第4話 吾輩は抗議する!
「申し訳ございません。 ただ長きを生きるエルフにとっても、聖獣さまにお目に掛かることなどそうありませんので、あのようになってしまうのは致し方ないのです」
俺の寝床用の木箱に毛布を敷き詰めながら、エライザが苦笑しながら頭を下げた。
何を謝っているかといえば、エルフの里に連れて来て貰ったら、恐ろしいほどの大騒ぎになったのだ。
「わーイメージ通りのツリーハウスだぁ〜」
なんて喜ぶ暇もなく、会う人会う人拝んだりして「聖獣さま?!」。 と感極まった様子を見せて来たのだ。 さらに長老というシワシワエルフなんて、五体投地で涙まで流してたし。 転生転移の話はせずに、少しの間住ませて欲しいとお願いしたところ、会話が出来たと喜んだと思ったら、感情が昂り過ぎて失神までしていた。 そしてあれよあれよという間に、里を上げての大宴会となり、真ん中に祭壇のような物が設置されると共に俺は据えられ、100人ほどいる住民1人1人が来て、挨拶と共に食事を供えてくる始末だ。 しかもありがとうのつもりで、「ニャ」。 と軽く声をかけたら、これまた感動するので、ずっとニャーニャー言い続ける羽目となり、食事をするまでに数時間を要した。 ちなみにアカゴサライの絶品と言われる脚の肉だが、聖獣さまを掴んでいたという付加価値により、エルフたちで奪い合うほどの人気だったそうだ。 つまり俺の口には入らなかった……エライザは俺がニャーニャー言っている横で、しっかりと食べていたようだけどね!
ようやく宴会が終わったと思ったら、長老が自分の家を提供しようとしてくるので、それを必死に丁寧に断り、エライザの部屋にお邪魔することになった。 下手な断り方したらショックで倒れて、今度は失神じゃ済まない気がするから、そりゃもう丁寧にオブラードに包んで話したよ。 それだけでぐったりです。
「こちらでどうでしょうか? 」
「うん、なかなかいい感じ」
「でも本当によろしかったのですか? カキさまがベッドをご使用頂いて、私は床でも問題ないのですが。 もしくは母と一緒に寝ることも出来ますし」
「問題ナシ」
エライザの部屋に居候することに決まりはしたけれど、今度はベッドを使用してくれ、自分は床で寝ると言い出したんだよね。 女の子を床で寝かせるなんてとんでもないし、この身体は猫、ちょうどいい感じの木箱があったのでそれで十分。
ちょっとだけ一緒に寝ることを期待してた……だけどそれは叶わなかった。 いや、正確に言うとそういった提案もあったんだけど、「これが知られたら里のみんなも寝たがるかも」。 とボソリと呟いた言葉に、つい先程の宴会を思い出してしまった訳ですよ。 きっとその言葉は現実となり、毎日色んなエルフに必要以上に崇め奉えられ気を遣いながら寝ることになると!
そして何よりもエライザのように若くて可愛い女の子だったら嬉しいが、里には当然おっさんも爺婆もいるのだ。
何が悲しくておっさんの腕の中で眠らなきゃならんのだ!
フーッフーッ……。
おっさんに抱かれて眠ることを想像して少し取り乱してしまった。
まぁ可愛い女の子に抱かれて寝ても、俺は猫だから何もないんだけどね……。 あぁ人間だったらな〜。 でも人間だったら危機感なく家にも上げてもらえないか。 あっ、前世含めて初めて女の子の部屋に入った気がする。 悲しくなってきた。
「エライザ〜? 聖獣さまはお風呂とか入らないわよね〜?」
「テールキャットだし入らな「入るっ!」い……えっ? 入るんですか? 」
お母さんの問いかけに、エライザが答えるのに被せてしまった。 猫系ならば確かに嫌がるかもしれないが、俺は元人間だからね、逆に入りたくて仕方がない。 まぁ今の今まで風呂という存在を忘れていたけれど、サバイバルな毎日だったししょうがないよね。
ツリーハウスなのに風呂ってあるのか。 キッチンとかもそうだけれど、排水とかどうやって処理しているんだろう?
「排水処理……ですか? あぁ、この里では風呂や調理場、トイレなどは地上にあってみんなで使っているんです」
そういうことらしい。 ツリーハウス内にあるのは、家族の団欒や寝るために必要な物と、お茶を飲んだりするための簡単なかまどぐらいしかないようだ。 食事は当番がいて、里全員分をまとめて作って配る形だそうだ。 ただトイレだけはそれぞれの家の下に設置されているのだが、基本的にどこのトイレを使用しても問題ないらしい。
「こちらです。 わたしも入ってきますので、もしカキさまの方がお早いようでしたら、部屋に先にお戻りください」
「あっうん……」
クソーッ!
猫の身だから一緒にお風呂かな? なんて期待してましたよ! だけど転生したことを話してしまっているからか、当たり前のように別々に入ることになった。 「今は猫の身だから大丈夫」。 そんな反論を挟む余地すらなかった。 まぁ年頃の女の子だし、まだ出会って間もないから……な、泣いてなんかないからね!
「ウォーッ! 聖獣さまも一緒にお風呂に? 」
「ニャ〜ッ……」
トボトボと脱衣所に入ったら、早速男エルフに見つかり捕まってしまった。 いや、エルフだからみんなイケメンというか綺麗な顔をしているんだけどね。 でも付いてるモンは付いてるんですよ。 風呂だから当然ブランブランとさせている訳ですよ。
「私マズリルがその御身を洗わせて頂きます」
「いや、ここはこの里1番の弓使いであるクジュランドがっ!」
「いやいや、聖獣さまは俺がっ!」
誰が俺の身体を洗うかで揉め始めた。 放っておいて欲しいんだけどな。男たちの間で取り合いになっても全然嬉しくないし……。
『えぇ〜? 聖獣さまは男湯にいるの? こちらでご一緒すればいいじゃない』
『そうよ、私たちで隅々まで洗わせて貰いたいわ』
『わ、私もそう言ったんだけど、オスだから女風呂に入るわけにはいかないって仰るから』
隣湯から声が聴こえて来た……。
オイィィッ!
エライザさん何言っちゃってんの!?
今からでも女湯に連れてってくれてもいいんだよ?
「では俺が右尾のここを」「俺はここ」「ワシはこの辺りを」「僕前足のここー!」「明日は俺の番だからな!忘れんなよ!」「この後里の者をみんな集めて話し合おう」「うむ、しっかり決めておかないと戦争になりかねん」
隣湯の様子に心でツッコんでいたら、なんか俺をみんなで洗うことに決まっていた。 どうやら場所を細かく分けたらしい。
えっ? これから毎日男どもに身体を洗われるの決定なの?
もう夜も遅いはずなのに、全員で協議するほどのことなの?
えぇ……なんか憂鬱になってきたんですけど。
「カキさま、朝食をこちらに置いておきますね」
ハッ!
もしかしたら夢だったのか?
毎日男どもにもみくちゃにされて洗われるとか悪夢を見ただけか……。
んん?
朝食??
「お父さんだけズルいわ〜。 私も聖獣さまのお身体を洗わせて頂きたいのに」
「しょうがないだろう。 聖獣さまが自ら男と一緒に風呂に入りたいと、その身体を洗うのは男じゃないとダメだと仰っているんだから。 なぁエライザ」
「う、うん……」
ゆ、夢じゃなかったようだ。
昨日途中から記憶が消失しているみたい……。
って、エライザァァァァ!
貴様俺を売りやがったな!
なんか俺が男好きになってるじゃねぇか!
「あっ! わわわわわわ私今日は皿笑い当番だった!」
俺から全力で目を逸らして逃げやがった!
動揺し過ぎて、皿洗いじゃなくて皿笑いとか言ってるし。
神さま!
猫又転生転移なんて設定盛りだくさんなら、なんでTS要素も入れてくれなかったんですか!?
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