劣等紋の天才魔法使い、自身を見下す周りを見返してざまぁしながら最強へと至る

リヒト

第一章 学校編

プロローグ

 ここは剣と魔法の世界、マテーデン。

 そんな世界には魔法の適性を示す五つの紋章が存在している。

 生まれたその時より決められるその紋章は決して変えることが出来ず、生涯に渡って付き合っていくことになる。

 これらの紋章の中で一つ。

 周りより劣等紋と称される紋章が存在していた。


 第一紋。

 万能型の紋章。

 近距離、中距離、遠距離。

 低火力、中火力、高火力。

 何か飛びぬけたものはないものの、代わりにその他の紋章と比べてすべての魔法に適性を持つ。


 第二紋。

 威力特化の紋章。

 第一紋ほど器用に何でもこなせない代わりに、一つの魔法における最大火力はすべての紋章の中でもトップ。


 第三紋。

 支援系に特化した紋章。

 攻撃よりも治癒やバフデバフなどに強い適性のある紋章だ。


 第四紋。

 生産系に特化した紋章。

 戦闘魔法以外の魔法に特化しており、職人御用達の紋章となる。


 ここまでは良いのだ。

 どれもが有能な紋章となる。

 問題の劣等紋は第五紋である。


 第五紋。

 劣等紋。

 連射を得意とするだけではなく、本来であれば同時発動さえもできるのだが、その代わりに肝心の魔法自体の出力が全く出せず、すべての魔法がゴミ。

 何の役にも経たない魔法しか使えない圧倒的な劣等紋。

 

 この紋章を持っているだけで周りより劣等生の烙印を押され、多くの者から虐げられることになる。

 劣等紋を持った生まれた者は家族からも捨てられて野垂れ死ぬか、過酷な労働の中で何とか命を繋ぐか。

 もしくは、家族の庇護と共に生きるかである。


「貴方は劣等紋なんだから!代わりに私が生涯に渡って助けてあげるわっ!」


 とある一つの村。

 そこでは劣等紋として産まれながらも家族から愛されて育っていたオッドアイの少年がいた。


「うん、ありがとう……お姉ちゃん」


 両親はすでに死去しているが、それでも飛びぬけて優秀な姉の元で問題なく育つこともできた彼は劣等紋でありながらも、姉からの愛を目いっぱい受けて幸せに暮らしていた。

 劣等紋でありながらも問題なく過ごし、姉と共に幸せな生活を送ることが出来ている少年は何処までも幸運だったと言えるだろう。


 されど、世界は何処までも残酷であった。


 魔が叫び、赫が踊る。

 

「きゃぁぁぁぁぁぁあああああああああああああっ!?」


 この世界に存在する人類の敵である魔物。

 その中でも飛びぬけた実力を持つ王と呼ばれる魔物が舞い降りた少年の村は阿鼻叫喚の地獄となり果てていた。

 王の魔物と共に襲撃してきた多くの魔物が村に住む人たちを切り刻み、村の建物には火が放たれている。


『うぅむ……筋はよい、だが。この女は違うな。だが、一応……精神の方を封印しておくか』


 そのような中でひときわ存在感を示す王の魔物はその大きな手の指先で一人の少女をつまみ上げていた。


「あぁぁぁぁぁぁあああああああああっ!?」


 王の魔物の手の指先によって摘まみ上げられる少女……劣等紋の少年の姉であった少女は大きな悲鳴を上げている。


「……ぁぁ」


 そんな様を。

 ただ少年は震えながら見ていることしかできない。建物の倒壊に巻き込まれている彼は動くことができなかったのだ。


『それでは、去るとしよう……行くぞ』


 王の魔物と、それに付き従う魔物は少年の住まう村を壊滅させた上で去っていた。

 そんな中で生き残ったのはただ一人。

 たまたま建物の倒壊に巻き込まれながらも命を繋ぎ、姿が建物に隠れていたおかげで魔物からの攻撃も受けなかった少年だけであった。


「……」


 劣等紋の少年は弱々しい魔法を幾度も連発することで何とか倒壊した建物から這い出て地面に力なく倒れている己の姉へと縋りつく。


「うぅ……」


 生き残ってしまった劣等紋の少年の姉。

 その人は呼吸をしてはいるものの、その意識が目覚める気配は一切なかった。


「あいつは……」

  

 王の魔物が告げた『精神の方を封印しておくか』という言葉。

 それより、劣等紋の少年は自身の姉の精神があくまで封印されただけで生きてはいると確信していた。


「……僕が、必ず」


 劣等紋の少年は己の姉に縋りつきながら涙を流す。


「助けてあげるから……!」


 それでも、その少年は哀しき涙を流すと共に強い意志と覚悟をその胸に抱くのだった。

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