第6話 吾輩は学習した。

 昨日はヒドイ目にあった。

 風呂では昨日同様に男どもに代わる代わるもみくちゃにされるし、夜は満面の笑みを浮かべているエライザ父との同衾だよ。 隙を見て抜け出そうと企んでいたのだが、まるで幼子が寂しさ故にぬいぐるみを胸に抱くかのように、ギュッとホールドされて朝を迎えることとなってしまった。


「里の皆には言わないようにしてね」


 毎日男どもに抱かれて寝るなんて、とんでもない悪夢だと思って念押ししたら、「私がそんなに気に入って頂けましたか。 ふふふ……数々の女を泣かしてきた魅力あるこの胸に聖獣さまもメロメロですね」。 などと気持ち悪い笑みを浮かべてた。 まぁエライザ母に聞かれて、この里でお互い育って結婚したのに、数々の女とはどういうことなのか? もしや浮気なのか? と凄まじい形相で問い詰められているけど。

 エライザ父よ、安らかに……R.I.P。

 てもアレだな、パッと見エライザ父も母も、いや、エルフ全体が同じような体型だから感触は一緒なのかもしれな……ヒッ!


「聖獣さま? チョキンっとしときますか? 」


 ヒィィィィッ!

 なんで口に出してもいないのに……アレか? 念話か? 念話が勝手に作動しているのか? いや、エライザ父は理解していないっぽいから違う。 女の勘?

 お2人とも表情筋が仕事をしていないですよ? 目が笑ってなくて怖いです……。

 全身の毛が逆立つ!


 この世界に来て1番の恐怖を味わっている気がする……。

 吾輩は覚えた。

 どの世界でも女性の胸に関してはNG。

 決して触れるべからず。 触れる際は死を覚悟せよ。


「次はない」

「イエスマムッ!! 」


 今回は許して貰えたようだ。

 よかった……危うく強制的TSとなるところだった。


 しばらくエライザのご機嫌伺いをしてから、ようやく待望の魔法適性の確認をすることとなり、里の端にある洞窟へとやってきた。 俺はてっきりラノベ定番の水晶に手を当てて確認だとかだと思っていたんだけど、そんな物は聞いたことがないらしい。

 洞窟の中には火・水・風・土・重力・闇・光・癒し・空間を調整する精霊を象った石像が円状に設置されており、その真ん中にしばらく立っていると己が使用出来る属性の精霊像が光るとのことだった。


「光っているのは空間と癒しですね」


 どうやら身体強化と言語魔法の2種類というわけではなかったようだ。 該当しそうな属性がないため大丈夫かも? と希望を抱いていたのだが、裏切られることはなくほっとした。


「空間と癒し、私は風のみなので羨ましいです」


 拗ねるように言いながら、何故かいそいそと髪を結び始めた。 そしてツインテールにすると俺と入れ替わるように像の中心に立った。

 こいつ……完全に敬う心を捨ててやがるっ!


「チェッダメかぁ〜」

「エライザさん? 」

「あっ……た、たまに増えることもあるんですよ。 ほら、マタタビですよ〜」

「ウニャ〜ン」


 こ、こいつ俺の扱い方を完全に覚えやがった。 猫の本能が恨めしいっ!

 マタタビいい匂いにゃ〜。


 マタタビという人質を取られた上に、本日は色々余計なことを考えてしまったために強く非難することも出来ず、いつか泣かすと心に誓いつつ戻ってきて、魔法講習を受けることとなったのだが、ここで衝撃の事実が判明した。 身体強化魔法なんてものは聞いたことがないらしい。 もしかしたら呼び名が違うだけかと思ったら、魔力を全身に張り巡らせて身体能力を上げるということさえ初耳だと言われてしまったのだ。

 だが俺を追いかけてきた蛮族どもは、確かに普通よりもかなり足が速かったように思えることを伝えたのだが、本当にそうなのかと問われて気付いた。 そもそも前提が違ったのだ。 この世界と地球の人間が同じではないのだ。 それに恐怖に駆られて逃げている際は、追手が速く感じるのもあるだろうし、魔獣溢れる森の中をビビりながら走っていたのも関係しているだろう。

 まぁ真相はわからないが、確かなことは身体強化魔法を使用出来るのは、現時点において俺だけの可能性が高いということだ。


「さすが聖獣さまじゃ〜。 ありがたやありがたや」

「……ニャ」


 気が付けば俺の前には中高年のエルフたちが列をなしている。反対にエライザの周りには若い男女。

 どうしてこうなった……。


 いや、始まりは俺が身体強化魔法をエライザに披露したことからだ。

 魔力さえあれば誰にでも使用可能であるというのにも拘わらず、誰も知らないという事実に、エライザは俺に教えを乞うてきた。

 当初は先程の洞窟でのことを考えてかなり躊躇って焦らして遊んでいた。 するとマタタビに加えて、とっておきだというアカゴサライの脚肉を干した物を差し出してきたので、先日食べれなかったこともあったので取引に応じて教えることに。

 元々俺よりも長い時間魔力に触れていたこともあり、瞬く間にやり方を自分のものとし、十全に遣い熟すようになった。

 代わりに俺も空間と癒しの魔法を教えて貰うことに。魔法はイメージが全てであるが、空間魔法は見えにくいために習得するのが難しいという話だったのだが、元日本人でラノベやアニメを嗜んでいた身からすれば朝飯前。 そもそもエライザと出会った際の落下時にクッションを無意識に空間魔法で作っていたこともあり、そこまで時間をかけることなくいくつか発動出来るようになった。 次に癒しの魔法だが、こちらは読んで字のごとく、人の身を癒すーーつまり治癒魔法のため、病人や怪我人で実践することとなった。 そしてこちらもイメージの力で問題なく出来た。


「空間も癒し魔法のどちらも、遣い熟すことが出来ずに生涯を終える者もいると言われるほどに難しいはずなのにスゴいです。 その上誰も知らない魔力の使い方を発見するなんてさすが聖獣さま、カキさまっ! 」


 つい先程まで敬うことを忘れていたエライザが、大声でめちゃくちゃ褒めてくるもんだから気分良く居たわけですよ。


 そこまで大きな集落ではないにも拘わらず、真昼間から大声で騒げばどうなるか? しかもその発信源は元々注目の的である聖獣さま。 もちろんのように人々が集まって来るよね。

 何があったのかと問われ、俺の功績を発表するエライザ。


 ……そして俺の前には身体の不調を訴える中高年が列をなし、エライザの周りには身体強化魔法のやり方を覚えようとする若い男女たちが集まることとなった。


 あっ今エライザがこちらを見てニヤリと笑いやがった。

 あっアイツ、図りやがったなっ!


 タワワ神めぇ〜!

 お前がちゃんとデザインすればっ!


「ち、違うんです! き、切らないでくださいっ!! 」


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