第5話 吾輩は神を呪う!
「ふふふ。 これがある場所は私しか知らない秘密の場所なんですよ」
「フニャー」
吾輩を売りやがった薄情エライザ。
帰ってきたらアイツの部屋の調度品を目の前で爪研ぎしてやろうと、プンプンしながら密かに企んでいたら、皿洗いにしてはだいぶ時間を掛けて戻ってきた音がした直後、部屋に葉のついた小枝を放り込んできた。
途端耐えられないほどの本能が疼くような抗えない匂いに、気がつけば小枝に身体を擦り付けて情けない声を出していた。
そう、投げ込まれたのは猫系への奥の手であるマタタビだった。
俺が怒っていると察して近くの森から採ってきたらしい。
全くもって卑怯極まりない!
そして俺をモフりながら、再びマタタビを採ってくることを条件に裏切りを許せと……くうっ! この猫の身体が恨めしいっ!
「あぁ〜俺のマタタビ……」
「魔法を何が使えるか知るんじゃなかったんですか? 」
「知りたいけど……ウニャ〜」
枝をガシガシ。 と噛んだりしていたら突然取り上げられた。 しかもそれを振って俺が追いかけるのを見て楽しんだ後、ポイッ。 と外に捨てやがった。
マタタビは恋しいが、確かに魔法のことも知りたい。
それにしてもエライザは全く俺を聖獣さまと崇めていないようだ。 昨日出会った時はあんなに緊張していたのに、今やちょっと可哀想なモノを見るような目で見ている気がするし。 あっ、元人間だと知ってしまったからもう無理ですか、そうですか。
……ま、まぁ仲良くなれたということにしておこう。 下手に崇め奉られるのもしんどいし。
魔法のことは知りたいけれど、今日はなんかやる気が出てこない。 転移してからずっと波乱万丈だったし、昨日は昨日で挨拶を返し続けた上に男どもにもみくちゃにされたし、今日くらいはダラダラしても問題ないと思うんだ。 それに魔法以外にも色々と聞きたいことがあるし。
「質問ですか? 全然いいですよ。 でもちょっと待っていてください、里のみんなに今日は狩りに行けないって言ってこないといけないので」
明らかに嬉しそうに笑みを浮かべると、弾むような足取りで出て行った。 どうやらエライザも外に出る気分じゃなかったようだ……いや、あれは仕事をサボれる言い訳が出来たという喜びだな。
「カキさまのためなら問題ないらしいです。 で、魔法以外のことで何が聞きたいんです? 」
「考えてみたら山ほどあるから、順番に聞いていくよ」
そう、冷静に考えてみると、魔法以外にも聞きたいことは山ほどあるんだよね。
まずは普通の猫とツインテールキャットの違い。 何をもってして判断しているのか。 もしそれが隠せるような違いなら、人間の町を彷徨いても問題なく行けるだろうし。 あとこの世界のことも聞きたい。 魔王とかいるのか? 精霊信仰はあるのか? どんな神さまを祀っているのか? 教会とかはあるのか? うん、いくらでも浮かんでくる。
「本当にたくさんありますね〜。 まぁお陰様で今日はなんの仕事もなくなったしお答えしますよ」
俺が矢継ぎ早に知りたいことを問いかけると、少し呆れた顔を見せつつも順番に答えてくれた。
まず猫とツインテールキャットの明確な違いは尻尾だそうだ。 蛮族たちの会話で1尾がどうとあったように先が別れているとかではなく、単純に長さが全然違うらしい。 この世界の猫はもっと短く細いのだそうだ。 バランス的に大丈夫なのかという疑問はあるが、そういうモノなのだと言われたら納得するしかない。
次にこの世界の成り立ち? 神話のようなものを教えて貰った。
タワワという名の神がおり、まずは世界の管理者として精霊と龍を作った。 その精霊たちの手伝いをするためにエルフやドワーフを初めとする妖精族を作り出した。 その頃の世界はとても平和であり、自然に満ち溢れていたらしい。 だがそんな素晴らしい世界は突然崩れた。 違う次元にある世界から侵略を受けたのだ。 その時の尖兵が今の普人族の祖だった。 彼らはさらにこの世界に混乱を齎すために、身体の中に核を持つ魔獣を放った。 さらには魔獣と人間のハーフである獣人族を、おぞましい実験の果てに作り出した。
精霊と龍は次元の穴を埋めることに成功したが大きく力を失ってしまい、長く眠ることとなった。 穴が埋まったことにより普人族や獣人族は指令が届かなくなり、次第にこの世界に根を下ろして生活するようになった。 だが同時に魔獣も残り、今もこの世界を蝕み続けている。
根付いた普人族と獣人族だが、本能には刻み込まれているのだろう、妖精族の住まう地を侵略しようとし続けている普人族。 獣人族は魔獣の血からか森に住まうようにはなったが闘争本能が強く、普人族と妖精族に度々衝突している。
ただ侵略から長い時を経ているために、普人族国によっては交流もあるそうで、会敵即斬なんて物騒なことにはならない。 だが国によっては普人族至上主義な所もあり、そういった国は妖精族や獣人族をヒトモドキと蔑んでいるために、揉めごとに度々発展している。
妖精族は神タワワを主神としているが、普人族や獣人族は口にもしたくない名の神を崇めているとの事。
という、中々壮大で興味深い神話だった。
だがまぁ神話なんてものは、大概にして自分たちに都合のいいようになっているので、本当のところはわからないけどね。
でも、肝心の神は世界創成にしか出てこないことが気になり尋ねてみると、どうやらわからないらしい。 他次元からの侵略だなんていう一大イベントにも出てこないことから、世界創成だけして去ってしまったという説や、何もせずただ見守っているだけという説などあるが、精霊や龍が力を取り戻して世界に顕現するにはまだまだ時間が掛かるために、真相を知るのも遥か先になるだろうという、めちゃくちゃ気の長い話だ。
ちなみによくあるラノベでは、エルフは精霊の力を借りて魔法をとか、精霊術なるもので……なんて感じだが、この世界では確かに精霊信仰はあるのだが、上記理由のためにないらしい。
この世界の全ての生物はその量差はあるが魔力を持っている。 だが魔法を使えるかどうかは、世界の祝福を授かった者だけが使用出来るとこのことだ。 つまりこの世界に元々存在していた妖精族は授かりやすく、他の種族は稀に現れるぐらいらしい。
あと龍はいないがドラゴンはいるとのこと。日本人的に龍イコールドラゴンだと思ってたんだけど、どうやら決定的な違いがあるのだそうだ。 では何が違うのかというと、ズバリ大きさと核があるかどうかである。
ドラゴンは魔獣の仲間であり、他次元から侵略してきた生物の1種だそうだ。 龍の身体は空を覆い尽くすほどに大きく、ドラゴンは最大でも全長200mほどらしい。 いや、200mもめちゃくちゃデカいと思うんだけどね。 絶対に会いたくない……リアル異世界怖い。
それにしても神タワワ……。
タワワという名のくせにタワワにしないとは、全くどうかしてるぜ。
「お父さーん! 聖獣さまが今日はお父さんと一緒に寝たいって言ってるから、ギュッと抱きしてめ寝てあげてね!」
ギャアアアアア!
胸の辺りを手で隠してジト目で俺を見ながらとんでもないことを叫びやがった!
ヌケているくせに察しやがったらしい……。
クソー!
神よ呪ってやる!!
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