第29話

 「じゃあ、あと1時間あるし朝飯にするか!」


 レイ様はそれしか頭にないようで、切符を手に入れるとすぐに駅裏の飲食店街に向かった。


 まだ朝早いので残念ながら空いている店は少ない。その中でも比較的に客単価が高く、長居しても怒られなさそうな喫茶店を選んで店内に入った。


 


「何にするか?好きなものを選んでいいぞ。」


 先ほどから全ての言動が大富豪のようだ。


 改めてレイ様の生まれが良いことを実感しつつ、私はありがたくパンケーキを注文した。


 レイ様もサンドイッチを注文し、料理が来るまでの間はどうでもいい会話をして待っていた。


 

「お待たせしました。パンケーキとサンドイッチでございます。」


 メニュー表には文字しかなかったのだが、実物は4段に詰み上がっていて上にはホイップクリームがのっていた。


 おいしそう…!


 私はさっそくナイフとフォークを手にとって、パンケーキを口に運んだ。


 「…!おいしい…!」


 玲奈の時は、体型維持のために糖質制限をすることもあった。


 特に柔道は、○キロ級と体重によって厳格に階級がわかれるため体重管理は厳しかった。


「生地の味が濃すぎないから、無限に食べられるぞ…!」


(思わず玲奈の口調で喋ってしまった…!)


「ふっ…。そんなにおいしいのか?」


 サンドイッチを頬張っているレイ様にそう尋ねられた。


「ここに来るまでは、食生活を制限していましたので。」


私の答えにレイ様は不思議そうな顔をした。


「病気かなんかだったのか…?」


「いえ。その逆です。強くなるために余計なものは食べないようにしていたのです。」


 好きなものを食べてもなお強いことが本当の強さだと思うが、体重制限がある以上食事管理は怠れなかった。


 「よくわからないけど、うまいならよかった。俺にも少し食わせろ。」


 「いいですよ。」


 私はパンケーキの乗った皿をレイ様の方へ近づけようとした。


 ふと顔をあげると、レイ様と目があった。


 気のせいかもしれないがなんか不満そうな表情だ…。


 ほんの少し考えてから、皿を自分の方へ戻した。


 そして器用にナイフとフォークを捌き、一口で食べやすいようなサイズに切り分ける。


 「…。どうぞ。」


 私はフォークをレイ様の口もとへ近づけた。


 レイ様はこれを待っていたと言わんばかりの笑顔でパンケーキにありついた。


 なにこれ。まるでレイ様が私に従えているような光景に、上目遣い。守ってあげたくなるかわいさではないか…!


 (いや、実際に守ってあげているが。)


 表情がほころんでいくのが自分でもわかり、自然にやけてしまった。


「…。うまいな。お前もサンドイッチ食うか?」


「じゃあ、交換ということで。」


そう言うとレイ様は食べかけのサンドイッチを私に差し出してきた。


私は黙ってサンドイッチを受け取って口にしたのだが…。

えっと、これは。間接キスというやつだよな。


何も考えるな!と自分に言い聞かせてサンドイッチを一口かじった。


「こっちもうまいだろう?」


レイ様は頬杖をつきながら満足そうにそう言った。


「ええ。とてもおいしいですね。」

静かに頷いてそう言ったのは気の利いた嘘だった。


ドキドキしすぎて、味がしないじゃん…!

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