3「血兄」

「危なかった。」


鮎美は、引っ越し祝いパーティーが終わった後、部屋に戻ってきた。

鮎美の部屋は、入口から、正面に机があり、床にはマシンを走らせるコースがある。

机の引き出しには、工具や機械が入っている。

机の上には、プラモデルのカラーインクが、綺麗に揃えてあった。


机の横には、引き出しがあり、それらには予備パーツが綺麗に整頓されて収納してある。

本棚には、自分が好きな作品が飾ってあった。


右側には、ベッドと箪笥があり、箪笥は自分の服や下着が入っている。

制服は、ベッドの脇に壁からかかっていた。


『危なかったな。』


鮎美に声をかける。

それは、鮎美にしか聞こえない声だ。





声が聞こえ始めたのは、父が亡くなった日からだった。

父が亡くなり、母が泣いて、通夜の日。

目を覚まさない父の顔を見ながら、これからどうしていこうと思った時。


声が聞こえた。

声は、周りを見回しても、誰もいない。

母は泣き疲れて、仮眠を取っている。


『声が聞こえますか?』

「はい、聞こえます。あなたは?」


会話を続けると、どうやら、この声は、三人いて、産まれた時に血を与えてくれた三人だと知った。

悲しい衝撃があり、意識として目覚めた。


「で?私に声をかけてきて、どうしたいの?」

『どうもしないよ。ただ、何故、意識体である私達三人が出て来れるか、わからないんだ。』


主に話をしていた人の横から、鮎美に話しを二人目がする。


『見解では、守ってくれる父親という人がいなくなり、警戒という意味で、無意識に鮎美さんが出したと思う。』

『なるほど、警戒心が強まったという事か。』

『その可能性はある。』


三人が会話をしていると、鮎美は、少し笑った。

今まで父が亡くなり悲しかったが、三人が鮎美について話しをしているのを訊くと、とても嬉しくなった。


「ねえ、自己紹介して。」


その一言で、三人は。


『私は、陸。』

『俺は、空。』

『僕は、海。』


話しをしていくと、三人は、とても仲が良い親友だという。

現在、この三人はというと、とても立派な社会人となり、家族もいる。

毎年、三人で一緒に献血をして、社会貢献する、とても頼もしい人物になっている。


十六歳で献血が出来るから、この当時は、鮎美にとって兄が三人出来た感覚だ。


それからは、兄が父親の代わりとして、傍にいて、色々と教えてくれた。

その一部として、自分を守る術の中に、少しだけ男の子っぽくするのを教えていた。

鮎美の考える男の子っぽいとなると、と考えて、今現在に至る。





『それにしても、新しい兄は、とても頼もしいな。』

『そうだね。最初の呼び方、お兄ちゃんって呼んでみなっていうのを、鮎美は実行してから、兄らしくなってきているじゃないか。』

『それから、わざと、髪を少し切ってみたら?と言って、あの行動とは。』


そう、今までの行動は、血にある三人の兄…長いのと言い辛いので、血兄達にしよう。

血兄達が、新しい兄の見定めをしていた。


だが、適切な距離と行動、それに言葉をしていたから、今の所、評価は高い。


『でも、どうしますか?まだ、試練与えます?』


海が訊くと。


『まだだまだよ。俺達の鮎美を任せるには、まだだ。』


空が答え。


『だったら、もう少し様子をみよう。』


陸が結論を出して、この話しは終了した。

鮎美は、これでいいのかな?と思ったけど、新しい兄、流には少しだけ惹かれていた。


机の一番下の引き出しを開けると、そこには、女の子が興味持っているリップもマニュキュアも乳液や化粧水、除光液もあり、くしとドライヤーもあった。

ヘアピンや色ゴム、バレッタ、リボン、つけまつ毛、顔を綺麗にする機械などもあった。

一応は、自分は女の子だと意識をしていて、適度にしている。

だが、それは気づかれない程度だ。



それに、食事の時は、ないと言ったが、本当はあったのである。



女の子っぽくして、町に出た時だ。

一人の男性に声を掛けられ、肩に手を置かれ、無理矢理人気のない所に連れて行かれた。

怖くて、声が出ずに、自分はどうなるのかと思い、男性が連れて行く建物に入ろうとした時だ。


恐怖で、急に、目の前が真っ暗になったと思った。

目を開けた時、男性はいなかった。

ただ、手が拳を作っていて、少しだけ痛みがあり、しびれていたのを記憶している。

それだけだ。


それ以来、声を掛けて来る男性がいて、怖いと思うと、同じ現象になった。

だから、誰かが助けてくれていると思った。

スマートフォンを持ち歩かないのは、個人情報を見られて、家まで付いてきたり、脅迫されたりするのを拒否する為である。


何故か、怖いと感じると、助かっているので、必要はなかった。




「で、今度は、何をすればいいの?」


海は。


『では、一緒に、男の子の遊びに誘ってみては?』


空が。


『乗って来たら、いい兄だ。』


陸に。


『乗ってこなかったら、無理矢理でも誘え。』


鮎美は、血兄達の意見を聞いた。

早速、流の部屋に来て、扉をノックする。

中から、声が聞こえて来た。


「鮎美です。入ります。」


鮎美は、流の部屋に入る。

流の部屋は、入口を入ると、壁一面に本が本棚に収納されていた。

パソコンもあり、机の上に置いてある。


入口の壁に沿って、ベッドがあり、その横に机がある。

服は、ベッドの上にポールがあり、かかっている。


流は、パソコンを触っていて、少し見るとエクセルが表示されてある。


「何?」

「今、何かやっていたの?」

「ああ、いつもの通り、食べた物を記録しているんだ。」

「へー、あっ、今日のスープパスタどうだった?」

「おいしかった。あのような食べ方があったなんて、驚きだ。」

「本当?あの料理なら、私も作れるから、もし、作って欲しい時は言ってね。」

「料理出来たのか?」

「失礼な。二年位は、母子家庭だったし、一応は女の子なんだから、プライドとして作れるよ。でも、美味しいかは、別だけど。」

「重要なのは、そこだろ。」


そんな会話をしながら、要件を話す。


「ねえ、今から、遊ばない?」


持って来ていたのは、ペットボトルのふたを飛ばす遊びだ。

そのおもちゃも、手に持って来ている。


「うーん。どうしようか。」


流は、そんな遊びはした事がなく、困っていた。

無理矢理でも誘えだったわ。と思い。


「お兄ちゃん、あそぼ。」

「うーん、分かった。」

「やった。」


心の中で、鮎美は「誘えたよ。お兄ちゃん達。」と報告すると、『よかったな。』と返ってきた。


鮎美の部屋に来て、兄妹で遊ぶ。

他の遊びもあり、ドンドンと遊んだ。


流は、家の事をしなくてもよければ、もしかしたら、こんな風に友達と遊べていたかもしれないと思い、子供時代の遊び時間を、今、取り返していると感じた。

相手が、友達ではなく妹だが、それでも良かった。


楽しく遊べて、とても楽しかった。


「また、遊んでね。」


鮎美は言うと、流は了解していた。

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