ヤンデレヒロイン
僕が面接を終えて馬鹿みたいに広い部屋から出てきた後。
「誰だ」
急に自分の視界が手で覆われ、聞きなれた声が自分の鼓膜を震わせる。
その声の主。
それに僕は思い当たりがあった。
「またこれやるの?」
僕の目を手で覆い、声をかけてきた。人物。
その人物の名はギア・プラエセンス。
プラエセンス公爵家の長女であり、僕が最も親しい人物である。
自分の村が燃やされ、行き場を失った自分が姉を抱えてながら彷徨い歩いた末にたどり着いた街。
たまたまその街で余暇を楽しんでいた彼女はズタボロの僕に憐憫の感情を抱き、助けてくれたのだ。
そして、そこから僕は彼女のお世話になりっぱなし。
自分が何の問題もなく自分の才能を磨いて力を手にし、今日を迎えられたのはギアのおかげであった。
「……乗ってくれてもいいのに」
そんなギアは僕の答えに不満そうな態度をとりながらも、僕の目を覆っていた手をどけて自分の前に立つ。
その際、ふわっと浮かび上がったギアの腰まで伸びた長い黒色の髪より何処か甘い匂いが広がって僕の鼻孔をくすぐる。
こうして、改めて見るとギアの美しさは一段抜けているようだった。
小さく整った顔。パッチリと大きな紫の瞳は吸い寄せられるようだ。
基本的に感情の浮かばぬその表情は何処かミステリアスな雰囲気を与えてくれる。
「毎回、毎回はやりたくないよ……ずっと『誰だ』って言い続けているじゃん」
何故か、ギアは僕と会う際に必ず『誰だ』をやりたがる。
その理由は謎である。
「まぁ、良いよ。そんなことより聞きたいことがあるんだ」
ギアは僕の前で淡々、無表情のまま言葉を告げる。
「誰?あの女。君の隣にいた女。試験中、さも当たり前のように君の隣にいたあの女は一体誰なの?あれは誰で君にとっての何?」
ギアは一歩、僕の方へと踏み込んできながら疑問の声を上げる。
「ん?あの子はソフィアだよ。試験前に知り合ってね」
「ふーん……それだけ?」
「それだけだよ。でも、これからはもっと仲良くなっていきたいけどね。自分の友達になってくれそうな人は稀有だろうし……」
平民かつ劣等紋持ち。
この要素は友達作りにおいてあまりにもデメリットであろう。
「……友達、なんて私がいれば十分じゃない?」
「いや、ギアは公爵家の令嬢で仲良くしている貴族の人間が多いじゃないか。その中に僕が混ざるなんて無理だよ」
僕はギアの言葉に肩をすくめながら答える。
ギアとは昔からの友人であるが、本来は生きている次元が違う相手。
最低限の線引きはしないと……僕が殺されてしまいそう。
「学園で自分なりの友達を見つけていくさ」
自分を受け入れてくれる相手。
それをしっかりと見つけていかなければ友達作りなんてまず無理であろう。
「……私には君しかいないのに」
「何か言った?」
「何も」
ぼそりと、何か告げたような気がするギアに対して僕は疑問の声を投げかけるが、ギアは頭を振るだけだった。
「それで?これからはどうするの?」
「どうするとは?」
僕はギアの疑問に対して疑問で返す。
「ほら、王都での居住地とか。よければ私の屋敷の一部屋貸すよ?」
「そこまでしたら僕に降りかかるやっかみが大変なことになるからやめて」
僕はただでさえ不安定な立場なのだ。
美貌ゆえに誰からも大人気のギアと必要以上に懇意な様子を見せたら……周りから何て思われるかわからない。
「……そう」
「まぁ、適当に宿でも探すよ……ということで僕はもう行くよ!宿探さなきゃ野宿になりかねないから!」
「……わかった。それじゃあ、また学校で」
「うん、またね」
僕はギアと別れの言葉を告げ、王都の宿を探しに向かうのだった。
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