2「登校」

引っ越しした次の日。


流は、洗面所で顔を洗って、保湿を行い、髪をくしで解き、左右に確認していた。

その時、鮎美が来た。

女の子は、朝の用意が時間がかかるのを知っていた流は、場所を開けようしたが、鮎美は手を洗うと、そのまま居間へと行く行動をした。


「ちょっとまて。」

「何?ああ、そうね。おはようございます。お兄ちゃん。」

「ああ、おはようございます。ではない、まさか、その顔と頭のまま学校へ行くっていうんじゃないだろうな?」

「え。そうだけど。」


流は、鮎美を昨日の椅子に座らせた。


「ほら、髪、綺麗にしてやるから。」

「いいよ。いつもだし。」

「いつもだと。」


聞くと、いつも、起きたら手を洗って朝ご飯食べて、制服に着替えて、学校へ行く。

それを訊くと、頭を抱えた。


「いいか、見た目っていうのは大切なんだよ。何時、周りから評価されるのか。」

「周りは気にしないわ。」

「気にしろ。ほら、昨日、折角綺麗にそろえた髪なんだから、綺麗にしてくれよ。」

「そうでしたね。お兄ちゃんが綺麗に切ってくれたのでした。」


流は、鮎美の髪を解いて、綺麗にした。

少し気になって。


「まさか、昨日、髪を洗った後、ドライヤーで乾かしたりは。」

「してませんよ。自然乾燥。」


さらに、頭を抱えた。

流は、顔を洗い方を教え、保湿もした。


とても、綺麗になったから、流は満足していた。

その姿を見る母は、目を丸くしていた。


「鮎美なの?すっごくかわいい。」

「そう?」

「ええ、すごいわ。少し手を加えるだけで、こんなにかわいくなるなんて。ありがとう。流君。」

「いいえ、普通にしただけですから。」


それでも、見違えた鮎美を抱きしめた。

鮎美は、母が喜んでくれたのが嬉しかった。


顔洗って、保湿して、髪を解く、それだけで母が喜んでくれるなんて、思わなかった。





それから、朝食を摂り、きちんとして、学校へ向かう為に玄関を出た。


「「いってきます。」」


仲良く、登校する。

なんだか、昨日から、趣味を見せ合い、触れて、世話をし、してもらったからか、距離がとても縮まっていて、普通に兄妹と認識していた。


「じゃ、お兄ちゃん行ってきます。」

「うん。鮎美も。あっ、連絡先、交換しよう。」

「連絡先?私、持ってないよ。」

「は?スマフォ持ってないの?」

「うん。必要ないからね。」

「なら。」


流は、カバンからノートを切って、自分の連絡先を鮎美に渡した。


「何かあったら、いつでもかけてきていいからな。」

「ありがとう。でも、きっと、必要ない。」

「でもだ。お守り替わりにでも、持っていてくれ。」

「お守り……そうね。」


鮎美は、連絡先の書かれたメモをカバンにつっこんだ。

そして、流の前に拳を向ける。


「これ何?」


流が訊くと。


「拳と拳を合わせて、任せろとかやらないの?」

「やらないよ。」

「だったら、やろ?」


さらに、鮎美は拳を差し出した。

仕方なく、流は鮎美の言う通りにすると、お互いの高校へと歩き出した。





流は、拳を見ながら、ため息をついた。


「どうした?流。」


声を掛けて来たのは、親友の結城だ。

羽賀結城はがゆうきは、小学生からの親友で、母が亡くなってからも一緒にいてくれた。

家の事をするといい、遊ばなくなってからも、邪魔しないからといって、家に来て一緒にいてくれた。

だから、父が帰ってくるのが遅くても、寂しくなかった。


「親父さん、再婚して、昨日辺りに引っ越したんだろ?相手の子とはどうなんだ?」

「疲れる。」

「は?」


結城に、昨日の出来事を話すと。


「それは、男勝りの妹さんだな。」

「だろ?女の子の想像、壊れたよ。」

「いや、その妹さんが特殊だ。女の子なんて、ほら。」


周りを見ると、クラスメイトの女子は、爪を手入れしていたり、顔を気にしていたり、髪の先をいじっていたり、地味な子であっても髪は解いてきていて、ゴムで括っている。


「それすらもしないんだよな。素材はいいんだから、もっと、おしゃれしてもいいんだと思うけど。」

「何か理由があるんじゃない?」

「理由ね。」


流の顔を見ると、話題を変え。


「そういえば、バイト、今日はあるのか?」

「バイト、ああ、あるよ。」

「なら、一緒に帰れないな。」

「結城は?」

「俺は、夕方から、皿洗いのバイトがある。」

「お互いにがんばろうな。」

「おう。」





流が通う県立尊徳高校は、二宮金次郎の精神を大切にしている。

だから、勉学と労働を兼ね備える為に、生徒にはアルバイトを推奨している。

事情により労働は出来ない生徒もいるから、強要はしていないが、労働していない生徒には学校から学力アップのテキストを渡されている。

無理なく出来るように、学校は他の学校よりは早く終わり、午後二時には下校となる為、部活動は無い。

簡単にアルバイトが出来る情報を、常に発信していた。


校門をくぐると、そこには選挙ポスターが張れる板位の大きさをしたモニターが横に並んで三枚あった。

モニターには、アルバイト一覧が表示されている。

アルバイトをしたい場合は、モニターに映し出されているアルバイトの詳細が書かれている項目に指で触り、詳細が裏返ると、学校から提示されている生徒番号を入れる。

生徒番号は、何年何組何番と、自分が決めた三桁の数字を入力する。

一年一組一番で三桁の数字が123だった場合は、010101123と入力する。

二年三組十五番で三桁の数字が789だった場合は、020315789になる。


入力をして完了を押すと、詳細が表向きに直る。

すると、アルバイトを受ける意思表示をしたと認識される。

自分が決めた三桁の数字は、いたずら防止だ。

入学手続きをする時に、三桁の数字を決めて、記載してある。





流は、父子家庭であったから、この学校が丁度良かった。

アルバイトは、一年生の時からやっているのを、続けている。


学校が終わり、午後二時半。

アルバイト先へと行った。

そこは、アパートの一室であった。


一室に入ると、玄関にある靴箱の上に指令書が置いてある。


「今日は、この部屋にある袋から、服を出して、アイロンをかけ、トルソーに着替えさせて、写真撮って、ネットで売る。入金が確認出来た後、梱包して、送るか。」


袋は、一袋あり、服が入っている。

大きさは、一般的なごみ袋で、服の数は、そこそこだ。

洗ってあり、綺麗に畳んであった。

しかし、折り目が付いているので、トルソーに着せる前に折り目だけはアイロンで無くして、写真を撮る。


アイロンをひたすらかけて、トルソーに着せて、写真を撮る。

用意してあるサイトに写真を載せて、購入者が現れるまで待つ。

このサイトは、とても人気があって、載せてから一日で全部が無くなる。

入金は、ネット銀行を使っており、この部屋で出来て、しかもリアルタイムで確認が出来る。


確認が出来た後、梱包作業に入る。


「しかし、黒い服ばかりだな。」


いつもだが、黒い服が多く、とても生地や作りもいい。

どこのメーカーかは分からないが、ハルキとかアカとか、他の名前の札があるのを確認している。


「この服なんて、俺が欲しいくらいだ。」


身体に当てて見ると、とてもかっこいい。

でも、これは売り物と心に言い聞かせて、梱包作業をした。

梱包作業が終わると、贔屓にしている宅配業者に連絡をして、取りに来て貰う。

来ると、アルバイトは完了だ。


今日は、服の梱包だったが、日によって仕事内容は違う。


先日は、リストにある物を買いに行って、梱包して、宅配ボックスに入れるだった。

宅配ボックスには、薄くだけど、魔法陣っぽい模様があって、その上に置いて、扉を締めると、中で淡い光がする。

一度、その後、開けて見ると、荷物は無かった。


その魔法陣は、部屋の中にもあって、今日、袋があった所の下に描いてある。




召喚に転送をしているらしい。

この不思議現象の仕事をしていると、現実に戻りたくなる。


現実?


時間を見ると、もう、午後六時だ。

帰らないといけない。


自分の荷物を持って、アパートの鍵をかけ、帰る。

帰宅すると、お帰りと出向いてくれた。


「今日は、遅かったんだな。」


父が、いつもは午後五時には終わっているから、心配していた。

後少しで、連絡する所だ。


「おかえりなさい。夕食、用意出来ているわ。」

「今日、引っ越し祝いでしたね。」

「そうなの。さ、早く、手を洗ってきて。」


居間に行くと、鮎美がいた。

鮎美を見ると、ただいまというと、おかえりと返ってきた。

それから、引っ越し祝いパーティーになり、食事をし、色々と話しをし、家族の事を知れた。


その話しの中で、鮎美は、産まれた時に三人の男の子に輸血をして貰ったのを訊いた。

だからではないと思うのだが、男の子の趣味が好きなのかもしれないと、母は考察していた。

もっと、女の子らしくして欲しいのが、母の願いだ。


確かに、元はとてもかわいいのだから、きちんとすれば、素敵な女性へと変化するだろう。


「もう、私は、見た目気にしないし、趣味も好きなの。」

「でもね。もっとおしゃれをしてもいいと思うの。ほら、リップとか色付きでいっぱいあるのよ。」

「興味ない。それよりも、プラモデルのカラーに興味があるわ。」

「はぁ。ねえ、流君。どうにかならないかしら?」


流に話しが回ってきた。


「確かに、おしゃれすればいいと思う。無理にとは言わないけど、朝、顔洗ったり、保湿したり、髪はドライヤーで乾かして、解かすだけでも、してもいいと思うぞ。」

「そう?」

「そう。」

「お兄ちゃん、喜ぶ?」

「ああ、喜ぶぞ。」

「私が綺麗になって、他の男の子から声を掛けられて、肩に手をまわされ、力任せに連れていかれても?」

「え?」


その一言で、家族が凍り付いた。


「それって。」

「まあ、そんな事ないけどね。」


家族が心配する事を、スラリという鮎美に、流は。


「ほら、父さんと母さん、心配しちゃったぞ。」

「そうなの。ごめんなさい。そんな事実、今までもないから。」

「ないの?本当に?」


母は、心配をさらにした。


「ないよ。こんな男の子の趣味丸出しの私に、声かける人なんていないよ。」

「もし、あったら、ちゃんと連絡しなさいよ。」

「分かっているって。」


連絡と訊いて。


「母さん、鮎美は、スマフォ持っていないのですね。」

「ええ、持たせようとしたけど、断られて。」

「だって、個人情報を持ち歩いているんでしょ?こわいじゃん。」

「だからといって、今、言ったみたいなことがあったら。」

「大丈夫だって。」

「こんな時、何処にいるか分かれば、安心するんだけど。GPSっていうの。」


家族が、鮎美の心配で連携が取れた瞬間だった。

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