第26話
レイ様が言ったように、10分も歩かないうちに私たちは洞窟にたどり着いた。
洞窟に入ってすぐに大きな水たまりがあり、それが滝に繋がっていると気が付く。
人が立ち寄った形跡はなく、透き通った水面が私の顔を写していた。
「綺麗なところですね。」
私は思わず口にしていた。
「昔、屋敷を抜け出してよくここで遊んでいたんだ。」
レイ様は得意気にそう言った。
「地下は3階、上には4階の構造になっていて、最上階はこのあたり一帯が見えるほど良い眺めなんだ。」
この洞窟をずいぶんと攻略されているご様子だ。
「上まで行ってみるか?」
そう言ったレイ様の表情はまるで遠足に行く前の少年のようにワクワクとしていた。乗り気なところ申し訳ないが、ここで無駄に体力を使うのは避けた方がよいだろう。
「興味はあるのですが、ここは体力を温存しておくべきかと…。」
私の言葉にレイ様は分かりやすくシュンとした。
ここで拗ねられることはだいたい予想できていたが、いざとなったら面倒な奴だと思う。
「かわりに、この洞窟の話しを聞かせていただきたいです。」
私がそう言って乾いた地面に腰を下ろすと、レイ様も私の隣に座った。
「昔から、他人と遊ぶことが少なくて…。友達はもってのほか、屋敷でも基本は一人だった。」
レイ様は水面を眺めながらぼんやりと話を始めた。
聞けば、『魔王』であることが理由で両親から人との交流を制限されていたらしい。ボロが出ることと、人を裏切る苦しみを避けるためだったようだ。
「屋敷にはメイドがいて、俺の遊び相手になってくれていたけれど…。みんな俺に怯えていた。」
レイ様は寂しそうな顔をした。
このおぼっちゃまも、意外と苦労しているようだ。
「それで、俺は試そうと思ったんだ。屋敷のみんながどれほど俺に関心があるのかって。」
「その時にここに来たのですね。」
私の言葉にレイ様はこくりと頷いた。
「実際は、半日もしないうちに捕まった。屋敷のみんなにも、すごい心配されたし俺に興味がないわけではないんだとわかった。」
でも…。と言ってレイ様は唇を噛んだ。
「それは、俺が将来の魔王だからだ…。」
そこまで頭は良くないくせに、こういう事はわかってしまうのか。
「変だよな?魔王だから人と上手く付き合えないのに、魔王じゃない俺に価値はないんだよ。」
珍しく弱気なことを言うではないか。
一応、こいつの命は狙われているわけだし、ただではいられないのは当然か。
だが、私はあることに気がついた。
「あなたが魔王じゃなくなって、困る人もいますよ…?」
魔王じゃなくなったら、私が困る。だって警護役を解雇されるでしょう…!
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