4「怪我」

引っ越ししてから、一ヶ月が過ぎた。


「今日は、夜、アルバイトがあるから、少し遅くなると思う。」


朝食の時に、両親と妹に報告した。

父は、時々あるから、了解した。


「どんなアルバイトなの?」


母は聞くと。


「企業秘密だから言えないんだ。けど、危なくはないから安心して。」

「そうなの。だったら、夕ご飯は?」

「仕事場で出るからいらないよ。」

「わかったわ。」


すると、鮎美は。


「何時位に、いつも帰ってくるの?」


流を見ながら訊く。


「十時は過ぎるよ。」

「十時?いいの?未成年にそんな時間まで。」

「未成年の働く時間は、午前五時から午後十時なんだ。だからギリギリだけど、大丈夫。」

「そうなんだ。気を付けて帰って来てね。」


鮎美の顔は、心配をしていた。

だから、鮎美の頭を撫でて、安心させた。

その様子を見た両親は。


「義理の兄妹は、結婚出来るのよね?」

「そうだね。もしも、流、鮎美さん、二人が良ければ、いいんだよ。」


すると、流と鮎美は、顔を赤くして。


「何を言うんだ。父さん。母さんも。」

「全く、兄妹として接しているのに、そんな考えしないでよ。」


意見した。

両親は謝りながら、それでも可能性として許可をした。




玄関から出て、鮎美が拳を出すと、流も拳を出し、合わせてから、それぞれの高校へと登校する。


もう、これが、兄妹の「いってきます」になっていた。



流は、午前二時に学校が終わる。

例のアパートに来た。

今日の指令書は、男子高校生の昼寝についてだ。

気持ちがいい布団が用意されて、その布団のモニターも含まっている。


時々、この指令があり、起きると、夜十時になっていた。

毎度「昼寝じゃない」と思っていた。

今回も、その時間になるのは、分かっていた。


寝る前に、約束事が三つあった。

一つ、黒いジャージに着替える。

二つ、寝る前には、ジュースを飲む。

三つ、帰る時は、風呂へ入っていく。


時間を見ると、午後三時半だ。


黒いジャージに着替えて、ジュースを飲んだ。

そして、布団に入ると、何故か、自然と眠りに落ちる。







目を覚ますと、身体を起こして、伸ばす。

横には、お弁当とお茶が用意されていて、時間を確認すると、午後九時半過ぎだ。


「また、昼寝ではなかった。」


しかし、今回は、自分の身体に変化があった。

いつもは、寝て起きる感じで、疲れも少しはあるが、怪我はない。

だが、今回、怪我をしていて、包帯がまかれてあった。


既に、風呂へ入ったのか、身体からは石鹸の香りがしていた。


「寝ている間に何があった。」


自分の身に何が起きているのか、わからなかった。


ふと、周りを見ると、見慣れない箱があった。

それは、クーラーボックスで、中身を見ると、血液のパックが入っていた。

氷で敷き詰められていた。


「なんで、こんなものが……警察、警察に連絡しないと。」


スマートフォンを操作しようとするが、手が震えて出来ない。

その時、頭に話しかけられた。


『警察はやめろ。長良川流。』

「え?誰?」


混乱している流を冷静にさせる為に、落ち着かせた。

その後、話をする。


『私は、君の前世、佐藤砂鉄さとうさてつだ。』


佐藤の話しだと、前世、佐藤は血には能力があるのを発見して、研究をしていた。

しかし、その研究内容は、人間がしてはいけなく、囚われてしまった時に、自分の命を断った。


長良川流に転生してから、ある日。

寝ている時に、どこからか声が聞こえて来て、急に目覚めさせられた。

その声は、神様の一番上にいる最高神であった。

どうやら、この時点から、長良川流が寝ている時に佐藤砂鉄が出て来れる。

そして、最高神と話しが出来るのである。


その最高神から、黒神という神に血液サンプルを送って欲しいと、依頼された。

長良川流は、普通の高校生で出来ないというと、内緒で出来る能力をくれた。

能力は、透明化、窃盗、偽造、情報操作、記憶操作等、内緒でやる仕事だからこそ、内緒で出来る能力をくれた。

だが、それには、流が寝ている時ではないと、発揮出来なかった。


佐藤砂鉄として生を得ていた時。

血を採取して、能力研究を行い、世界中の生命を脅かす液体を、一人の少女を生贄に作り出してしまい、困らせてしまった。

最高神から依頼されたという事は、これが贖罪なのだろう。

だから、素直に従った。


ジュースは、神の中でも禁断とされているリンゴを使っており、それが地上のリンゴではなく、神の領域にあるリンゴを使用しており、眠りの神ヒュプノスが力を加えて、一時的に眠れるリンゴジュースへと変化させたものであった。


そこまで話すと、今回の怪我を訊く。


『不覚にも、転んでしまってね。』

「転んだ?」

『サンプルをとある機関から取ってきて、去る時、駐車場にあるフェンス替わりにあるポールにかかっている鎖が、思ったよりも高くて、足を引っかけてしまってね。』

「あれは痛い。」

『全く、鎖なんて、もう、見たくないのに。』

「何か事情があるんだね。待て、だったら、今までのも。」

『そうだ。血液をとある機関から、取ってきた。』

「俺の身体で?」

『そうだ。』


すると、一気に、血の気が引いた。


「俺の身体で何をしてくれているんだ。防犯カメラとかに映っていたら、事件になるぞ。」

『その為の能力だ。事件にならないし、何かあれば最高神が情報操作をする。』

「安心していいのか?」

『普段の生活をしろ。と言いたいが、前世の私と話しが出来てしまったな。これから、よろしくな。』

「よろしくされたくない。」




その日は、怖さで、家に帰って来ても、眠れなかった。



次の日。



『おい、いい加減慣れろ。』


頭に響く声に、流は、夢なら覚めろと願っていた。

しかし、夢ではなく、昨日の怪我が現実を教えてくる。


「今日は、学校休もうかな?」

『なんて言って?』

「熱とか。」

『体温計でばれる。』

「この怪我で。」

『擦り傷程度だ。』

「じゃあ、精神的で。」

『新しく出来た家族を心配させたいか?』

「うっ。」


流は、砂鉄と頭の中で話しをしていると、部屋の扉をノックされた。

身体がビクと反応する。


「お兄ちゃん。起きてこないけど、大丈夫なの?」


鮎美は、扉を開けて入ってくる。

ベッドにいる流を見ると、少しだけ間があり。


「ごめん。そうだよね。朝は男の子って。」


部屋を出た。


「そんなに元気なら、早く、起きてご飯食べてよ。一緒に家を出よう。待っている。」


部屋の前で、言葉を残して、階段を下りて行く。

その音を聞きながら。


「おい、どうしてくれる?何か勘違いをしたぞ。」

『早く起きない流が悪い。』

「お前が、出てきたのが悪い。」


仕方なく起きて、制服に着替える。

学校へ行ける用意をして、居間へと来た。

もう、父は出勤していて、母は流を心配して待っていた。


「鮎美から訊いたけど、大丈夫なの?」

「はい。昨日、怪我をしてしまって、少しだけ起き上がるのが、遅くなっただけです。」

「怪我?アルバイトで?見せて。」


包帯で巻いてあるが、そんなに大げさにしなくてもいい怪我であった。

擦りむいただけと砂鉄は言っていたが、本当に擦りむいただけだった。

包帯をしていたのは、血が止まっていなかったから、その押さえであった。


「これくらいなら、大丈夫そうね。気を付けてよ。」

「はい。ご心配おかけしました。」

「全くよ。さ、ご飯食べて、鮎美、玄関で待っているわよ。」


大き目の傷を覆うガーゼが付いたシールを張って、治療をされると、急いで食べて、玄関に向かった。

玄関では、座って、鮎美が待っていた。


「お兄ちゃん。大丈夫なの?」

「大丈夫だよ。心配かけたね。」

「そうじゃなくて、その。」


少しだけ、言い辛そうにしている鮎美に説明をした。


「あのな。勘違いだ。怪我をしていて、起きにくかっただけだから、男性の体調とか考えなくていいからな。」

「怪我?」

「母さんに見せて治療もして貰ったから、安心しなさい。」

「わかった。」

「全く、どこで、そんな知識を得て来るのか……、鮎美、そういう可能性も考えていなかったが、彼氏いるのか?」

「は?」

「だって、男の子の趣味といい、男勝りといい、その知識といい、近く男がいないと得ない知識だろ?」

「彼氏いないよ。」


玄関で、靴を履きつつ、今日の鮎美の恰好を見て、手でだけど髪を見える程度にセットして、確認したのち、扉を開けながら、話しをした。


「そういう、お兄ちゃんこそ、彼女は?」

「いないよ。」

「なら、良かった。ね、お互いに二十歳まで、付き合う人がいなかったら、両親の言葉ではないけれど、結婚しない?」

「え?」

「約束。」


今日は、拳ではなく、小指を立ててきた。

その小指に、自分の小指を絡めてしまったら、どうなるのか。


すると、砂鉄が。


『いいじゃない、義理なんだろ?しちゃえよ。』


といい。

一方、鮎美側の血兄達は。


『さあ、どんな行動を起こす?』


と、試していた。


「やべー、もう、こんな時間。」と言って、走っていく県立流石高校の制服を着た男子高校生が、自転車を走らせていた言葉に、流は自分のスマートフォンを見ると。


「遅刻だ!」


その言葉で、鮎美も急がなくてはいけなくなり、いつも通り拳にして。

「いってきます。」といい、合わせて、学校へと登校した。


砂鉄と血兄達は、「ちっ、もうちょっとだったのに。」と同じ感想を持っていた。

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