第19話
6日目
昨晩はレイ様と同じベッドで、なんとか眠りについた。
今朝はレイ様より早く目を覚ました。『誰かに見られていても、もはやどうでもいい!』と割り切って、日が昇らないうちにレイ様の部屋を出た。
屋敷では夜勤で警備をしている人もいるようで、朝からシャワー室に人がいた。
私も朝一番でシャワーを浴びて、朝食の時間になるとすぐにブライン様のもとへ向かった。
「ティア様。体調は大丈夫でしょうか?」
ブライン様も心配してくれていた様子だ。
「ええ。ただの寝不足でしたので。体調管理は気を付けます。」
なんだかんだで警護という警護をしないまま半分の5日が過ぎている。
むしろ、美澄玲奈の身では体験できないような乙女な日々を過ごさせていただいている。
なんの危険もなく契約が終わるなんて、そんな甘い想像はしていないので、折り返し地点の今日からまた気を引き締めて頑張ろう。
私はレイ様の部屋に向かった。
「失礼します。」
今日もコンコンと優しくノックし、重い扉を開いた。
「今日のご予定は?」
レイ様は椅子に座ってなにやら書類を眺めていた。
校長室を連想させる大きな机と椅子に、真剣な眼差しのレイ様を見るとやはり彼は権力者なのかと思い知らされる。
「午前中は忙しいから、午後にまた来てくれ。」
顔を上げたレイ様は、さりげなく上目遣いで私を見てきた。なにこれかわいい。「かしこまりました。」
私はなんの感慨もなくお辞儀をしてみせる。
『来てくれ』と言うことは遠回しに『一度部屋から出ろ』といっているのか。
私は一礼して、部屋をあとにした。
それからというもの午前中は自分の部屋で一人で過ごしていたのだが、とてつもなく暇をもて余した。
レイ様が『相手をしろ』と言う気持ちが理解できた気がした。
最初は面倒だと思っていたが、案外私もレイ様に相手をしてもらっているのかもしれない…。
午後にレイ様の部屋に向かうと、今度はソファーの前の机の上に大量の冊子が山積みになっていた。
「この束から探したい情報がある。手伝ってくれ。」
レイ様は『ここに座れ』とでも言いたいのか、ソファーをポンポンと手で叩いた。
私は黙って彼の隣に座った。横を見るとレイ様は満足そうに笑っている。
どうしたらいいのかわからないので、私は思わずレイ様を睨んだ。
「これは、何なのでしょうか?」
私は眉間にシワを寄せたまま尋ねた。
「警察とか政府とか平和主義の偽善者団体とか、俺の敵対勢力から手に入れた情報だ。」
市民団体はともかく、政府の情報はどうやって盗んだんだよと思わずツッコミをいれたくなる。さすがは魔王さまだ。
「
レイ様はそう言って笑っていたけれど…。 いつもより不器用な笑顔だった。
「こんなもの読んで、怖くならないのですか?」
私は思わず尋ねた。自分の命が狙われる計画を知ってしまったら大抵の人は普通ではいられなくなるだろう。
「…。」
レイ様は何も答えなかった。怖くないわけがないか。
余計な質問をしてしまったことを詫びようと思ったが、なんとなく謝るのも違う気がした。
「そんなに私が頼りないですか?私と一緒なら心配など不要ですが。」
私はそう言って資料に手を伸ばした。
「それが余計に心配だ。」
レイ様はそう言うと続けた。
「俺に何かあった時に、一番最初に失うのはお前だ。」
レイ様はそう言うと目をつむった。
「お前の仕事は俺を守ることではない。俺のそばにいることだ。俺の前からいなくなるな。」
本人は冷静に取り繕っているつもりなのだろうが、必死に訴えていると私でも気付けた。
たまに子供のような姿を見せるレイ様が、どことなくいたたまれなかった。
彼は魔王なんかではなく、本当は見た目よりずっと幼い少年だ。
「わかりました。御心のままに。」
私は下を向いて答えた。
どうせ果たせない約束など、交わすべき立場ではないのに。
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