6「解除」
夏休みが終わり、テストがあった。
本を読む時間はあって、テストはいい結果を得た、流と鮎美。
鮎美は、転校して来てから、クラスメイトに恵まれた。
クラスメイトは、見た目で判断しなく、気さくに話しをしてくれる。
自己紹介をする時に、素直に男の子がやるおもちゃで遊ぶのが好きというと、就職を軸に考える学校だからか。
「おもちゃが売れると、需要が増えて、子供の遊びが増えるから、社会貢献だ。」という意見になり、とても重宝された。
どんなおもちゃがあるのかを訊いてくる人もいて、とても、気が楽になっていく。
本当は、趣味を隠さず、素直に話しが出来る相手が欲しかった。
それと、同士がいて、今度、一緒に自分の自信作を持って遊ぼうとなった。
とても嬉しかった。
当然、流にも、その情報は聞こえて来て、良かったと安心した。
それに、この高校は、家庭が複雑な生徒が多く、色々な考えをする人がいて、視野が広がっていく。
鮎美にとっては、いい環境であった。
上に兄がいると訊くと「先輩としての意見も訊けていいな。」と、うらやましがられた。
それを、夕食の時に、家族と話しをすると、転入をして良かったと思った。
引っ越してから、色々と変わりつつある中。
「今日、夜のアルバイトがあるから。」
流が言うと。
「私も、夜、アルバイトがある。」
続けて、鮎美も言った。
流の仕事内容は、企業秘密だから言えないが、鮎美は夏休みにやった清掃の仕事が、とても一生懸命していたから、その会社から辞めないでくれと言われ、それ以来、続けている。
いつも、午後三時から午後五時までの二時間だったが、明日、会社が株主総会を開くから、会社を念入りに綺麗にして欲しいと言われ、夜ご飯も出るし、残業でお金も多く入る。
時間は、夜八時までに、普段よりも綺麗にしてくれればと頼まれた。
それを訊くと。
「それはそれは、重要な仕事ね。」
「怪我の無いようにな。」
両親からは、一言貰い、流は。
「手荒れするから、帰って来たら、ハンドクリーム塗れよ。」
相変わらず、ケアを要求してきた。
とても兄らしい。
「わかったわ。」
そして、夜。
流は、佐藤になっていた。
佐藤は、眠っている流の身体を自由に動かす。
「さてと、今日の会社へと向かいますか。」
準備運動が終わり、今度は、引っ掛けないと誓い、アパートを出た。
目的の会社へと向かう間、流が眠る時の会話を思い出しては、顔をニヤケさせた。
数分前。
「このリンゴジュースが、まさか、睡眠導入剤だったとはね。」
『でも、神の領域にしかないリンゴだから、人間が口にするなんて出来ない代物だぞ。それに、眠りの神ヒュプノスの力もあるから、そんなの、レアのレアだ。ありがたく飲め。』
「でもな。」
『大丈夫だ。内緒で出来る能力もあるし、何かあれば、最高神が隠してくれる。』
「本当に、俺、心配しなくていいんだな。」
『任せろ。』
今までは、疑わずに飲んでいたリンゴジュースを、今回、とても、疑いながら飲んだ。
その顔は、とても、佐藤にとっては面白かった。
『さて、仕事仕事。』
佐藤は、いつもの様に、意識で、身体を透明化し、防犯カメラの映像を念じて機械をいじり違う動画へと切り替え、足音、足跡なく、宙に少し浮く。
血液パックが収納されてある部屋に来た。
鍵がかかっていて、暗証番号が必要だ。
だが、暗証番号を機械から教えてもらえる能力もあり、簡単に開ける。
今回は、目的の血液パック、三つだった。
いつもより多い。
いつもは、血液パック一袋だけだったから、不思議に思った。
しかし、血の能力を研究していた身としては、納得はした。
それと、いつも目的な血液しか取っていないから、人間が必要な量は影響しない。
最高神の計算で、動いていた。
そう、いつも、最高神の命令だから、きっと、大丈夫だろう。
何かあれば、最高神に任せればいい。
目的の血液パックを取れて、透明化した。
再度、鍵を掛けて、同じ暗証番号に設定をした。
会社の時計を見ると、午後八時になろうとしていた。
今日は、とても順調で去ろうとした時、前から清掃の人達が来ていた。
透明化しているし、宙に浮いているから、存在がない振りが出来る。
だから、問題なく、清掃の人達とすれ違おうとした時。
能力が解けた。
その瞬間、清掃の人達が、声を出したから、一気に逃げる。
逃げる時、振り返ったら、そこには鮎美がいた。
佐藤は、口にマスクをして、黒のゴーグルをしていから、見られてはいない。
しかし、あの顔は、兄に向ける顔であった。
逃げ切り、アパートに着いた。
血液パックをクーラーボックスに入れた。
息が、とても乱れている。
「何故だ、何故、能力が。」
身体が汗まみれだったから、風呂へと入った。
全てを綺麗にして、流が着ていた服に着替えた。
「どういう事だよ。最高神よ。」
すると、最高神の声が、上から聞こえた。
『わからない。けど、安心するがよい。今日、あの会社での出来事は、全て消した。』
「それはありがとよ。でも、今度も、こんな事があるなら、この仕事出来ないぞ。」
『この仕事は、一時中断しよう。』
「そうしてくれ。で?この事、流には?」
『説明をしておいてくれ。』
「話していいんだな。」
『よい。』
佐藤は、無理矢理、流を起こした。
そして、事を話す。
流は、頭を抱えた。
「生活は、普通にしていていいのは分かった。だが、鮎美に会うとは。」
『あの顔は、知っている顔だったぞ。』
「顔を隠していたのにか。」
『それほど、兄妹としての絆が深くなっていたのだろう。』
これからどうするかと思ったが、普通にするのが一番と思い、今まで通りにした。
それに、最高神が記憶を操作したといっていたから、鮎美の記憶にもないだろう。
クーラーボックスを、宅配ボックスに入れ、アパートの扉に鍵を掛けて、不安になりながら、家に帰る。
玄関には、鮎美の靴があり、帰って来ていた。
「おかえり。」
父が迎えてくれた。
母と鮎美は、もう寝てしまっていると訊くと、安心した。
「流、もし、今後、夜遅くなる仕事なら、辞めてもいいんだぞ。」
流に話しをする為、起きてくれていた。
「何を。」
「今までは、父子家庭だったけど、もう、家族がいるし、稼ぎも良くなって来た。だから、進学を考えてもいいと言っている。福祉関係に行くなら、それ専用の大学もある。だから、就職一本にする必要はない。」
「そうか。そうだな。……でも、今の仕事、好きなんだ。進学にしても、高校三年間は、この仕事を貫きたい。開いている時間は、勉強をするから、辞めさせないで欲しい。」
はっきりと意見を言った。
すると、父は、流の頭を乱暴に撫ぜて。
「分かった。なら、三年生まで、様子を見よう。ただ、進学も候補としておいてくれ。」
「分かったよ。父さん。」
父の気持ちを受け取り、部屋へと向かった。
部屋に入ると、電気を付けなく、ベッドに身体をうずめる。
「はー、辛かった。」
『お疲れ様。』
「そっちこそお疲れ様だよ。しかし、父さんがあんなに心配してくれるなんて、何があったんだろう?」
顔を横に向けると、そこには、一つの顔があった。
びっくりして、部屋の明かりをつけると、鮎美がいた。
「な、何をしているんだ?」
「ねえ、どうして、あんな黒ずくめで、私の仕事場にいたの?」
「えーと、それは。」
「それに、今、誰と話をしていたの?」
「あー、その。」
鮎美は、言い辛そうにしている流を見て、一息吐いた。
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