試験開始

 ソフィアと共に腹ごしらえを終えた僕はそのまま彼女と共にノーバ学園の入学試験へとやってきていた。


「ずいぶんと人が多いなぁ」


 ノーバ学園に集まっている志望者の数は僕の想像を超えていた。

 

「確かに、多いですね。とはいえ、例年もこれくらい集まるらしいけど……しっかりとこの目で見ると壮観ですね」


「マジか。いつもよりちょっと多いとかではなく、これが例年通りの受験者数なんだ。すっごいな、これは。流石、天下のノーバ学園といったところだろうか?」


「そうですね」


 僕がソフィアとノーバ学園に人が多いよねっていう話をしていた時。


「お前っ!」


 先ほど自分が膝蹴りで気絶させてやった伯爵家の次男坊が取り巻きも連れずに自分の方へと近寄ってくる。


「貴様っ!さっき俺にしたことを覚えているのかっ!」


「えっ?なんですか?」


 自分の方へと近づきながら血気盛んに口を開く伯爵家の次男坊に対して僕は惚けた表情を浮かべて見せる。


「何を言うかっ!お前は貴族であるこの俺に肘うちを食らわせ───」


「えっ?劣等紋の僕に負けたと仰るんですか?」


 あえて周りに見せびらかすように己の劣等紋を晒しながら、僕は伯爵家の次男坊の言葉を遮るようにして口を開く。


「う、ぎぎ……っ」


 僕のたった一言で掴みかかってくるような勢いであった伯爵家の次男坊の勢いは削がれてしまう。


「ハッ!そんなわけないだろうっ!この誉あるノーバ学園の入学試験にお前のような劣等紋がいること自体、問題だと言いたいのだっ!」


 だが、すぐさま話の展開を変えて僕の方へと詰め寄ってくる。


「どうせ、実力不足であれば落ちるのだからいいでしょう?僕はしっかりと受験料を収めている……学園の養分になるくらいいいだろう?」


「いいや!ダメだ。お前のようなこの場にいるだけで毒なのだ。始まる前にここで俺がお前に罰を───っ!?」


 ニヤりと意地悪そうな笑みを浮かべながら僕の方へと伯爵家の次男坊が近づいてこようとした瞬間。

 

「……っとと?」


 志望者全体が集められていたノーバ学園の中庭の上空から凄まじい圧力がかかってくる。

 その圧力は凄まじく、常人であれば立っていられないほど。

 僕は少し体をよろめかせる程度で済ませたが、自分の隣ではソフィアに伯爵家の次男坊までもが地面に膝をついている。

 地面へと膝をついているのはその二人だけではなく、この場にいるほとんどの受験者もそうであった。

 未だに立ったままであるのは少数であった。


「……うわぁ。すごい。ただ魔力を開放しただけでこれかな」


 何か、魔法を使ったわけではないだろう。

 ただ、自分自身の中にある魔力を一気に開放しただけ。

 あまりにも濃密な、桁外れな魔力量が本来では何の質量も持たない魔力へと質量を与え、この常人であれば立っていられないような圧力を生み出したのであろう。

 一度にこれだけの魔力量の開放。

 間違いなくこれをやった人物は第二紋の持ち主だろうな……少なくとも、出力が鬼弱な第五紋に出来るようなものじゃない。


「立てる?ソフィア」


 そんなことを思いながらも僕は自分の隣で倒れているソフィアの方へと自分の手を差し出しながら尋ねる。


「は、はい。何とか」


 それに頷きながらソフィアは僕の手を掴んで立ち上がる。


「ぐぎぎ……」


 そんな僕たちの横で、伯爵家の次男坊もしっかりと立ち上がっていた。


「これが今年の受験者たちが」


 そんな折、この場へといきなり初老の男性が現れる。

 使ったのは短距離に限る話ではあるが、転移を実現させる魔法だろう。


「まずは自己紹介だ。私はノーバ学園の教諭の一人であるビブリオだ。今回、君たちの試験管を務めることになる一人だ。無駄話をするのは好まない。早速だが本題の方に入っていこう」


 初老の男性、ビブリオ教諭は淀みない言葉で淡々と言葉を話していく。


「最初の試験は筆記だ。それではついてくるとよい」


 そして、そのままビブリオ教諭は僕たちへと背を向けて歩き始める。

 ここから筆記試験が行われる場所まで移動するようだ。


「歩ける?ソフィア」


「は、はい……大丈夫です」


 僕の言葉にソフィアが頷き、第一歩目を踏み出す。


「それならよかった」


 それを見た僕は安心して頷き、ゆっくりと歩き始める。


「……んっ」

 

 そのあとをしっかりとソフィアも追ってきてくれる。

 

「なんで劣等紋のお前がこの中を……」


 そんな僕たちに続く形で伯爵家の次男坊も歩き始める。


「筆記試験……どれほどの難易度でしょうか?」


「さぁ?それでも、あまり難しいものは出ないって聞くよね。勉強は基本的にやれば最低限の域にはもっていけるから」


「そうは聞きますけどね」


 悪態をつく伯爵家の次男坊に反応せず、僕とソフィアは互いにこれから行われる筆記試験について語りながら会場の方に向かっているビブリオ教諭の後を追って歩いていく。

 そして、そんな僕たちのように多くの受験者たちがビブリオ教諭を追いかけて歩き出す。

 魔力の圧力に耐えきれず立ち上がれなかった半数近くの受験者たちを残して。

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