第28話
「おはようございます、レイ様。」
私はレイ様の肩をそっと叩き、日昇と同時に彼を起こした。
「現在は午前5時30分です。始発のバスまであと15分ですよ。」
レイ様は、だるそうに目を擦りながら立ち上がった。
「悪いな。俺だけ寝て…。」
明らかに「悪い」と思ってなさそうだが、まあ許すとしよう。
「それで、作戦は本当にやるのですか…?」
「ああ。俺の身のためだぞ?」
レイ様はそう言って笑った。
***
あれはレイ様が眠る前、今後の作戦を立てたときのことだった。
「俺たちは、カップルという設定でいこう。」
「へっ…!」
レイ様の言葉に思わず変な言葉を発してしまった。
「二人の距離感が近いほうが普通に見えるだろう?」
「そうかもしれませんが…。」
カップルのふりなんて、素直に喜べない。
「じゃあ、決まりだ。俺の身の安全のためだと思え。」
「…。勝手にしてください。」
あくまでこの作戦に賛成はしていないのだが、成り行きで決定して今に至る。
***
「そんなに手を握らなくても…。」
「いいじゃないか。演技でも仲良くしてくれないと、それこそ怪しまれるぞ。」
バス停に到着すると、さっそく手を繋がされた。
それも、ただ手を握るだけではなく、指と指をからめあった恋人繋ぎというやつだ。
「有事の際は、すぐに手を話してもらいますからね。」
「了解だ。」
レイ様は頷きながらギュッと私の手を握った。
こいつ絶対に了解してないだろうと思いつつ、私たちは定刻通り到着したバスに乗った。
時間のおかげか、バスには終始私たち以外の利用者がいなかった。
私たち二人はバスの後部にある二人掛けの席に座ってそれらしい会話をしておいた。
15分も経たないうちに、車窓から見える景色は都会のものへと移り変わった。
そこそこに高い建物が見受けられ、人通りも徐々に増えていた。
「次のバス停で降りて、乗り換えです。」
バスを降りたら、常に警戒体制でいなくてはいけない。
私はギュッと目をつぶって気を引き締めた。これ以降は一切の油断も許されないのだ。
「デボネルへは5番乗り場ですね。」
私はバスターミナルの案内板を確認して次に乗るバスを見つけた。
「デボネルへはこちらのバスで、10分ほどで 到着します。」
「そこに着いたら朝ごはんにしよう。腹がへった。」
ずいぶんと呑気なことを言うではないか。
レイ様の安全のためにも一刻も早く目的地に着きたいところなのだが…。
白い歯を見せてニッと笑う彼の姿が眩しかった。
レイ様は元気なのに、私が弱気になってどうするんだ。
「いいですね。何にしましょうか?」
そう言って私は笑った。
定刻通りデボネルに到着すると、私たちは特急列車の切符を買った。
「ルースアーまで、大人二枚です。」
受付のお姉さんは朝早いせいか無愛想に時刻表を確認していた。
「7時半の電車はもう満席なので、次の8時20分になりますが…。」
お姉さんは、だるそうにボソボソとしゃべった。
「それでお願いします。」
「席はどうされますか?現在二等客室と一般客室のみ空きがあります。」
二等客室なんて、そんな値の張る席は無理だろう…!と思ったのだが、レイ様は即答した。
「二等客室で。」
さすがは金持ちだ…。
お姉さんは黙って料金表を差し出して、説明を始めた。
「一般席は乗車された区間の分の代金が加算されますが、二等客室の場合代金は途中下車されても、終点まで乗車されても代金は一律で195ザーウです。」
ということは、30万円くらいか…!
さすがにそれは…と思ったがレイ様は「構わないです。」と口にしていた。
「だって、二等客室は個室なんですよね?」
レイ様がそう尋ねると、無愛想だったお姉さんは露骨に笑顔になった。
こいつ、絶対に勘違いしてるだろう…!
「かしこまりました。それでは、料金は195ザーウになります。」
レイ様はためらうことなく30万を現金で支払い、特急券二枚を手に入れた。
「それでは、お楽しみくださいませ!」
先ほどまでとは打って変わってお姉さんはとびきりの笑顔を見せてくれた。
絶対に私たちの関係を誤解していると思うが、無事に切符を手に入れたことだし、よしとしよう。
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