嘲笑
劣等紋の魔法なんてろくなものでは無い。
「まぁ、これが限度だよね」
的に届くよりも前に霧散していった自分の魔法を見て苦笑を浮かべる。
どれだけ鍛えようとも普通の魔法を使ったところでこれが限度である。第五紋には長い歴史の中で、劣等紋と呼ばれ続けただけの理由がある。
「はははっ!」
僕がソフィアを相手に魔法を見せていた……そんな最中の様子を傍から眺めていた一人の生徒が笑い声をあげる。
「それが劣等紋の魔法かよ!情けねぇ!良くもまぁ、この学校に来られたものだ!薄汚い平民は、さっさと居るべき場所に帰ればいいものを!」
そして、その次にあげるのは侮蔑の言葉である。
「はははっ!」
「おいおいっ!言うなって!可哀想だろっ!」
「くくく……っ!」
その後に続くのは多くの嘲笑。
「ご、ごめんなさい……こんなことになると思ってなくて。まさかこんな注目されることになるなんて」
そんな中で、僕の隣に立っているソフィアが謝罪の言葉を口にする。
「いや?良いよ」
だが、気にすることはない。劣等紋を持つ者に向けられる人々からの意識を、ソフィアに想像しろという方が酷だ。
というより、この反応の方が彼女に差別意識がない優しい子だとわかって良いくらいだ。
そんなことを思う僕はソフィアの言葉へと軽く答えて己の視線をクラスメートたちの方に向ける。
「辞めておけばいいのに……愚か者」
「……?」
だが、僕が何かするよりも前に反抗の声を上げたのは伯爵家の次男坊であったアンビだ。
それを受けて僕だけでなく全員がギョッとしたような表情で彼へと視線を送る。
「「「……っ!?」」」
その真意が何か、聞こうとするよりも前にアクションを起こしたのはギアであった。
「ぎ、ギア……?」
膨大な魔力を撒き散らし、その手に握られていた教科書をまるで小さな紙くずかのように丸めてしまう。
い、いきなりどうしたの……?
僕が困惑している間にも、ギアは無表情のままにこちらの方に向かってくる。
「模擬戦しようか」
「……なんで?」
僕は自分の前に立つなり告げたギアの言葉に首をかしげる。
「私の友達であるイーラを侮辱することは、許さない。でも、君の立場も理解している。だから、模擬戦」
「……本当に理解してます?」
ちょっとここまで目立つことになるとは……僕の心の準備というか、何というか。あれなんですけど。
「強く、なるんでしょう?ここで、負けたまま逃げるの?」
「……ほぉーう?」
とか思っていた僕ではあるが、ギアの言葉にちょっとあったまってくる。
「僕は負けていないが?ちょっと今は負けが込んでいるけど多いは勝つんだけど?何ら今日勝つわっ!」
僕はギアを相手に意気揚々と啖呵を切って見せる。
ギアとはずっと昔からの友人であると共に、こちらがライバル視している本物の天才である。
「さっさと始めんぞっ!授業割り込みとか公爵家の威光使えばちょいちょいのちょいでしょ?」
そんな彼女を超えてこそ、僕の悲願が叶うというもの。
どのような場面であろうと、彼女から負けたまま逃げるのかと聞かれて『はいそうです』と答えるわけには絶対いかない。
「……うん。ということで借りるから、授業」
「あっ、はい」
先生がギアの言葉にただただ頷くことしかできない中で、僕は彼女と共に的の方に近寄っていく。
自分たちが魔法を打つ場所から的までの距離はかなり離れており、ここの間での戦闘であれば周りへの被害も最小限に出来るだろう。
「うしっ。ということで始めるかっ!」
僕はギアの前に立ち、意気揚々と口を開く。
「えぇ。始めましょう」
ギアは僕の言葉に頷くと共に腰に差している剣の鞘から一振りの剣を抜いて構える。
「……ふぅー」
それに対して、僕は何の武器も持たずにゆるりと腕を上げて構えをとる。
「今日は絶対に勝つっ!」
そして、僕は模擬戦の開始を宣言する言葉もなしに地面を蹴ってギアの方に向かっていくのだった。
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