この世界は力。私に反目できる人は少なくとも学生レベルでは皆無」
とか思っていたが、全然そんなことはなさそうだ。
「……さいですか」
流石はギア。
幼少のころから天才と呼ばれ続けていることもあってすっごい自信である。
「まぁ、良いや。とりあえずは一旦満足かな。今日もありがとうね、戦ってくれて」
「……うん」
僕はいつものようにギアへとお礼を告げた後、ソフィアのいる端っこの方へと戻っていくのだった。
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