8「協力」

引っ越してから、一年が経とうとしていた。

相変わらず、流の中には佐藤砂鉄がいて、鮎美の中には陸、空、海の意識が入っている。


この兄妹は、時々、お互いの情報を交換している。


周りからみれば、とても仲が良くみえて。


「あの兄妹の間に入るのは、とても難しい。」


と意識があった。


兄妹は、仲が良いのは、親としてはとても助かり、相続争いもなく、財産も協力して維持していってくれるだろう。





流が高校三年生、鮎美が高校二年生になった春。

家での出来事である。


鮎美のおもちゃで、一緒に遊んでいる時だ。

今日のおもちゃは、プラモデルのように組み立てられ、プログラミングが出来るロボットであった。

単四電池四本で動く。


電池といえば、先日の鮎美の誕生日。

四月四日。


「誕生日プレゼント何がいい?」

「単三電池、なるべく沢山。」


その様にいわれた時の流は、とても複雑であった。

高校二年生になる、年頃の女の子が欲しがるものが、単三電池である。


確かに、鮎美の趣味を見ると、電池は必要だ。

引っ越しをした日にメンテナンスをしていたおもちゃは、コースがありレースが出来るもので、単三電池が二本必要だ。


充電式にしたらどうだろう?と思ったが、鮎美はこだわりがあり、一般的の電池がいいらしい。

鮎美の部屋にあるおもちゃを見ると、単四電池を必要としたり、単一や単二もあった。


だから、一層の事、電池セットにして、単一から単四まで、なるべく単三多めで、もしも必要になった時の為に、充電式の電池も一緒にプレゼントしたら、すっごく、目を輝かせて、両手で受け取り、とても大切に胸に収納して、これ以上ないかわいい笑顔を、流に向けた。


この日は、鮎美自身の誕生日で、とてもかわいく髪も顔もセットしてあり、服もとてもかわいく、流の好みの服だったこともあり、流は、撃沈した。




その日の出来事が嘘なんじゃないかな?と思う位、今、目の前にいる鮎美は、オーバーオールであり、とても動きやすそうな服装だ。

髪も、ぐちゃぐちゃである。


「お兄ちゃん。間違えて、逆にはめてしまったの、ここ取れる?」

「えっ、どこ?」

「ここ。」

「貸して見て。」


一緒に作業しているのは、こういうことがあるからだ。

確かに、男の子の遊びが好きだからと言っても、手の力は女の子であり、力が必要になる物は、流が必要だ。


父が亡くなってから二年の間は、家も大変だったから、組み立てをしてこなかった。

それに、その一年は、高校入試があるから、遊んでいられなかった。


「はい、とれたよ。」

「ありがとう。」

「しかし、このロボット、俺も組み立てる必要あるのか?」

「兄妹で、おそろいのもの持っていても、いいでしょ?」

「俺は、福祉関係の仕事に就こうと思うから、その勉強の教材でもよかったんだぞ。」

「勉強ばかりだといけないよ。遊びも必要。」

「だとしても、これは。」


すると、鮎美は、一冊の雑誌を見せた。


「今の時代、福祉もロボットが介入する時代だわ。プログラミングの基礎位は、覚えて置いてもいいと思うの。」


雑誌は、介護や福祉の関係が載っているものだ。

流は、その雑誌を見て、目を丸くした。


「この雑誌、借りていいか?」

「別にいいよ。お兄ちゃんの事知りたくて買っただけだし、持って行ってよ。それよりも、ロボット仕上げて。」

「はい。」


雑誌を早く読みたかったが、今やっているロボット作成を完成してしまわないと、気になって仕方なかった。


ロボットが完成して、プログラミングをしようとした。

あらかじめ、こんな事も出来ますよって、説明書に書いてあったから、その様にしてみる。

手をかざすと止まり、動かすと付いてくる。

とてもかわいい。


「へー、こんなに小さいのに、こんな動きが出来るんだ。」

「しかも、パソコンにつないで、プログラミングを組み立てれば、他の動作も出来るって書いてあるわ。」


すると、流は、自分の使っていた道具を鮎美に返して、掃除し、ロボットと説明書、それと雑誌を持って自分の部屋へと戻った。



部屋に行くと、早速、パソコンの電源を入れる。



『おい、流。まさかと思うけど。』

「このロボット、利用させてもらう。」

『怖がらせるつもりか。』

「当然。怖いっていうのが無いと、血兄達が出てこないならな。」

『はー、だったら、俺も手伝ってやる。プログラミングは、血の収集で少し勉強をしたからな。』

「ありがたい。」


佐藤の協力もあって、とてもいいプログラミングが出来た。

流の頭脳は、佐藤から見ると、とても優秀である。

次元が違ったら、県立流石高校に入っていたかもしれない。


決行は、もう少し計画を立ててからになる。




流は、雑誌を手にした。

雑誌の表紙には、福祉の世界で活躍している一人のインタビューがあった。

父、歳三から、福祉関係にと言われたのがきっかけで、決意したのが、その人だ。


その人の言葉。


「協力は、神様が与えた三人が、一人の力になる」


鮎美の身体に流れている血は、仲の良い親友三人が宿っている。

最初は、鮎美を助けてくれた三人だと思っていたが、それは違うと認識したのは、佐藤の存在だ。


仲の良い三人と佐藤、その四人の共通点は、神だ。

後ろには、最高神という神がいると、流は考察した。

その四人が、自分達兄妹に力をくれている。


何の為に。


三人は近い内に消える。

それは、佐藤も消えると感じていた。


消えてもらっては困ると、流は思っていた。

だから、血兄達と一度、話しをしなくてはならない。

悪いが、怖がってもらうぞ、鮎美。





決行の日は、両親の再婚した日だ。

その日は、お互いに休みをとって、旅行に出かけると訊いた。

一泊二日だ。


その日になり、両親が仲良いのは嬉しいから、笑顔で見送った。


「さて、どうしようか?」

「いつも通りでいいんじゃない?」

「お互いに、家の事は出来るし、時間だけ決めよう。」


夕ご飯の時間、一緒に作るから、午後五時半。

その後、鮎美から風呂に入り、風呂を出た後、流が洗濯をして干す。

鮎美は、掃除をする。


アルバイトで清掃をしているから、とても手際が良かった。


怖がられるのは、その後で、落ち着いている時。


計画としては、一時的だがブレーカーを落として、確認する為に部屋を出た鮎美を、部屋の前に待機させたロボットが目を光らせて、怖がらせるというものだった。

だが、現実は、計画通りに上手くいかないが、違う方法で上手くいった。


それは、お互いに、自分の部屋に行く時、部屋の扉を開けた瞬間。


雷が鳴った。

今日は、朝から雨が降っていたが、まさか、雷が発生するとは思わなかった。

停電になった。


「お兄ちゃん、停電だよ。私、懐中電灯、部屋にあるから取りに行くね。」

「ダメだ。鮎美の部屋は、床にコースがあるだろう?足元が見えないと怪我をしかねない。動かず待て。俺の部屋にもあるから、取ってくる。」


懐中電灯を取りに、部屋に行こうとした行動を取った時、足がもつれて転んでしまった。

下に、鮎美になり、上に、流となった。


「お兄ちゃん。」

「鮎美。」


電気が復旧して、顔が近くにある。

鮎美は、口元を両手で覆い、流は、片手で口を覆っていた。


「お兄ちゃん、その。」

「あー、こういう時は、こっちが言わないとな。ごめん。」

「こっちこそ、あわてちゃって、ごめんなさい。……じゃない、なんで、頭打ったとか、そういう気がまわらないの?」


鮎美の口から、鮎美らしくない言葉が出ていた。


「陸兄ちゃん、別にいいのよ。良くない、鮎美、頭打ってない?大丈夫だよ。それよりも口が当たったってことは、もしかして。やだ言わないで。でも、こういう関係になるの、鮎美、望んでいただろ?それは言わないで。」


独り言をいう鮎美を流は見ると、流も。


「どうやら、流、三人の意識が出て来たみたいだぞ。そうらしいのと、俺達も出て来てないか?砂鉄。そうかも、あー、こんな形で出て来て良かったのか?」


独り言を言っている。


どうやら、先程の暗闇で、わからない程度に触れあった唇に、意識が乗り、出て来てしまったと、話しをして結論を出した。


「これからどうしよう。」


鮎美は、自分の口から血兄達が勝手に話し出すのを、不安がっていた。

今まで、血兄達が自分の中で話しをしていたから、内緒話っぽくて出来た。

それは、流も同じだ。


居間にて、お茶を淹れて、話し合いをしていると、流のスマートフォンが、流の部屋から鳴っているのが聞こえた。

流は、急いで部屋に行く。


「血兄達と、いつでも話しが出来ないと寂しいな。」

『そうだな。私も寂しい。』


鮎美は、自分の中で話しが陸と出来ていた。

効果が無くなったのかと思ったが、流が部屋から戻ってきた時には、やはり、自分の口から血兄達が話しをしていた。


「これって。」

「鮎美も気づいたか。俺も、今、部屋に行ったら、砂鉄と心の中で会話が出来ていた。」

「近くに寄ると、身体に宿っている魂が解放される。」


どのくらい離れたらいいのかと、実験した結果。

鮎美の部屋と流の部屋、廊下がある距離であった。

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