出会い

 アンファング王国。

 剣と魔法の世界たるマテーデンの中でも大国としての地位を確立している国家であるそこの王都において、現在とある試験が行われていた。

 その試験とは入学試験。

 アンファング王国内のみならず世界的に名声を集める名門学園であるノーバ学園の入学試験であった。


「……人多いなぁ」


 世界中から集まるノーバ学園の受験者の一人としてこの町へとやってきた僕は人の多さに感嘆の声を上げる。

 片田舎からのお上りさんである僕はこれだけいる大量の人の数に気圧されていた。


「試験にまではまだ時間あるし、とりあえず腹ごしらえでもしようかなぁ」


 僕はそんな人混みから逃げるようにして大通りからは逸れて人気の少ない道の方へと逃げていく。


「……こんなところに店があるのかは謎だけど」


 多くの出店が立ち並ぶ大通りから逸れて細い道の方へとやってきた僕はそこで何か食べられるものがないか進んでいく。


「きゃぁぁぁぁぁぁああああああああああっ!」


 そんな中において、何処からか聞こえてくる少女の悲鳴が聞こえてきた僕は足を止める。


「……行ってみるか」


 悲鳴を上げている少女。

 それを無視するという選択肢はあまりにも非常が過ぎるだろう。

 そう判断した僕は迷いなく悲鳴が聞こえてきた方へと歩いていく。


「やめて……やめてくださいっ!」


「うるさいっ!俺は誉あるイゴール伯爵家の次男だぞっ!お前のような男爵風情が逆らっていいような相手じゃないのだっ!お前は大人しく俺の下にくれば……合格だって」


 そして、その先で見えてきたのは一人の少女を男子三人で囲んでいるような状況だった。


「うわぁ……」


 家格が上の男が下の女へと迫る。

 そんな光景を前にして僕は何ともいえない声を上げる。


「あんっ?」


 そんな声を出せばそりゃ相手も気づくというもの。

 自分の前にいた四人の視線が僕の方へと向けられる。


「……っ。お前っ!何者だっ!」


 そして、僕の顔を見るなり少女の腕を掴んでいたイゴール伯爵家の次男坊らしい少年が警戒心と恐れをあらわにしながら声を上げる。

 伯爵家の次男坊が一人の少年を見て恐れの感情を見せた。

 それは明らかな恥であろう。

 だが、それも仕方ないことだろう。

 僕は珍しい白髪に青と紫のオッドアイという普通というにはあまりにも異質すぎる見た目をしているからな。

 まぁ、僕はただの平民だけどね。


「って、お前……その紋章。劣等紋じゃないか?」


 そんな風に恐れを見せていた伯爵家の次男坊であったが、僕が普通に隠すことなく晒している手の甲の紋章。

 劣等紋と周りから罵られる第五紋を見てその調子を一変させる。


「ハッ!劣等紋風情が俺に何の用だっ!」


 さっきまでの恐れは何処へやら。

 伯爵家の次男坊は自信満々な態度で口を開いてこちらへの言葉を告げる。


「いや、悲鳴が聞こえてきたから何かな?って思って」


 自信満々な伯爵家の次男坊の態度に対して僕は楽観的な態度を見せながら口を開く。


「ハッ!お前のような劣等紋如きが何か出来るようなことでもないわっ!なんだ?それともお前の方からボコボコにされていくか?えぇ?」

 

「に、逃げてくださいっ!貴方まで傷つけられる必要はありませんっ!」


 僕の言葉に対する伯爵家の次男坊の言葉を受けて、彼の魔の手につかまっている少女が悲痛気な様子で声を張り上げる。


「えっ?でも君は困っていそうじゃん?」


 それを前にしても僕は油断を崩さず徐々に近づいていく。


「ちっ。劣等紋風情が何を勘違いしているんだっ!ったく……へへ。これはもう勉強させてやらないといけないなぁ。お前らっ!やっちまえ」

 

 伯爵家の次男坊は自身の周りにいた二人の取り巻きたちへと僕をボコすよう命令を下す。


「へへ。これは命令何でな。悪く思うなよ?」


「はぁー、何で俺がゴミの相手を」


 それを受けて伯爵家の次男坊の取り巻きたち二人が僕の方へと近づいてくる。


「ほいっ」


 油断しきった相手を一撃で気絶させることくらい簡単だ。


「あっ……」


「うっ……」


 僕は迷いなく拳を振るい、自分の方へと近づいてきていた取り巻きたち二人を気絶させる。


「はっ?」


「えっ……?」


 曲がりなりにも戦闘系を得意とする第一紋と第二紋の持ち主であった二人を劣等紋が倒したという事実を前にして伯爵家の次男坊も、それにつかまっている少女も困惑の声を上げる。


「お前っ!何をしたのかわかっているの!この俺の取り巻きに拳を振るったのだぞっ!それが公に知れてどうなるかわかっているのかっ!」


 その困惑から立ち直った伯爵家の次男坊が慌てて口を開く。


「えっ?劣等紋に負けた、と。そんなことを公表するつもりなの?」


 それに対して僕は自分の手の甲。

 自身の紋章を見せつけながら不敵な笑みと共に口を開く。


「ぐぬっ……」


 これを言われてしまえば何もできない。

 

「はっ、所詮は劣等紋だ。そう何度もマグレなんて起きるものでもない。第一紋の持ち主であり、優秀な伯爵家の一員である俺がちょっくら本当の現実ってものを教えてあぇ───っ!?」


「よっ」


 伯爵家の次男坊が言葉の途中。


「ぐぼっ!?」


 文字通り爆発的な加速で距離を詰めた僕は迷いなく己の肘うちを伯爵家の次男坊の顔面に叩き込むのだった。

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