劣等紋VS試験管
筆記試験。
それは事前に告知されていた通り、そこまでのレベルではなかった。
ここは問題なく通過することができただろう。
そして、次の試験は実技の科目であった。
「来たか……」
実技の試験。
それは非常に簡単。
試験官としてやってきた騎士と戦い、自分の実力を示すだけである。
「よろしくお願いします」
今、自分の前にも騎士である男が立っている。
僕の前にいる騎士以外にも他におり、その人達はほかの受験生の試験を執り行っている。
「アンビ。この名前をお前は知っているな?」
自分の試験官として僕の前に立つ騎士がいきなり口を開き、全然聞き覚えのない人間の名前を口にする。
「……誰ですか?それは」
そんな試験官が告げた名前に対して僕は疑問で返す。
「な、なんで知らないっ!貴様が暴力を振るったイゴール伯爵家の次男であり、俺の弟だっ!」
だが、そんな僕の言葉に対して相手は激昂の反応を見せてくる。
「あぁ……あの人か。そんな名前だったんですね」
なるほど。
あの伯爵家の次男坊の名前はアンビだったのか……それで、自分の試験官はその兄であると。
「ふんっ……わかったならよい。ふふふ、もう自分の行いを悔いても遅いぞ?お前は試験官である俺を敵に回したのだ、劣等紋風情が、だ。わかるな?もうお前に合格の二文字は絶対に訪れないことを……まぁ、俺が何もせずとも劣等紋であれば落ちるだろうがな」
「いや、別に貴方一人の独断で決められないでしょう。試験を公平にするため、監視されていますよね?現状を」
「……っ。ふふ、生意気なガキだ。だが、あくまで不正の感知だけだ。俺がちょっと本気でやったとしてもおとがめはないだろう。なぁに、劣等紋風情にちょっと現実を見せてやったと言えば周りも認めよう」
「御託はいいので早く始めましょう。時間の無駄です。」
「ど、どこまでも生意気な……っ!」
僕は劣等紋。
これくらいの扱いには慣れっこ。今さらこの程度でへこたれるほど弱くはない。
「わかっているのか、貴様ァっ!もっと恐れて見せよっ!そして、泣いて詫びろぉ!」
だが、そんな僕の態度が気にいらなかったのだろう。
試験官は表情を歪ませて大きな声を上げる。
「劣等紋」
そんな試験官に対して、僕はたった一つの単語を返して見せる。
「……?」
「その最大の弱点は出力の低さです。千を超える魔法を一度に使用し、詠唱すらも無視して発動させられるのが第五紋。劣等紋です。だが、劣等紋は肝心の魔法自体の出力が低いのです。そのため、攻撃はもちろんとして、支援や生産等にも流用出来ません。それを変えるべく多くの劣等紋持ちが立ち上がりましたが、それは悉く失敗している現状です」
「何を今さら。自身の過去でも振り返っているのか?劣等紋を解決する手段などない。だからこそ、劣等紋なのである」
「ですが、僕はその劣等紋の問題を解決しました」
劣等紋のデメリットを撤回出来るような何かがなければ、そもそもとして名門学園の受験を受けにはこない。
「……なんだと?」
僕は懐より一つの道具を取り出す。
「……解決策が魔道具だと?確かに、あらかじめ魔法に必要な魔法陣が刻まれ、ただ魔力を流すだけで魔法が発動する魔道具は有用だ。だがしかし、結局のところ魔道具を起動するには刻まれた魔法陣に流しこむための魔力が必要になる。そして、それすらも劣等紋は出来ない」
「いえ、これは魔道具でもないですよ。ただの制御装置です。僕が見出した解決策。それは単純で幾つもの魔法を複雑に組み合わせることでした。簡単でしょう?」
僕は手元にある道具の引き金を引く。
それと同時に幾つもの複雑な魔法が絡み合い、たった一つの小さな鉄の弾丸を音速で飛ばすという現象を引き起こす。
だが、それで十分。
「あぁっ!?」
音速の勢いで射出された鉄の弾丸は目の前の騎士が着ている鎧をも貫通して彼の右足を貫いて見せた。
「魔法銃。僕はこいつをそう呼んでいます」
リロードし、球を込める。
その行為を終えた僕は再度発砲。
「あぁっ!?」
今度は左足の方も打ちぬいてみせる。
「立てますか?」
僕は両足を貫かれて地面に倒れこむ騎士へと声をかける。
「た、ただの鉄の塊が……俺の、守りを?」
「あぁ、一応。劣等紋の魔法で強化はしているけどね」
鉄の弾丸自体にも僕が百近い魔法を編み込み、特殊な性質を与えている。
「……っ!俺を侮辱するのもいい加減にしろっ!劣等紋がっ!俺へと勝てるわけがぁっ!」
「さようなら」
両足を貫かれようとも立ち上がろうとする騎士に対して、僕は一切の容赦も見せない。
手にある魔法銃を連射し、その騎士の体を次々と打ちぬいていく。
「あぁぁ……っ!」
鉄の弾丸を合計で三十発。
それだけの数を撃ち込まれた騎士はとうとう耐え切れることができなくなって地面へと血を流しながら無様に倒れる。
「医務官。あとのことは任せました」
「は、はい……」
学園の受験生の分際で現役の騎士に勝利する。
その離れ業を見せた僕は試験を見守り、有事の際にはすぐ駆け寄れるようにすぐそばで待機している医務官の方へと声をかけるのだった。
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