第3話 吾輩は聖獣さまである。
吾輩は現在空を飛んでいる。
うん、掴まれて空を強制的に。 だいたい5分少々かな。
鳥っぽい何かだと思っていたが、首を捻ってよくよく見てみると、全長5mほどの身体に恐竜っぽさもあるようだ。つまり始祖鳥みたいな生物だ。
後ろを振り返れば、遥か先で森が途切れており、その先には街も見える。 目指していた街がどんどんと遠くなっていく。
何度か脱出を図って暴れてはいるんだけど、逃げれるどころか離さまいとさらにガッツリと掴まれる結果となっている。きっとこのまま巣に持ち帰られて、雛たちに餌として与えられるのだろう。
このままヤラれるつもりはさらさらないので、地面に着いた瞬間に反撃をと考えていた時だった、地上にキラリと光るモノが見えたと思ったら、「グギャー! 」。 と始祖鳥が悲鳴を上げた。 見上げてみれば矢が首をを貫いていた。 途端フラフラとしだしたのだが、二の矢三の矢が地上から放たれ遂には頭を貫いた。 空中で死んだらどうなるか? もちろん落下するに決まっている。 真っ逆さまにきりもみ状態で地上へと……一緒に落ちたら受け身なんて取れないが、幸い掴む腕の力も抜けたので、衝撃を受けても大丈夫なように身体強化しつつ、始祖鳥の身体をクッションにするために素早く駆け上がった。 クッションのことばかりを考えていたせいなのか、ここでまさかの奇跡が起きた。 後10mとなった時、突然始祖鳥諸とも身体が何か柔らかいモノにぶつかったように、ブヨン。 と緩く跳ねたのだ。 何度もブヨンブヨン。 と跳ねた後に止まった。 恐る恐る覗いて見れば、薄らと光る箱のようなモノの上に乗っているようだ。 もしかしてクッションと願っていたから、クッションを魔法で出したのかと思い、それならば念じれば消えもするのではないかと「消えろ」。 と言ってみればあら不思議、箱は消えて再び始祖鳥と共に落下した。
「えっ? 聖獣さま? 」
吾輩はクッション魔法を覚えた。
なんて感慨深く思っていたら、突然驚く人間の声が聞こえてきた。
「赤子を攫ってきたかと思っていたら……まさか聖獣さまだったとは」
そこに居たのは、呆然とした様子の弓を背負った女性だった。 白金色の髪をポニーテールにしており、露わになった耳の先は尖っている。 肌は透き通るような白さで、全体的にスラリとしている。衣装は先日出会った蛮族と同じような革鎧を着けているが、汚らしさは一切なく清潔感が漂っている。
もしかしてエルフかな? おぉ〜やはり魔法がある異世界、エルフなんてやっぱりいるんだね〜。 じゃあドワーフとか、獣人などもいるのだろうか?
いや、今はそこじゃない。
先程の言葉からすると、赤ちゃんが攫われていると思い、助けるために弓で撃ち落としたが、落ちてきたのは俺だったと。 そして気になることを言っていたな、俺を見て聖獣だと。 えっ? 俺って毛皮が高く売れるテールキャットとかいう種族じゃないの?
「ニャニャニャニャ?(そこの人聞こえる? )」
「はっはいっ! 」
爺ちゃんに声が届いたように、あの時のことを思い出しながら問いかけてみると、ビクンッ。 と身体を硬直させ、気を付けをするように直立不動になって返事があった。 どうやらちゃんと通じたようで一安心だ。
「俺って聖獣なの?」
「はいっ! 聖獣さまです。……ですよね? 」
質問したのに質問で返ってきた。 まだ緊張しているようなので、ちょっと雑談から始めることにしよう。
名前はエライザ。 予想通りのエルフで、少し先にあるミシュライラの里に住んでいるらしい。 女性に年齢を聞くのは野暮かと思って尋ねていないが、見た感じだと高校生くらいかな。 食糧となる獲物を探していたところ、ニャーニヤー。 と鳴く俺の声に空を見上げるたところ、赤ちゃんが攫われていると思い弓を放ったらしい。 ちなみにあんな高度から赤ちゃんが落下したら普通に死ぬのではないかと問いかけたところ、「あっ」。 と小さく呟き目を逸らした。 どうやら何も考えていなかったようだ。 始祖鳥っぽいアレの名前はアカゴサライ。 動物の子供がよく攫われることからそう呼ばれているらしい。
「俺って毛皮が高く売れるテールキャットって種族じゃないの?」
「普人族の間では確かにその名で呼ばれており、不遜にもその御身を欲望のために傷つけようとすると聞いております。 ですが我らエルフを含めた森の民の間では、聖獣さまとして崇め奉っております」
少し緊張が解けてきたようなので、再び質問してみたのだが、テールキャットでもあるし聖獣でもあるらしい。 種族によって呼び名が違うだけのようだ。 毛皮にされるのも嫌だけど、崇め奉られるのも困る。 どう対応していいのかわからないし。 もし爺ちゃんに出会えた時に、「聖獣さま、カキさま」。 なんて言われたら絶望して泣き喚く自信があるし。
「そ、その……私からもご質問させて頂いてよろしいでしょうか? 」
想像してしょんぼりとしていたら、恐る恐るといった様子でエライザが話しかけてきた。 まだ爺ちゃんの生まれ変わった姿が森の民と決まった訳でもないし、そもそも転生しているかもわからないので、そんな仮定のことに凹むのは止めて話を促す。
「なぜ聖獣さまがアカゴサライなどに捕まっておられたのでしょうか? 」
「俺の名前はカキ。 聖獣さまっていうの止めて」
「かしこまりました。 カキさま」
若干イントネーションが違って、柿ではなく牡蠣に聞こえるので訂正する。 何度かやり取りして、小首を傾げながらもちゃんとした発音になったところで話を再開。 だが困った。 マヌケにも上空を確認せずに、感情に任せて飛び上がったらガシリ。 と掴まれたなんて言えない……恥ずかし過ぎる。 だけどせっかく魔法に詳しそうなエルフに出会ったので、魔法について色々聞きたいことがあるため、正直に色々話してみることにした。 転生転移猫又ってことも全部。見知らぬ子供を攫っていると思って助けるくらいだから、人格的にも問題ないだろうしね。
「ふへ〜。 さすが聖獣さまですね。 違う世界で人間として生きていた記憶があるとは。 まぁアカゴサライに捕らえられたのも、そうであれば仕方がないかと思われます。 確かに少しおマヌケですが」
「マヌケ言うな」
「あっ失礼しました」
ポカーン。 と口を半開きにして聞いていたが、俺のここまでの事情を素直に受け入れてくれたようだ。 最後ちょっとクスクスと笑い声を漏らしていた……失敬な! まぁそのお陰で、若干フレンドリーになった気もするので良しとしよう。
「それでしたら、よろしければ我が里にお見えになりませんか? 私も食糧も捕れたことですし戻らなければなりませんので」
枇杷もどきしかこれまで食べていないことだし、魔法についてレクチャーして貰いたいので、エルフの里とやらにお招きされることにしよう。
「ところでその捕れた食糧はどこに? 」
「あぁ、この腰にある物は収納袋と言いまして、見た目よりもかなりの量が入るのです」
腰にあるウェストポーチのような物をポンポン。 と叩いて教えてくれた。 どうやらラノベ定番のアイテムバッグのような物らしい。
ちなみに食糧だが、にっくき始祖鳥ことアカゴサライのことのようだ。 エライザ曰くかなり美味しく、俺を掴んでいた太い脚は特に絶品らしい。
エルフに魔法、収納袋に美味しい肉!
テンションが上がって来たぞ〜!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます