第25話

 「俺を誰だと思っているんだ?」 

 レイ様は自信満々にそう言った。

 

「まさか魔王の状態になるとでも言いませんよね?」

 

「そのまさかだ。」


 …。やはりこいつは馬鹿だ。


 魔王であることがバレたらそれだけで今よりもずっと危険におかされるのに、自分から姿を現してどうするんだよ…! 


 「魔王の状態になれば、転送魔法が使える。その状態なら一瞬でルースアーに行けるぞ?」 


 「それは絶対におやめくださいっ!」

 

 転送魔法はなんとも魅力的だが、さすがにレイ様を魔王の状態にするのは危険だ。  

  

 しかし、現在の状態のレイ様が使用できる魔法を駆使すれば望みはある…。ちょっと待て、魔法…?


 とある可能性を思いつき私はレイ様に尋ねた。 


 「以前、レイ様がおっしゃっていた『記憶を取り戻す方法』についてお尋ねしたいことがあります。」  


「…!なんの関係があるんだよ?」


 私の言葉を聞いた瞬間にレイ様は分かりやすく動揺した。  


「記憶を取り戻せば、私も魔法が使えるかもしれません。そうすれば私も、魔法を駆使して事を解決できるかと…。」 


 記憶を失ってもなお、ティアは魔法化学が得意だった。  


 私が乗り移る前のティアはきっと有能な魔法使いだったのだろうと玲奈のが言っている。   


 「だめだ。それはできない。」 


 レイ様はきっぱりとそう言った。 

 

「なぜですか?緊急事態でもだめなのですか?」 


 私は思わずレイ様に詰めよった。


「現在おかれている状況よりも、記憶を取り戻すことの方が問題なのですか?それほど都合が悪いのですか…?」  


 イヤな想像をしてしまった。この緊迫した状況でも記憶が戻ることを拒むだなんて、きっとレイ様はなにかを隠しているんだ。  

 


「…。お前が記憶を取り戻すこと自体に問題はない。だが、記憶を取り戻す方法に問題があるんだ。」  


 レイ様は私の勢いに圧倒されたのか、うつむいたままそう言った。  


なるほど、そういうことか。その方法が命に関わる危険な行為なら、たしかに控えるべきかもしれない。


 「余計なことを言ってすみませんでした。」  


 私は深々と頭を下げ、これからどうしようかと考えた。

 

 「ここから少し歩くと、洞窟があるんだ。そこなら人もいないし休めると思うが…。」  


 レイ様もそれなりに考えていてくれたようで、今度はまともな案を出してくれた。


 「本当ですか?ではそちらに向かいましょう。」  

  

 雲の隙間からわずかに差し込む月の光を頼りに、私たちは洞窟を目指して歩いた。


 仕方なくレイ様の腕を引いてあげたのは、彼が不安そうにしていたからであって、私が暗闇が怖かったからではない…。

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