目的
「よろしくお願いします」
面接を受ける者としてやってきた僕はとりあえず失礼のないよう注意を払いながら一礼する。
「うむ。そこまで角張ったものでもない故、肩から力を抜いてもらっても構わぬのじゃ。それで、じゃ。ここに来てもらったのは中々に珍しい君へとちょっと興味がわいてしまってじゃな」
「そうですか」
平民生まれで劣等紋持ち。
それが名誉あるノーバ学園の受験を受けに来るなんて前代未聞であろう。
「そうじゃ。わしからの質問はたった二つじゃ。まず、最初の質問。何のために、この学園を受けにきたのじゃ?」
「……何の、ためですか」
僕は学園長の言葉を反芻する。
そして、そのままこの場で僕は瞳を閉じて、思いを馳せる。
「……」
過去を、思う。
自分が姉と共に暮らしていた片田舎の村は突如してやってきた王の魔物の手によっていとも簡単に滅ぼされた。
僕はただ運良く生き延びて、自分のお姉ちゃんは王の魔物によってその精神を封印され、数年経った今でも彼女は眠ったままである。
未だに僕は何も為せていない。
「……力だ」
力だ。僕には力がいる。
幼少期の僕はお姉ちゃんに守られっぱなしだった。
だけど、今は違う───既に、頼れるお姉ちゃんは眠ってしまったのだ。
なれば、今度は僕の番だ。
「力とね?」
「あぁ、そうだ。僕は、力が欲しい」
力が欲しい。
王の魔物を叩きのめせる。お姉ちゃんを取り戻せるだけの力が。
そのために、僕はこの学園に来た。
最高級の教育を受け、力を得るために。
「その訳はなんじゃ?」
「黙秘権を行使しますね」
僕はさらりと学園長の言葉を否定する。
自分の過去について、誰かに共有するつもりはなかった。
「ふぉふぉふぉ、わし相手にそこまで啖呵を切るか」
「逃げ切ることならばできます」
「それは頼もしいことじゃ……実際にできそうなことも。そう警戒しなくともよいぞ、あくまでこれはただの面接じゃからのぉ。して、次の質問に移るぞ。とはいえ、これが最後であるわけじゃがな」
「何でしょう?」
「当面のお主の目的は何じゃ?直近の目的じゃ」
「んっ……?そうですね」
僕は学園長の質問にしばしの間、悩む。
そして、一つの目的を作り出す。
「騎士叙任されることですね。僕の目的を考えると、名声はいくらあってもいいですから。史上初めての平民上がり、劣等紋の騎士となってみせましょう」
騎士叙任。
それは平民が受けられる最大の名誉。
原則として騎士叙任の名誉を受けられるのは騎士家系の出身である必要がある。
だが、特例として認められる功績を上げれば平民であっても騎士叙任を受けられるのである。
まずは、それを目指すのがベストであろう。
「ふぉふぉふぉ、素晴らしい答えじゃ。その願い、このノーバ学園で叶えるであろうことを願っておるのじゃ」
そんな僕の言葉に学園長は満足そうに頷くのだった。
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