第15話

 

 夜には体調も回復し、私は自分の部屋に戻った。戻ったのだが…。

その日の夜は全然眠れなかった。 

  

 思い当たる節は2つある。まず、気を失ったタイミングで私は数時間眠りについた。普段は昼寝をしない私が昼寝をしたので単純に眠くないのだと思う。 

 そしてもう一つ。レイ様に「かっこいい」と言ってしまった。あの時の私がちょっと浮かれていて、調子に乗っていたと思う。軽はずみで言ったのだが、後から思い返すとものすごく恥ずかしい…。 

 

 いや。見た目はティアかもしれないけれど、心は三澄玲奈なのだ。戦闘耐性はあるけれど、女の子扱いされることに耐性はない…!

 そのくせ、レイ様は当然のように私をエスコートしてくれたり、後ろから抱きしめてきたり、お姫様抱っこだなんて。

 冷静でいられるわけがないのだ。 

 

 眠れない夜は体でも動かそう。私は鼻歌交じりで蹴り100本、突き100本の練習を済ませるのであった。今日が大雨で良かった。 


 

5日目 

  

 次の日、睡眠時間はたぶん2時間くらいの私はのんびりとブライン様の元へ向かい朝食をとった。

 意外にも体は動いているので、ティアはショートスリーパーなのかもしれないと考える。 

 

 「失礼します。本日のご予定は?」

 私はいつも通りレイ様の部屋を訪れてゆっくりとお辞儀をした。 

意外なことにも彼は普段通りの表情だった。まるで、「かっこいい」と口走って焦った自分の方が馬鹿みたい。 

 「特にないのだが…。お前、勉強は得意か?」 

レイ様はそう尋ねてきた。 

 

 「勉強ですか…。」 

苦手ではないのだが、美澄玲奈の思う勉強と異世界での勉強は一致していない可能性がある。 

 英語や数学のような応用ベースの科目は得意だったが、はたしてこの世界で「英語」なんて勉強するのだろうか…?

 「魔法化学の宿題が終わらないんだ。代わりにやっておいてほしい。」 

レイ様はそう言ってこちらを見てきた。

 

 魔法化学なんて知るわけがないだろう…!と言うか宿題?

 こいつ学校に通っていたのか?

 

「あの、失礼ですがレイは学校に通われているのですか?」 

 私が屋敷に来てからの五日間は学校に行ってないようだったが。 

「ああ。貴族とか、偉いとこの子息・子女が集まる学校に行ってる。今は夏休みだ。」 

 そういう事か。そしてエリート学校に通っているなんてさすがはおぼっちゃま。

 

 

「私はボディーガードですので、宿題は致しません。」

適当に言いを訳して誤魔化した。 

 「でも、ボディーガードってことはお前も魔法使えるだろう?」 

レイ様はそう言って鞄からプリントの束を引っ張り出した。 

 「魔法ですか?そんなもの使えませんが…。」

私がそう言うとレイ様は口をあんぐりと開けてプリントの束を床に落とした。 


 あれ。これはまずい事を言ったかも…。   

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