第22話

 「ほら。行くぞ。」  

 

 レイ様はそう言って部屋の扉を開いて私を待っていてくれた。 

 

 だが、『あくまでレイ様は魔王だ』と理解した今の私はそんな気分じゃなかった。 


 「やっぱり、今夜は遠慮いたします。」

 

 そう言ってレイ様に背を向けると、彼はからかうように言った。 

 

「俺を投げ飛ばすなんて、いい度胸じゃないか。罰として今夜は俺の言う事を聞け。」

  

 これは絶対にまずいやつだろう…!昨日は何事もなかったが、今からこのテンションのレイ様の相手をするとただでは済まない。 

 

「お断りします。」

 

私はきっぱりと言った。 

 

それなら…とレイ様は少しの間考えて反則技を使ってきた。 


「断ったら契約解除だ。」 

 

「それは困ります…!」

 

ここで契約を切られたら残り三日分の報酬1億5000万円を失うことになる。 

とりあえず億万長者になって、異世界を満喫してから現実に戻りたいの…!

 

「契約を切られたくないなら、今夜は俺の言うことを聞け。」 

 

レイ様はそう言って私の瞳をじっと見つめた。 

 

「いいですよ。そのかわり、法に抵触するような行為は禁止です。」

 

 レイ様もこの条件を承諾してくれるようなので私は仕方なくレイ様の寝室へ向かった。 


  

 意外にも、今日も大きなベッドの真ん中に不自然な空間をあけながら横になった。 

レイ様は今日も窓の方を見ていて、私も彼から顔を反らしている。

 

 互いに無言の時間が続いて、私はふと考える。 

 

 レイ様の方から「言う事を聞け」と言った割には今日もこちらに何も言ってこない。 

 

 

 てっきり奪われてしまうのかと思ったが、今日もその気配はなさそうだ。 

 気を使ってくれているのか…?それともただ単に緊張してるのか? 


 沈黙に耐え切れなくなって私は思わず口を開いた。 

 

「起きているんですよね。レイ様。」

  

私が問いかけるとレイ様は体をゴロンと倒してこちらを向いてくれた。 

 

「眠れるわけないだろう。」 


それはこっちもだよと思う。

 

「今、なにを考えていたんですか?」 

  

私はレイ様に尋ねた。あえて意地悪な質問をしたのは、命令に付き合わされている私からの仕返しだ。 

 

 レイ様はすぐに答えようとはしなかったが、やがてぽつりぽつりと呟くように話し始めた。 

 

 「ティアは俺のことが嫌いになったかなって…。」

 

 レイ様はそう言って布団にもぐりこんだ。なんだこいつ。かわいすぎるだろう…! 

 

「そうなしょうもないことでしたか。」 

 

私のそっけない言葉に、レイ様は「うっ!」と言って笑いながら布団から出てきた。

 

  

確かに、魔王の姿をしていたレイ様には少し驚いてしまったが。

 

「嫌いになんてなりませんよ。」 

 

私が照れながらそう言うとレイ様も一緒になって照れていた。

 

  

 変わり果てた彼の姿を見て、初めて彼が魔王だと自覚した。同時に、好きになるべき対象ではないことも理解した。 


 だから、どうやって嫌いになるべきなのかを考えていた。

 

 「責任とってくださいよ。レイ様。」 


 その言葉を合図に、先ほどまでシュンとしていたレイ様の表情が変わった。 

私の方へそっと近づいてくるレイ様は、獲物を捕まえた悪魔そのものだった。

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