魔法
ノーバ学園への入学試験は何の問題もなく合格することができた。
これにて歴史上初めての劣等紋所持者の学園生かつ、十三年ぶりの平民での学園生となった。
僕は学園生として、世界的な名門校である。ノーバ学園の授業を受ける権利を手にしたのだ。
「魔法の授業を僕が受ける必要あるのか言う話だけど」
学園生活初日。
一番最初の授業である魔法学において、それを自分が修める必要性について僕は首をかしげる。
普通の人間が受ける魔法の授業は僕にとっての何の利益ももたらしてくれないだろう……劣等紋だし。
「まぁまぁ、そこらへんは仕方ないじゃないですか」
そんな風に不満をあらわにしていた僕に対し、自分の隣にいたソフィアが口を開く。
ちなみに男爵家の人間が学園生になるのは五年ぶりの快挙らしい。
立場的にだいぶ浮いてしまっている平民と男爵家のコンビである僕たちは自然と一緒に行動していた。
「それじゃあ、まずは初歩の初歩からしっかりと話していくわ」
僕とソフィアが後ろの方の席で色々と話している間にも先生は魔法の授業を進めていく。
「それじゃあ、まずは簡単に魔法とは何かということのおさらいから。魔法とは簡単に言うと生命であれば誰もが持っている力、魔力を用いて発動する奇跡のことを指すわ」
魔力の総量に関しては人それぞれ。
ちなみに僕の魔力量の総量はとんでもなく多い。多分、世界で一番クラスにあると思う。
「それで魔法は属性に分かれているわ。地、水、風、火の四種にね。魔法発動のプロセスとしては何の属性にも染まっていない魔力に属性を与えて属性魔力へと変換。そして、体の中にある属性魔力を体外に放出することで魔法になるわ。属性変換をせずに体外へと出す方法もあって、それが身体強化魔法よ。一般的には無属性魔法って言われているわね。ここまでは当然の如く知っていることでしょう」
先生は淀みない言葉で魔法に関する説明を続けていく。
「ここからが大事。案外、何も考えずに使っている人ばかりであり、知らないこと。魔法陣についての説明をしていくわね。さっき言ったようなただ変換しただけの属性魔力を体外に放出しても大した効果は得られないの。少量の土を出す、少量の水を出す、そよ風を起こす、火種を起こす。この程度のことしかできないわ。故にそれらの形を変える必要があるわ。そのために必要となるのがみんな感覚で使っている魔法陣よ。体外へと放出する際に魔法陣を展開することで魔法の在り方に変化を加えるの。出す量を多くしたり、形を変えたりするのよ」
魔法の神髄とはこれである。
基本的に劣等紋以外の人間は先人が残してきた魔法陣をそのまま流用して魔法を極めていくのだが、一からすべて自分で魔法陣を考案して積み重ねることもできるのだ。
生まれが劣等紋であり、先人が残してきた魔法がゼロに近かった僕は一から積み上げてここまでやってきたのだ。
「魔法陣を自らで考案するのはそこまで難しいことじゃないわ。ただし、過去の偉人たちが引いてきた魔法を超えるのが難しいの。学生のうちからオリジナルの魔法を作ろうとしても絶対にうまくいきません。まずは過去の先人たちが残した来た魔法を知るのが一番。ということで、初回の授業だけども早速外に行きましょう」
外。
このノーバ学園には数多くの施設が存在する。
先生はそのうちの一つに移動しようと言っているのだろう。
「じゃあ、移動しますよ」
教卓に立つ先生はクラスメートたちに移動を命じるのだった。
ちなみにクラスとしては全部で三つあり、僕のクラスメートにはソフィアにギア。
ついでに伯爵家の次男坊、と自分の知っている人たちが全員同じとなっていた。
■■■■■
場所を教室から移して修練所。
各々生徒はここに設置されている的に向かって魔法を打っていた。
「ファイヤーボールっ!」
そんな中で、僕とソフィアは端っこによって魔法の試し打ちをしていた。
ソフィアもこの学園に受かるだけのこともあってその実力は一級品。
彼女が発動した魔法は確実に的を打ち抜いてみせた。
「おぉー」
僕はそんな彼女の前に対して拍手を送る。
「へへっ。魔法はちょっとばかり得意なんです」
それに対して、ソフィアは照れくさそうにしながらはにかむ。
「……そういえば、イースも使えるんですか?魔法……そ、その劣等紋ですけど」
「んー、使えるけど、僕の魔法はオリジナルのものばかりでみんなが使うようなやつは苦手なんだよね」
「そうなんですか?……ですが、ちょっとだけ見てみたいかもしれません」
「劣等紋だから……普通の魔法はゴミなんだけどねぇ、でも、良いだろう」
紋章の問題は大きい。
第五紋は魔力を体外へと放出するゲートが狭いのだ。
僕の所有魔力量は非常に多いのだが、蛇口が小さすぎるせいで膨大な魔力を体外に放出できない。
「ふっ。劣等紋の力を見せてあげよう」
僕は使い慣れない魔法陣を描き、魔法を発動させる。
「ファイヤーボール」
そうして、飛んで行った火球はあまりにも弱々しく、的に当たるよりも前に無散してしまうのだった。
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