5「変化」
長良川家、朝の光景。
それは、玄関先で、この家に住む兄が妹の身なり確認である。
その為、玄関には、くし、粘着が付いているローラー、ヘアピン、髪ゴム、リップなどが用意されていた。
また、日焼け止めや虫よけもあり、妹のケアを行っている。
「あっ、また、手が荒れている。細目にハンドクリームつけろって言っているだろ?」
「ハンドクリームつけると、マシンのメンテナンス出来ない。」
「それでも、寝る前には必ずつけろ。それだけでも違うから。」
ハンドクリームも、追加して、妹の手に付けた。
「本当に、流が毎日、鮎美のケアしてくれるから、この頃の鮎美はとても綺麗だわ。ありがとうね。」
「いえ、俺が気になってやっているだけだから、母さん。」
「ここまで、世話が出来るとは、流は、将来、福祉関係の仕事が向いているかもしれないな。」
「福祉か。考えて見るよ。父さん。」
そんな三人の話しを訊きながら、顔や手に色々と塗られ、ケアをされている妹、鮎美は、近頃、悩みがあった。
それは、急に綺麗になって来て、クラスメイトの視線が違うのである。
「恋人でも出来たのか。」
噂がされていた。
県立流石高校の生徒は、「彼氏でも出来たのか」ではなく「恋人でも出来たのか」になったのには、前例があり、この地域で同性同士の結婚が認められ、第一号となった恋人同士が、この学校の生徒だったからだ。
色々な考察がされて、再婚した情報と合わせると、相手が兄だと知り、その兄との関係を話されていたのである。
だから、玄関のこの行為も嫌なのだが。
『この機会に、甘えて置け。』
『兄が、どこまで続けるのか、見ものだ。』
『鮎美がどこまで綺麗になっていくのも、楽しみだ。』
などと、血兄達が言うから、我慢をしている。
でも、綺麗になっていくのは、嫌ではない。
拳を作り、合わせて、学校へと登校していく。
この機会に、鮎美は考えがあった。
県立尊徳高校への転入である。
まだ、一年だから、今の高校に情はないし、女友達もいるにはいるが、知り合い以上友達未満なだけで、実際には、クラスメイト扱いだ。
一人、親友と呼べる人がいたが、親友は、遠くの学校へ行ってしまったから、少し寂しかった。
時々、手紙でやり取りをしている。
それを、今日、夕食の時に三人がいるこの時に話しをした。
すると、三人は驚いたが、両親は色々と大人の話をする。
流は、少し考えていた。
流側は。
『どう思う?砂鉄。』
佐藤砂鉄と、上手くやれていた。
お互いに相談、話し相手となっていた。
『高校生だろ?妹ちゃんが進学するなら、流石高校はいいが、就職するなら、転校もいいと思う。』
『だとすると、同じ高校に通う事に。』
『嫌なのか?』
『嫌ではないが。』
『男の影が気になるのだろ?だったら、いつも一緒にいれば、分かるし、もし、何かあれば守れる。スマフォ持たない妹ちゃんだから、さらにな。』
『そうだな。』
佐藤とは親友以上相棒以上となっていた。
「父さん、母さん、俺は賛成だよ。」
その流の一言で、決まった。
編入試験は、県立流石高校程難しくなく、就職を目当てとしているから、どちらかというと面接重視の試験であった。
流は、教師受けを良くする為、編入試験の時には、とてもきっちりと外見を良くみせていた。
だからではないが、合格し、夏休みになる瞬間に、編入になった。
夏休みの期間は、尊徳高校の生徒扱いで、宿題が出た。
夏休みに出される宿題は、指定された本を読む。
読んだ本の内容を記憶しているかのテストが、夏休み明けに一日かけてある。
後は、希望したアルバイトをして、その報告書の作成であった。
だから、そんなに多くないし、家で出来る。
もう、アルバイトは希望を締めきっていたが、特例として手配してくれた。
残っていたのは、会社の清掃であった。
身なりを気にしなくていい仕事に、鮎美は喜んだ。
「お兄ちゃん、ありがとうね。」
「何が?」
「両親の説得と、編入試験の時。」
「あれか、別にいいよ。」
すると、鮎美は、少し考えて。
「今日、時間ある?」
「今日は、アルバイトない日だから、時間あるよ。」
「ちょっと待ってて。」
鮎美は、居間で話をしていたが、部屋に戻り、十五分位経ってから来た。
その姿は、唇にはリップをして、髪は後ろで赤色のバレッタで留め、服は胸に紐状のリボンがされ、スカートもフワフワしていた。
いつもの私服は、タンクトップにスパッツみたいな、飾りっけのない。
「鮎美、その恰好。」
「へへへ、少しだけ自分なりにおしゃれしてみたの。ねえ、今から出かけない?」
「それって、デートってやつか?」
「兄妹で出かけるの、そういえばしてなかったなって思って。」
「だな。」
二人の会話を聞いていた、母は、感動して、お金を少し出した。
流は、断ったが、気持ちだけだからと受け取った。
流も、部屋に行き、出掛ける用意をした。
『へー、あの妹ちゃんがね。』
「かわいいよな。見違えた。」
『ああ、とってもかわいかったな。』
「どうしていいか、わからなくなったら相談乗ってくれよ。前世。」
『俺で良いのか?後世。』
「頼りにしている。」
『任せろ。』
玄関に行くと、靴もいつものスニーカーではなく、服に合ったのを履いていた。
きっと、母のを借りたのだろう。
母と鮎美は、ほとんど一緒のサイズだから、全てが共同で使える。
「お待たせ。」
流が言うと。
「今、来た所です。」
鮎美がいう。
すると、お互いに笑い、玄関を出た。
今日は拳ではなく、手をパーにして繋いでいた。
兄妹が訪れた場所は、色々な店が入っている建物にきた。
「さて、何処に行こうか。」
流が鮎美に訊くと。
「この恰好でおもちゃは、買いに行けないから、少し歩きましょう。」
「でも、俺がいるから、男の俺が欲しくて、その付き添いに来た風でもいいんだぞ。」
「でも。」
「本当は、欲しいんだろ?それに、情報は知っている。今日、発売のおもちゃ、一人一個なんだろ?保存用として、二つ欲しいんだろ?」
「うっ、よく、お分かりで。」
鮎美の趣味を知ってから、ネットで色々と検索をして、勉強をしてきた。
だから、新作の発売日の情報も得ている。
しかし、ネットも使わない鮎美は、どこで、新情報を掴んでいるのか。
訊いてみると。
「雑誌で見て得ている。」
「雑誌?」
「ほら、結構、分厚い雑誌。二つの会社から出ているから、二つとも発売日に買って、そこからの情報だよ。」
「ああ。あれか。ん?部屋のどこにあるんだ?」
「一度得た情報は、紙に書き写しているから、買って情報を得て、少し経ったら、処分している。そうしないと、前の家では、狭くなるから。」
「ああ、分かる。」
お互いに、引っ越す前は、アパート住まいで、家族が住むにはいいが、物が多いと狭かった。
「本当は、全部とっておきたかったけどね。」
流は。
「今の家なら、出来るよ。」
鮎美は、目を丸くした。
「そう、そうね。今の家なら。」
少し考えていた。
目的のおもちゃ屋さんに行くと、流は、自分が買いに来た設定になった。
そして、鮎美に一台持たせて、レジへと並ぶ。
レジの人が、一言。
「お兄ちゃん孝行かな?」
とても気さくに話しかけて来る。
鮎美は、レジの人とお金の取引をしている時間に話すのが好きで。
「ええ、お兄ちゃん、私の為に色々としてくれるから、そのお礼。」
「いいお兄ちゃんね。はい。シールでいい?」
「はい、シールでいいです。」
品物に買いましたという印のシールを張って貰い、少し離れた所にいる流に向かっていく。
流は、その会話を聞こえてしまったから。
「ありがとうな。」
その一言をレジの人に聞こえる様に話すと、歩いて行く。
「本当は、妹孝行だけどね。」
小さく発すると、鮎美は、流の腕を掴んだ。
少し、腕に意識を映す流。
「ありがとう。そのお礼。」
その時、鮎美の中では。
『さー、兄として、どう行動を取るか。空、どう思う?』
『陸、俺は、照れて、拒否をしたら、脈ありだと思うぜ。海は?』
『僕は、そのままにすると思います。陸は?』
『私は、照れているけど、そのままにすると思う。』
そんな風に会話をしていた。
鮎美は、その会話を聞いているから、流がどんな態度を取るのか、ドキドキだった。
すると、流は。
「今は、抱きしめるの、このおもちゃだろ?」
自分の持っているおもちゃを鮎美に渡した。
鮎美は、自分のと流に渡されたのと、二つが腕の中にある。
キョトンとした。
「なんだ?」
「ううん。ありがとう。」
「良かった。」
その後、色々な店を見て、ショッピングを楽しんだ。
ゲームセンターも寄って、二人で出来るゲームを中心に遊んだ。
ここでの話しだが、鮎美の姿は、とてもかわいくて、声を掛けようとした男性がいた。
しかし、知らない間に、流の存在が、それを阻止していたのは、砂鉄と血兄達は知っていた。
血兄達は、自分の役割を終える時は、流が完璧に鮎美にとって、兄以上になった時だと思っていた。
その間は、思いっきり、楽しもうと思っていた。
家に帰ってくると、午後五時で、丁度、玄関で帰宅した父と一緒になった。
「なんだ、出掛けていたのか。」
その問いから、今日の事を話すと、父は微笑んで、嬉しがった。
「兄妹仲良いのは、とても良い。」
一言を届けて、居間に行くと、母が、豪華に料理を用意していた。
「兄妹、仲良いから、ちょっとはりきっちゃって、作りすぎちゃった。」
嬉しそうに話すから、流も鮎美も、そして父も、頑張って残さず食べた。
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